薄さ11.4ミリ――NECから登場した「N703iμ」は、パナソニック モバイルコミュニケーションズの「P703iμ」とともに世界最薄の折り畳み携帯だ。その開発には2つのプロジェクトチームが携わっていたという。それぞれの役割について、モバイルターミナル事業部の有田行男氏は次のように説明する。
「N703iμは2年くらい前から、『薄型のトレンドが来るんじゃないか』と予測して作り上げた商品です。プロジェクトチームのうち、まず先行チームが先行試作機を作り、11.4ミリという薄さを実現したときに何が課題になるのかをチェックしました。その後、商用化チームが商用化のデザインに置き換えながら量産まで持っていった、ということになります」(有田氏)
先行試作機を担当したのが、NEC モバイルターミナル技術本部 近藤寿氏らのチームである。その試作機を元に、NEC埼玉 技術部 白石充孝氏らが量産機を開発した。
「当時、すでに薄さ12ミリ以下(11.9ミリ)のGSM端末『e949』を弊社から出していました。これをベースにすることで、国内向けW-CDMA端末も12ミリ以下を目指したのです。ただ、同じ数値じゃつまらない、11ミリ台前半を目指そうということで薄型端末のプロジェクトはスタートしました」(近藤氏)
ちなみに、近藤氏らの先行チームが作り上げた先行試作機の厚みは11.04ミリ。量産にあたって厚みがコンマ3ミリほど増えたことになる。
「試作機で課題が抽出されて、それの対応で若干厚くなったためです。また、デザインも変わっています。その部分で、商用化チームに苦労してもらったところはあります」(近藤氏)
薄型がトレンドになることを当時から予測しながらも、現在これほどまでに薄型化競争が激しくなることは予想しなかったという。
「正直いって、0.1ミリレベルの競争がこんなに激しくなるとは思っていませんでした。先行試作機の開発時は漠然と、『11ミリ前半でできればいいかな』という形でスタートしました。その後、他社から薄さ11.9ミリのモデルが登場し、その下を行く数値として“11.4ミリ”にたどり着いたのです」(有田氏)
N703iμとP703iμの厚みが同じだったことに関して、「なんらかの調整があったのではないか」と推測した人は多い。読者からも、同じ薄さであることについて、たくさんの質問があった。素人目には、コンマ数ミリの調整はどうとでもなるのではないのか――という勝手な印象もある。
しかし開発陣は、しっかりした根拠のある数字だと断言する。また、現場の技術者にとって、N703iμとP703iμがともに11.4ミリになったことは、それほど不思議なことではないともいう。
「我々の場合は、11.04ミリの先行試作機を開発していた。ここに、製品化する場合の問題点を解決する足し算と、デザイン上の足し算をした結果、11.4ミリになったというわけです」(近藤氏)
「デザインの関係で11.9ミリにしようという議論はありました。しかし、11.9ミリの端末が出ることが判明した。そこで、次に設定したのが11.4ミリで、たまたまもう1社も同じになったわけです。11.4ミリという数字は、ある部品が劇的に薄くなったから実現できるものではありません。部品ひとつひとつを薄くして、トータルとして11.4ミリや11.9ミリという数字になるわけです。だから、現時点の最新技術を使った結果として、11.4ミリという数字がひとつの壁なのかな、と感じています」(有田氏)
端末がここまで薄くなってくると、50ミクロン、10ミクロンのせめぎ合いになってくる。また、“.4”や“.9”という数字は、“.5”や“1”という区切りの良い数字の手前であり、大きな目標になるという。だから、P703iμと同じ厚みであっても、「技術者として見ればそれほど不思議ではないですね。“11.5をコンマ1下回ること”の意味は、みな共通のはずですから」(近藤氏)
ドコモの端末の場合、厚さが20ミリを切るとコンマ1ミリ単位のスペックを表記できるのだという。だが、寸法を四捨五入されることもあるため、“.5”を下回らずにはいられないようだ。
「商用化チームとしても、11.5ミリという数字では四捨五入すると12ミリになるという不満があります。コンマ1小さいという意味で、非常にこだわりました」と、商用化チームのメンバーであるNEC埼玉 技術部の白石充孝氏も「11.4ミリ」という数字へのこだわりを振り返った。
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