ストレス社会で闘う大人を癒す──アロマケータイ「SO703i」が生まれるまで「SO703i」開発陣インタビュー(1/3 ページ)

» 2007年03月19日 09時37分 公開
[遠藤学,ITmedia]
photo “アロマケータイ”こと「SO703i」

 端末の背面とリアカバーを着せ替えられるStyle-Upパネルが好評を博したソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「SO702i」。その後継として登場した「SO703i」は、着せ替えに“香り”をプラスした折りたたみ型端末だ。

 9種類のStyle-Upパネルには、それぞれの世界観に合わせたアロマシートを同梱。ソニエリ端末のお家芸ともいえるイルミネーションの演出では、フラットな背面パネルから各種の着信情報などが光って表示される「オーガニックイルミネーション」を採用するなど、前モデルにはない新たな試みに挑戦している。

 日本初の“香り”を採用した経緯や、デザイン・使い勝手のこだわりについて、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ JP部門 機構設計部 ドコモ機構設計チーム 係長の池田氏、クリエイティブデザインセンター IDグループ デザインプロデューサーの鈴木氏、商品企画部 商品企画課の上田氏、Jst部門 ドコモ商品部 プロジェクトマネージャーの新田氏に話を聞いた。

photo (左から)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ JP部門 機構設計部 ドコモ機構設計チーム 係長の池田氏、クリエイティブデザインセンター IDグループ デザインプロデューサーの鈴木氏、商品企画部 商品企画課の上田氏、Jst部門 ドコモ商品部 プロジェクトマネージャーの新田氏

なぜ“香り”だったのか?

 SO703iの最大の特徴は、やはり“香り”になるだろう。香りの元となるアロマシートは、9種類のStyle-Upパネルそれぞれの世界観に合わせて9種類のアロマ──「ベルガモットミント」「ミルキーフローラル」「トロピカルソルベ」「フルーティローズ」「ハニーダージリン」「ホワイトムスク」「オークシトラス」「オリエンタルモカ」「ディープブルー」を用意した。

photophoto 「化粧品っぽい感じ」(鈴木氏)をイメージしたというアロマシートのパッケージ(左)。パネルの裏にアロマシートを同梱している(右)

 日本国内ではなじみのない“香りケータイ”だが、韓国や中国などでは香料を染みこませた携帯が登場しているという。中でも有名なのが、ラベンダーの香りがする韓国LG電子製「ホワイトチョコレートフォン」(2月28日の記事参照)だ。

 ソニエリも独自に香りケータイのアイデアを温めていたと上田氏。SO703iに香りの要素を取り入れたのは、前モデルの「SO702i」で取り込んだ女性層を維持しながら、さらにすそ野を広げるにはどうすればいいかを考えた際、“これまでの携帯では表現していなかった嗅覚へのアプローチが有効”と考えたからだという。

 「SO703iは大人っぽいイメージで、幅広い層に受け入れられることを意識した端末。大人には癒しを求めている人が多く、さまざまなアロマグッズがライフスタイルにとけ込んでいます。そこでパーソナルな持ち物である携帯に、五感を満足させる、エモーショナルなアプローチができないかを深掘りして考えたわけです。ここで言う“癒しを求める層”には、日々ストレスと戦っている男性も含まれます。アンケートで調べたところ、アロマを使っている男性が増えていることも分かり、少しでも自分のいる空間を心地よいものにしたいという意識が強まっているととらえたのです」(上田氏)

 「視覚を楽しませる着せ替えパネルと、基本的な考え方は一緒で、パーソナルな携帯でいかにエモーショナルな部分に訴えかけるかを考えました。味覚はさすがに無理なので、嗅覚の香りを実現することになりました」(鈴木氏)

 一見すると女性向けのイメージが強いSO703iだが、男性が使うことも意識したパネルを用意することで、幅広い層の取り込みを狙う。明らかに女性向けにデザインしたパネルは女性向けのアロマを、それ以外のパネルにはベルガモットミント、オークシトラス、オリエンタルモカ、ディープブルーといった、男女を問わず誰が使っても違和感のないアロマを採用した。香り選びと調合はプロの調香師を中心に行い、朝から夜まで一日中香料をかいでいたこともあったとか。

 携帯から香りがする仕組みを実現するためのアプローチにはさまざまなものがある。例えば携帯に取り入れる場合には、“パネル自体に香料を染みこませる”“パネルに香水を吹きかける”などのアイデアもある。実際、新田氏は「最初はパネル自体に印刷をかけて香りを染みこませるという発想から始まった」と話す。なぜ、それがアロマシートになったのだろう。

 「ユーザーが持っている香水を吹きかけることも考えましたが、ユーザーによってどんな香水を持っているかは分からない。パネルにあらかじめ香料を染みこませる形だと、ずっと同じ香りになってしまうという問題が生まれます。また、香りをさせてはいけない日もあるかもしれないことや、TPOやその日の気分に合わせて使い分けられることを考えると、はずせることのメリットは大きい。それを考えてシートにしたのです」(上田氏)

 「香料を吹きかけたり染みこませたりすると、携帯に使われる材質に対するケミカルアタック(化学的ダメージ)が大きくなる。この影響を受けないようにすると複雑な構造になったり、端末自体が大型化してしまうこともあり、それでは使いやすさが犠牲になってしまう。もっと気軽に楽しんでもらうために、シートを採用しました」(池田氏)

 確かに会議中や満員電車の中など、香りがないほうがいいシーンもある。香水がそうであるように、香りは自らの意志でつけるもので、強制されるものではない。普段から肌身離さず持ち歩く携帯だけに、あくまで能動的に香りを楽しんでもらうスタイルにしたのは正解だろう。開発陣はどれくらいの距離で香りが分かるようにするかにもこだわったといい、社内を一通り回って平均値をとり、4、5センチくらいの距離で香るように調整したという。

 ほのかな香りを発生させるための仕組みとして、端末本体側を凹ませ、端末本体とパネルの接合部に微妙なすき間を設けている点にも注目したい。「パネルをはずすと香りはかなり強くなる。フタをすることで強さを抑えており、背面パネルの接合部に設けたわずかなすき間から香りが出るようにしています。背面はフラットさが特徴なので、このすき間がデザインを損なわないようにするのが難しかった」と、池田氏は機構設計チームの苦労を話してくれた。

photophoto 端末本体とパネルの接合部に設けられた微妙なすき間(左)。アロマシートの装着部分は端末本体側を凹ませることで、香りをため込む空間を設けている(右)

 アロマシート自体はPET(ペットボトルの材質)に対して、香料をまぜた塗料で印刷をかけたもので、香りが弱くなった時にシートをこすると、また強く香るようになる。こすると香りを発する本があるが、原理はそれと一緒だ。

 「香料はただ混ぜるとどんどん揮発して寿命が短くなるので、マイクロカプセルを利用しています。5〜10ミクロンの小さなカプセルに香料を閉じこめているので、激しくこすれば壊れるカプセルの量が多くなる。これだと香りが強くなる分、寿命は短い。香りがなくなった時に1、2回こするような使い方ならば、3カ月くらいは楽しめます」(新田氏)

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