“ネットなしケータイ”が登場?――「WIPI」の義務化と開放で揺れる韓国韓国携帯事情

» 2007年04月03日 17時26分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国発の携帯電話プラットフォームである「WIPI」(Wireless Internet Platform for Interoperability)。各キャリアでバラバラだったプラットフォームをWIPIに統一することで、ユーザーやコンテンツプロバイダの便宜を図るなどの目的で開発され、2005年から携帯電話への搭載が義務付けられている。しかしこのWIPIが今、岐路に立たされている。

“インターネットができない3G携帯”登場か

 2005年以来、インターネット接続機能を持つ携帯電話への搭載が進められてきたWIPI。最近、KTFが販売しようとしたある端末がきっかけで、大きな話題に上っている。というのも、このWIPI端末はインターネット接続機能を搭載していない。HSDPAに対応し、通話やテレビ電話が利用でき海外ローミングも可能。しかし、この端末でWebブラウジングやMMSなどのメール送受信をすることはできない。

 この端末の存在は少し前から噂になっていたが、ある経済系メディアが取り上げ大きなニュースとなった。詳細な端末情報を紹介するメディアや、「入荷未定」という形で取り扱いを開始するオンラインショップも現れ、KTFも否定できなくなったようだ。ただ、公式な発表はまだで、正確な型番や製品イメージなどは不明だ。

 WIPIをプラットフォームに採用しながら、肝心のインターネット接続機能を削ったことが携帯業界に大きな驚きを与えた。こうした前例のない“例外”に対処するルールがまだないため、携帯電話への認可を出す情報通信部も、立場を決めかねている。

 KTFがこのようなWIPI端末を出したのには、大きく2つの理由がある。1つは端末の価格を下げるためだ。WIPIを搭載した携帯電話にはそれなりのスペックが要求されるので、その分端末単価も上昇してしまう。そしてもう1つは、数年前の契約がKTFを縛っているためだ。2003年、KTFが携帯キャリアのKTアイコムと合併した際の条件に、WIPI搭載の義務化が記載されていた。

 “低価格端末を開発したいが、コスト高になるWIPIを搭載しなくてはならない”という状況のため、インターネット接続機能を削ってコストダウンを図るという経緯があったようだ。考え抜いた末にKTFが行った苦渋の決断ともいえるだろう。

 この端末はすでにショップなどには入荷しているようだ。「安価な3G携帯」とニュースで話題になり買い求めようとする人もいるが、もちろんまだ発売されていない。

“ネットができないWIPI携帯”が登場したらどうなる

 今回話題になっている携帯電話が販売されるか否かは、情報通信部がこのようなWIPI携帯の存在を公式に認可するかどうかにかかっている。

 もしこの端末を情報通信部が許可すれば、SK Telecom(以下、SKT)やLG Telecom(以下、LGT)も追随せざるをえないだろう。ネットは使わない層に取って3G端末を安価に購入できるというのは何より魅力であるし、インターネットができずとも、海外ローミングが可能という特徴からすれば、ビジネスマンや旅行好きの人なども関心を示しそうだ。

 端末の売れ方によっては、コストをかけずにHSDPAを大きく普及させる起爆剤ともなりえる。それはKTFだけでなく、政府としても大いに奨励したいところだろう。

 一方、WIPIソリューションなどを提供する関連業者は打撃を受けそうだ。さらに国をあげて作り上げ、海外進出まで計画しているWIPI事業が、韓国に根付かなくなる恐れも出てくる。

 過去に結ばれたKTFとKTアイコムとの合併条件を、今さら変えるというのも難しい。同様の条件はSKTと2002年に合併した新世紀通信との間でも結ばれているため、ことはKTF 1社だけの問題ではない。そのため情報通信部は大変難しい選択を迫られている。

 ところで意外な方法で安価な3G携帯を開発までしてしまうほど、3GとHSDPAにかけるKTFの意気込みにはただならぬものがあるようだ。

 KTFは3月当初からHSDPAサービスを全国展開している。「SHOW」と銘打たれたサービスは、1日約1500人ずつの加入者を誘致し、3月23日時点で3万6000人を超えているという。

 SKTも3月29日にHSDPAの全国サービスを開始した。KTFはより早い時期に全国対応し、これが功を奏したかもしれないが、積極的な広告戦略などのおかげでSHOW自体の知名度も上昇している。

 この勢いを持続させ、「万年2位脱出」という目標を実現したいKTF。そのためにもインターネット機能のない安価な3G携帯の販売をなんとしても実現したいところだが、さまざまな利害やしがらみから船出は難航しそうだ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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