第6回 縦向きから横向きへ……デザインにも苦労が見られるワンセグケータイ小牟田啓博のD-room

» 2007年01月24日 18時32分 公開
[小牟田啓博,ITmedia]

 今年もよろしくお願いします。さて、ワンセグ対応の端末がとても増えてきたと思いませんか? カメラ付きケータイ、音楽ケータイときて、このワンセグケータイも「持ち歩くメディア」だと思うのです。

 PCが「便利なことができるハコ」というハードの時代から、インターネットの普及とともに一大メディアへと進化してきたように、ケータイも一大メディア化の一途をたどっています。

 PCが一家に一台なら、ケータイは一人に一台、場合によっては一人が複数台所有するものです。それをにらんでかどうか分かりませんが、各キャリア、各メーカーから続々登場するワンセグケータイを、小牟田なりの視点で見ていきましょう。

端末それぞれにテレビを見るスタイルにこだわりがある

 一番最初に市場に登場したのが、KDDI(au)ワンセグ端末「W33SA」でした。

 ワンセグ端末だからということもあり、いかにも“デカイ!”という印象を受けましたが、ワンセグならではのヒンジ回転機構を採用し、台形の角をそぎ落としたフォルムに完成させた“デザインの技あり”端末だったと思います。ブラックにオレンジのツートーンなど、カラーもセンスの良いものでした。

 同じくauの「W41H」。こちらは当時のauにおけるハイエンド機。ワンセグを楽しむことを存分に考えたモデルで、テレビ視聴に便利な専用スタンドも同梱されていました。次世代メディア端末テイストを表現しようとしたデザインと、それを具現化したエンジニアリングの結晶モデルと言えるでしょう。日立製作所製の薄型テレビ「Wooo」をイメージさせるデザインが特徴でした。

 で、このW41Hの次のモデルが「W43H」です。このモデルでは、よりデザインが重視されているようです。先代モデルでも採用した二色成型になっていて、透明感の表現にデザインのリッチ感が演出されているのが特徴です。

 NTTドコモ初のワンセグ端末が「P901iTV」。ヒンジ部分はP506iCに似ていますが、新たに設けたアンテナの位置やロッドアンテナが回転する仕様で受信感度にとてもこだわって開発されたモデルです。

 後継機種となる「P903iTV」は、先代モデルのデザインを重視してブラッシュアップされ、とくに画面サイズが2.8インチと大きく見やすくなっている点が注目です。デザイン的にも、大型ディスプレイを採用することで印象が大きく変わりました。

 同じくドコモの「D903iTV」。どこかで見た? 気がしなくもないデザインではありますが、定評あるスライドタイプ。スライドにより、大画面を最大限に活かしています。ワンセグ対応機で厚さ20ミリというのは魅力かもしれません。きっとデザイナーも開発には苦労したことでしょうね。

ワンセグを楽しむための別のアプローチ――シャープとソニー・エリクソン

 ソフトバンクモバイルからは、「アクオスケータイ」の名称で一躍話題になった「905SH」が登場しました。「AQUOS」は液晶テレビで広く知られていますが、アクオスブランドをケータイ市場に持ち込んだことで、ワンセグケータイを一気にメジャーなものに押し上げた感がありますよね。

 液晶といえばシャープ、シャープといえばアクオス……みたいな認識が、ワンセグケータイの認知を高めたように感じます。こうした訴求方法そのものが、実際にユーザーの皆さんの心をつかんだのでしょう。 

 905SHから「911SH」、そしてドコモの「SH903iTV」、さらに後述する1月16日に発表されたau春モデル「W51SH」へと継承されて、このアクオスケータイがキャリアを越えて広がっています。

 独特な方式を採用したこの一連の端末は「サイクロイド型」と言って、通常の折りたたみ型の画面を開いたときにタテ/ヨコを回転させて、縦位置横位置どちらでも画面を切り替えることができる機構を持っています。

