キャリア・メーカー・ユーザー。変化は三者三様――韓国ケータイ市場の今

» 2007年03月20日 16時18分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 2006年末に加入者数が4000万人を超えた韓国携帯電話市場(韓国の人口は約4800万人)。「飽和状態」と言われながらも成長を続けてきた市場を支えるのは、実際にはどんなユーザーなのだろうか。またキャリアはどんな存在で、携帯ショップはどんなところなのだろうか。韓国携帯電話市場の“基本”に立ち返ってみよう。

2・3位の巻き返しが始まったキャリア構造

photo 2005〜2007年の1月時点での加入者数と市場占有率を比較したもの。LG Telecomの増加とSK Telecomの減少が見える

 韓国市場を支えるキャリアは、SK Telecom(以下、SKT)、KTF、LG Telecom(以下、LGT)の3社だ。

 数年前まではSKTのブランド力が圧倒的に高く、それが市場占有率にも如実に現れていた。以前の識別番号は基本的に「SKT=011」「KTF=016」「LGT=019」となっており、この番号とブランド力を結びつけたマーケティングを展開したSKTが圧倒的な人気を得ていた。しかし、2004年からは新規回線の識別番号が「010」に統一され、電話番号が所有者のステータスに結びつく傾向は薄れてきている。

 この時期を境に、2・3番手キャリアの健闘が目立つようになった。3位のLGTでは、安価な通話料を提供する「気分ゾーン」、インターネット予約が2時間で売り切れになった個性派端末の「canU Canvas」、1カ月で10万人の加入者を集めたアシアナ航空のマイレージがたまる料金プランなど、差別化されたサービスが次々とヒットしている。

 2位のKTFもこれに負けじと「万年2位脱出、1位奪還」をスローガンに、3月初旬に韓国初のHSDPA全国サービスを開始。追われる側のSKTも、HSDPAのサービス開始を前倒し、国際ローミングサービスの強化などの施策で対抗している。

端末メーカーは「総合力」のSamsungが強し

photo Samsung電子のスリム端末、「Ultra Edition」シリーズ。「SCH-B630」は薄さ12.9ミリながら、300万画素カメラを搭載し、地上波DMBに対応する

 韓国の携帯メーカーは「Anycall」ブランドのSamsung電子、「CYON」ブランドのLG電子、「SKY」「Pantech & Curitel」ブランドのPantechグループ、「EVER」ブランドのKTFT、そして「Motorola」がある。

 Pantech & Curitelは、Pantechグループが資金難に陥って以来、人気製品以外の販売は行わない方針になった(2006年12月の記事参照)。また、韓国だけでなく中国など海外でも活発に携帯電話を販売していたVK Mobileは、事実上倒産している(2006年7月の記事参照)

 端末のブランドでもっとも有力なのは、やはりAnycallだ。“Samsung”という国内の圧倒的なブランド力はもちろん、最新機能をいちはやく搭載する技術力やモデル数の豊富さ、他社より抜きん出たスリム端末など、総合力が人気の理由のようだ。

 ただし、端末にデザイン性や個性を求める人はCYONやSKYを利用する傾向が強い。CYONはメタル素材が特徴の「Shine」を高級感のあるイメージで売り出し、現時点で主力商品となっている。Pantechグループが買収したSKYブランドは、高級感のある強いブランドだ。最近は、デザインがPantech & Curitelのモデルに似てきてる感も否めないが、ワークアウトに突入したPantechは、生き残りを“高級ブランド”のSKYにかけている。

photo LG電子の「Shine Designer's Edition」には、背面にユン・ドンジュ(詩人)の「星を数える夜」がハングルで彫りこまれている。Shineは2006年12月当時、1日3000台、販売から100日で20万台を売り上げた
photo SKYのキャッチコピーは2006年に「It's different」から「MUST HAVE」に変わった。CMのイメージはこれまでのSKYを受け継ぐものとなっている
photo EVERのKTF用HSDPA端末「EV-W100」。薄さは「(韓国の)テレビ電話対応機としては最薄」(KTFT)という13.95ミリ。200万画素カメラや音楽再生機能、Bluetooth対応で30万ウォン台後半と手ごろだ

 そして、韓国でも大ヒットした「RAZR」で大いに存在感を発揮しているのがMotorolaだ。後継機の「KRZR」もRAZRほどではないものの人気を得ているほか、最近登場した「StarTAC III」がさらに強い追い風になりそうだ。

 こうした大メーカーの陰で奮闘するのがEVER。一時はLG電子が買収するということで話題になったが、その後交渉は決裂。現在は自力で市場開拓に挑んでいる。地上波DMB対応、スリム化、HSDPA対応といったインパクトのある端末を発表し、存在感をアピールしている。

 韓国端末のトレンドは、DMB(日本で言う、ワンセグやモバイル放送)機能で、最近ではBluetooth搭載も増えている。またサービス開始当初は品薄だったHSDPA対応端末も、今では少しずつ数を増やしている。

