立ちはだかった予想外の壁──IEEE802.20標準化への道のり(3/3 ページ)

» 2006年11月20日 00時00分 公開
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標準化作業再開後の展開

 さて、11月13日に標準化作業が再開された802.20は、今後どうなるのだろう。石田氏は「802.20の作業部会が動き出せば、本当にフェアで公正な審議運営がやっていけるのかどうかはまだわからない」と懸念を示しつつも、この事態について2通りの見方を提示した。

 1つは「こうしたいざこざが802.20の規格策定において、ひいては製品の開発と市場への投入の観点から、大きな時間のロスになった」というやや悲観的な見方だ。いくつかの企業が、802.16e(モバイルWiMAX)支持の理由として、802.20の規格策定の遅れを挙げていることを考えると、それも納得できる。

 もう1つは「これでよかった」とする見方だ。「802.20の会議では、いつの間にか802.16e(モバイルWiMAX)陣営の出席者が支配的な立場になってしまっていました。あのまま会議を続けていたとして、果たしてうまくいっていたかどうかはわかりません。それよりは仕切り直してもらってむしろよかったのかもしれません」(石田氏)

 IEEE-SAによる公正なリーダーシップの候補選びでは、クアルコムや京セラ関係者を排除するだけでなく、802.16e(モバイルWiMAX)陣営の企業も排除する形になっており、その点は期待が持てるのかもしれない(もっとも、パソコン関連メーカーの多くはインテル社と深い関係を持っているのだが)。

 新たなワーキンググループ体制の下で、従来と異なる展開になるであろう802.20標準化活動の再開となるが、「なんとか期限の6月までに仕様を完成させたい」と石田氏は意気込みを見せる。

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3GPP2では同じ技術に高い評価

Photo 3G携帯電話(CDMA2000 1x EV-DO)の次世代技術、3GPP2 Evolutionには802.20の技術が採用されている(資料提供:クアルコムジャパン)

 このように「技術策定」以外の部分での苦労が多い802.20の標準化だが、ところが変われば、事情も同じ技術に対する評価もまったく異なってくるようだ。

 CDMA Development Group(CDG)という団体が標準化動向に大きな影響を与える3GPP2では、3GPP2 Evolution(3GPP2 Phase-2)という技術仕様の一部として802.20と同じ技術を採用することが正式に決まり、2007年4月の仕様完成に向けて急ピッチで審議がつづけられているのだ。

 「厳しい評価基準を経て3GPP2 Phase-2のコア技術に採用された」と石田氏も顔をほころばせる。

 この3GPP2 Phase 2の策定経緯もおもしろい。3GPP2は2006年の3月に3GPP2 Phase-2のシステム提案の募集を行った。この時、米Lucent Technologies、米Nortel Networksそして韓Samsungの3社から提案があったが、それらの提案はOFDMA技術の採用など、基本的な部分で802.20と非常に似た技術だった。

 QUALCOMMでは、この時点で3GPP2のシステムについての考えは固まっていなかった。802.20の技術も利用できると考えてはいたものの、一方で現行のEV-DO技術(KDDIなどが採用しているCDMA2000 1x EV-DOの技術)を拡張した技術も考慮していた。その方が、現行技術と互換性が高いことから携帯電話事業社などに導入しやすいと考えたからだ。これはEV-DO Rev. CまたはSBC(Strictly Bacwards Compatible)と呼ばれる技術になった。

 しかし、先の3社がコンセプトレベルで共通のビジョンを持っていたことに勇気づけられ、QUALCOMMは802.20の技術をベースに、CDMA2000 1x EV-DOとの互換性を考慮しない、より高い周波数利用効率を目指したもう1つの規格を用意した。これはLBC(Loosely Backwards Compatible)と名付けられた。基本コンセプトが近かったことから、他の3社とのコンセンサスも得やすく、規格策定は順調に進む。結局、QUALCOMMはSBCとLBCの両方のシステムを3GPP2に提案した。

 「CDGは、これらの規格をかなり強力に支持してくれました。特にLBCを後押しした」と石田氏。最初はSBC寄りだったKDDIも、LBCでいくことを認めたという。最終的にLBC技術は中China Unicom、KDDI、Lucent Technologies、Motorola、Nortel Networks、Samsungを含む11社に支持され採択される。

 技術の質だけを純粋に評価した3GPP2では、802.20と同じベースを持つ技術が、大きな支持をもって受け入れられた訳だ。

802.20の明日はどっちだ

 それではこの3GPP2 Phase 2と802.20の両規格は、今後、どのような関係になっていくのだろう。

 「3GPP2の規格は、IMTバンドと呼ばれる帯域につくられたもの。これに対して、802.20の規格は、いわゆるブロードバンド帯域につくられたもので、両者は異なるものです」(石田氏)

 QUALCOMMは、802.20の作業部会では、今後も一度承認された802.20規格を推すことになるという。ただ、石田氏は「その後の仕様改定では3GPP2 Phase 2の規格を反映したものが登場するかもしれない」と付け加える。違う帯域用につくられた技術とはいえ、両者を構成する基本要素はほぼ一致しているため、そうしたことも容易に行える。

 IEEE 802.20の会議は不幸な経緯で、長い間の中断を余儀なくされてしまった。しかしその一方で、3GPP2 Phase 2では技術的優位性が評価されて承認された。おかげで802.20技術の進化は今後も続いていきそうだ。

 あとは802.20の審議が公正な判断の下で順調に進み、期限の2007年6月までに標準化が完了するのを待つばかりだ。

Photo 802.20技術の今後のロードマップ。順調に行けば2008年には商用サービスが開始できる予定だ(資料提供:クアルコムジャパン)
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提供:クアルコムジャパン 株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年12月11日