ウィルコムが“予想外”だったこと

» 2006年11月15日 20時00分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 ウィルコムは11月15日、都内で事業説明会を開催した。10月26日付けで新社長に就任した喜久川政樹氏(10月26日の記事参照)、営業統括責任者の土橋匡執行役員副社長、技術統括責任者の近義起執行役員副社長ら新経営陣が、今後の戦略方針や抱負を述べた。

MNP導入の影響は?

photo ウィルコム 代表取締役社長 喜久川政樹氏。手にするのは発売間近の「9(nine)」

 最初に登壇した喜久川氏は、現在の経営状況と、今後の事業展開を行うための「4本柱」を説明した。同社PHSサービスへの加入者数は2005年度下期から約37万件の純増となり、2006年度上期は426万件となった(11月8日の記事参照)

 「加入者の増加に伴い、収益は堅調に推移している。営業収益は約1230億円で前年同期比は127%、これに伴う営業費用の伸びは117%に抑えられており、健全な形で成長している。また、営業利益・経常利益ともいまだ赤字だが、営業利益で約84億円、経常利益で約100億円、EBITDA(営業利益+減価償却費等)で58億円を改善し、着実に黒字へ向かっている」(喜久川氏)

 純増数の増加に寄与し、好調な収益を支えるのが同社のデータ通信・音声通話定額サービスだ。ただし、定額制であるがゆえにARPUの低下という副作用も起こっている。「定額制の導入で一時的にARPUが大きく下がった。ただ、2004年下期の4330円から2005年上期に4140円と190円だった下げ幅が、2005年下期には4080円で60円差、2006年上期に4040円で40円差と少なく落ち着いてきている。品質やサービスでユーザーに迷惑をかけず、4000円程度のARPUで収益を改善していることは決し悪い材料とは思っていない」(喜久川氏)

photo 加入者の増加に伴い収益は堅調に推移

 携帯キャリアと比べると2000円低いARPUでありながら、単月黒字を達成した月もあるという。現在は半期決算で赤字だが、通期での黒字決算も現実的と見ている。

 また、今後の事業展開で喜久川氏が挙げるのが、「料金サービス」「プロダクト」「サービスエリア」「マーケティング」の4本柱。一定の成果を上げている定額制をより推進していくほか、W-SIM端末のラインアップ増強や、マイクロセルを生かした厚みのあるサービスエリアの拡大を行い、口コミによるバイラルマーケティングで攻勢を強めていく方針だ。

photo ARPUの減少は落ち着いてきている

 番号ポータビリティによる影響についての質問には、「10月末の加入者数に約10%(減少)ほど影響がでている。MNP開始に合わせてさまざまな発表がなされたことは、ある意味で市場が混乱し、よくいえば活性化したといえる。なお、この影響は11月に入って落ち着き、回復している。もともとMNPの対象外であるため、中長期に見て、どういった影響があるのか判断したい」(喜久川氏)と答えた。

“注釈”が少ないウィルコムの定額プラン

photo ウィルコム 執行役員副社長 土橋匡氏

 続いて営業部門を統括する土橋匡執行役員副社長が、同社の定額プランの現状と今後の戦略を解説。まず、定額通話に関してソフトバンクモバイルの定額プランと比較した。

 「すべての時間で定額になるのもウィルコムだけ。ちなみに、定額プランを使った通話は“夜の9時から24時59分59秒まで”が55%と集中している。さらに、料金表にある“注釈”が少ないのも特徴。2時間45分以上の連続通話には課金することと、16時間以上の連続通話は切断する場合があるという2点のみで、ほとんどの方なら意識しなくても良い内容になっている。また、070番であれば他社回線でも定額になるのが我々の定額(10月18日の記事参照)。携帯では番号だけで定額通話先か否かの判断ができないので、この点は今後も訴求していきたい」(土橋氏)

 PHS間の通話が定額であるだけでなく、携帯電話への通話は30秒13.125円、一般回線へは30秒10.5円と他社回線への通話が低額であることや、すべてのEメール料金が含まれていること、パケット通信の料金についても低額であることが強みだとする。

 「我々への加入を考えている方へ定額プランを説明すると、まず2900円だけで定額になることとすべてのEメールが無料であることに“シンプル”だと驚かれる。毎月頂く料金だから、できるだけ固定化し誠実に対処したい」(土橋氏)

 PHSの低電磁波性を生かした展開も積極的だ。医療事業者や満60歳以上であれば2200円で定額プランが利用できる「ハートフルサポート」を9月に開始(9月4日の記事参照)、これまで約5万件の加入があった。「ポケットベルが停波しているなか、医師を呼び出すのに低電磁波のPHSが多く採用されるようになった。患者さんが持つ携帯電話は病院で使えないため、PHSの判別用に『医療用』と書かれた目立つストラップも用意した。また、耳が遠くなられたシニアの方や、数字の聞き間違いが許されない金融関係の方からはPHSは音が良いと評価も得ている。定額制により通話の機会が増え、PHSの良さが再評価されている。これは我々にも“予想外”だった」(土橋氏)

photo 今後も口コミを生したマーケティングを展開する

 ウィルコムの定額制が好評である裏付けとして、86%のユーザーが「周囲にもすすめたい」とするユーザーアンケートの結果も示された。同社ではこの満足度の高さを生かし、口コミが生きるマーケットへの販売促進を進めるという。

「きまじめ」に進めるエリア拡大と高速化

photo ウィルコム 執行役員副社長 近義起氏

 技術部門を統括する近義起執行役員副社長からは、主に高速化についてのロードマップが示された。今年の2月に登場したW-OAMは、変調方式に8PSKを使用し最大で408kbpsの速度が利用できる(1月27日の記事参照)。これまではデータ通信のみだったが、W-OAMを採用したW-SIM(10月18日の記事参照)が12月発売の「9(nine)」に搭載されることで音声端末にも採用される。

 「W-OAMを音声通話に使う一番の利点は、基地局から距離があってもエリア圏外になりにくいこと。移動時の使用感などが向上する。また、ビルなど屋内での電波浸透が高まり、エリアの厚みが増すメリットもある」(近氏)

 8PSKだけでなく32QAM、64QAMの採用もアナウンスしている同社だが、64QAMの8×化により最大800kbpsの高速化も計画している。これには変調方式の高速化と、回線を束ねるMulti RF化のほかに、バックエンドのIP化が欠かせない。「現在の基地局間ネットワークはISDNを利用している。64QAMで無線部分が高速化しても、その先がISDNではボトルネックになってしまう。社内ネットワークはITXによりIP化したので(2005年3月の記事参照)、今後はいかに早く基地局間をIP化するのかが課題。IP化により初めて最大800kbpsが実現する」(近氏)

photo 最終的に800kbpsのサービスを目指す

 また、同社の人口カバー率はすでに99%に達しているが、今後は道の駅やゴルフ場など郊外だが、利用シチュエーションの多いエリアにも重点的に基地局を配置するという。ユーザーからのエリアクレームをもとに、地道にエリアを増やしていく方針は以前と変わらず、喜久川氏は「コツコツと地道に、きまじめにやっていくしかない」と話した。

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