 デザインではスリム型が、まるで「基本」とでも言うかのように多くなった。スリムさで先を行くのはSamsung電子だが、前述のように同じスリムでもデザイン面でLG電子の評価が高い。また以前は黒が多かった端末カラーも、LG電子の「Shine」のようなメタリック塗装や、RAZRのような豊富なカラーパターンの端末も見受けられる。

安いネット販売、安全な店舗販売

photo キャリア3社の携帯電話を取り扱うショップが、韓国の街にはたくさんある。電気街などはこうした店がたち並んでおり、競争も激しい

 韓国の人が携帯電話を買う場所は、大型電気店の携帯コーナー、全キャリアの端末をそろえる携帯電話ショップ、キャリアショップ、オンラインストアが挙げられる。

 回線契約には、新規加入・機種変更・補償販売の3通りがある。新規加入と機種変更は日本と同様で、補償販売というのは現在使っている携帯電話をショップに収める分、安く端末を買えるという方法だ。新規加入・補償販売・機種変更の順に価格が安い。

 韓国の携帯電話の価格は決して安いとはいえない。たとえば先に出たSamsung電子のSCH-B630は、販売価格が70万ウォン(約8万6000円)台だ。さらにLG電子の「Shine」ことLG-SV420(SKT)/KV4200(KTF)/LV4200(LGT)も、販売価格は50万ウォン(約6万1000円)台後半となっている。

 韓国では2006年から、それまで法的に禁止されていた補助金が許可され、ある程度の援助は受けられるようになったとはいえ(2006年4月の記事参照)、日本のような「1円端末」というのは、まずありえない話だ。

 少しでも安く買うためにはいたずらに店を回っても非効率なので、インターネットの価格比較サイトで価格を徹底比較し、かなり安く買う人もいる。ただしネット上では詐欺もあるため、価格より安全性を取る人は店を直接見て回るしかない。そういった点で、電気街や大型電気店が重宝するのだ。

携帯への思い、若者と社会人で温度差

 かなり高価格に設定されている韓国の携帯だが、“最新機種を持ちたい”という気持ちは価格に勝る。特に流行に敏感な若者の場合、数カ月ごとに機種を変える人もいる。彼らが端末を頻繁に買い換えるには経済力が必要となるが、親に買ってもらう人もいれば、アルバイトで貯めたお金で購入する人もいる。次々と新しいデザインや新機能が登場するため、携帯電話のライフサイクルは短くなる一方だ。

 現在高校2年生のキム・ヒョクス君は、「クラスでは7〜8割くらいが携帯を持っている。お年玉や小遣いを貯めて自分で携帯を買う友達もいるけれど、買い換えられるかどうかは基本的に親次第。中には1年に1度買い買い換えている子もいる」と話す。

 ちなみにヒョクス君は両親の許可が得られず、携帯電話を持っていない。「iPod nanoを買ってもらったので仕方ないけれど、皆が持ってるのに僕だけ持っていないのは格好悪いし、“ヒョクスには連絡できない”と友人からも不評。大学生になったら携帯電話を絶対に買って、1年に1回程度は機種を換えたい!」と付け加えた。

 一方、貿易会社に勤務するある社員は、「以前ほど携帯電話に敏感にならなくなった。買い換える頻度は1年半おきくらい。仕事柄、海外出張が多いので海外ローミング対応は必須だ。学生の頃は携帯に関心があるのにお金がなくて買えず、先輩から中古をもらったりしていた。今では、最新の携帯を買えるようになったが、流行より実用性を重視するようになったのがちょっと皮肉」と語る。

 学生などの若者と社会人とでは、携帯電話に対する感覚がまるで異なっている。ただしこれは一部の例で、中には数カ月ごとに端末を変える社会人もいれば、親より高機能な携帯を持つ学生もいる。

 最近では“フォンテク”なる行為をする若者も登場した。フォンテクとは、携帯電話を表す“フォン”と財テクを表す“テク”を合わせた造語。若者たちは新規加入で安く携帯電話を買い、それを数カ月だけ使った後、高く売りつけることでその差額をもうけるという転売行為を行っていた。若者が限られた経済力でお金をもうけるためにあみ出した方法は、世間に驚きを与えた。

 ところで韓国で最近流行しているものとして、任天堂のNintendo DS Liteやソニー コンピュータエンタテインメントのPSP、デジタル一眼レフカメラなどが挙げられる。これらを買って楽しむ余裕がある韓国の人たちにとって、携帯電話を買うことは以前よりも負担にならなくなってきているのかもしれない。折りしも補助金など、携帯購入の際の負担はある程度軽減される方針も取られている。

 携帯電話は“当然持っているもの”との認識が強まり、選択肢も増えた今、携帯電話は生活必需品と化してきている。韓国の人たちも携帯電話を買うことそのものより、より良いものを求め、そのためにはある程度の出費もいとわないというように認識がが変わってきているのではないだろうか。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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