 僕はですね、この機構を見るとカシオ計算機から以前出ていた「スピントップ」と呼ばれた回転機構を採用したワープロを思い出します。

 それは、「タテ/ヨコを切り替えるからといって一点の軸を中心に回転させれば良いというものではなく、限られたスペースの中で効率良く回転させるには回転軌跡を制御する必要がある」「複数の回転軸と稼動を制御する軌道軸のようなものをうまくコントロールしている」という仕組みでした。

 うーん、なんだか書いていて自分でも良く分からなくなってきましたが、とにかくそんなすごい動きを限られたスペースに押し込み、さらに回路を結ぶケーブル類も巧く実装されているのです。それがスピントップであり、サイクロイドという機構です。

 もうひとつワンセグを楽しむための機構として登場したのが、auの「W44S」です。「モバイルシアタースタイル」と呼ばれる機構を持つこの機種も、ワンセグを楽しむための新しいアプローチだと言えるでしょう。

 通常のケータイスタイルに加え、右に開いて横向きにするとモバイルシアタースタイルと呼ばれるスタイルになります。このスタイルこそが、ワンセグ端末の新しい形と言えます。ヒンジ機構部分がケータイ本体から突出している周辺に、デザインと設計の大きな苦労がうかがえます。

1月16日の各社発表会でワンセグ対応モデルが続々登場

 先日の各社発表モデルの中で、なんといっても僕が一番驚いたのはauの「MEDIA SKIN」でした。吉岡徳仁さんデザインのこのモデルに、なんとワンセグが搭載されてきたのです。ただでさえあのデザインを実現することはチャレンジングなテーマであったはずなのに、さらにワンセグに対応させるための技術陣の苦労は相当なものだったことは想像に難くありません。

 「W52T」「W51SA」はスライド型、「W51SH」はサイクロイド型、「W51CA」「W51K」「W51T」は回転二軸スタイルと、auからワンセグ端末が続々と発表されました。

 時を同じくして、ドコモからは「SO903iTV」が「BRAVIAケータイ」として発表になりました。まさにシャープの「アクオスケータイ」と同じ、メーカーのブランド名を前面に押し出した格好です。

人が快適に使えること……さらなるワンセグ端末の追求へ

 競争の激化、というと古臭く聞こえますが、こぞってワンセグに対応したモデルがこれだけ発表されると、どれをどう選んでよいものやら悩んでしまいますよね。スライド型にはスライドの、二軸型には二軸の、サイクロイド型にはサイクロイドの……と、一つ一つのよさがあるでしょう。

 それぞれが進化している狭間である今、ひとつの流れとして僕は捉えています。ワンセグケータイが熱い! ということだけは確かでしょうね。ただ一方で、こうした高機能化合戦からは距離を置いて、冷静な眼で見ているマーケットというのも忘れてはならないように思います。

 ワンセグケータイは、今のアナログテレビがかつて木製タンスのような姿をしていたことを知らないかのように、今後いろいろと進化していくと思います。現在各社から登場している各回転機構も、生き残るものもあれば淘汰されるものもあり、それぞれが思い思いの形に変化していくはずです。

 また、アンテナも現在は引き伸ばして使うロッド型であったり、イヤフォンのケーブルを利用した取り外し型であったりと、いろいろな受信方法が模索されている最中ですから、それこそ多種多様なものが混在していますね。

 木製タンス型テレビも、かつては昆虫の触角のようにアンテナが生えていました。これと同じようにアンテナが内蔵されるまでの過渡期的対応ですから、それはそれで今を楽しめば良いのだと思います。

 最終的にワンセグケータイがどういう姿になるのかは、きっと誰にも分かりません。ひとつの究極体に収束するのか、いくつものスタイルが共存していくのか……。そんな中、間違いなく言えることは、差別化のために作られた人不在の複雑な機構を持つ分かり辛い製品ではなく、人が納得して快適に使える製品が必要だということです。

 一見何の変哲もないように見えるシンプルなモノだけど、実はめちゃめちゃ多くの人たちの苦労とアイデアが詰まっていて、そんな背景は微塵も感じさせない。そんなプロダクトが登場してきてほしいと思います。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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