ケータイ検索が“使えない”理由ケータイネットの現場から

» 2007年04月25日 15時12分 公開
[佐藤崇,ITmedia]

 携帯ネットの世界に本格的に検索エンジンが入り始めてから、半年以上経ちました。PC検索の世界から見てみると、携帯検索はずいぶん事情が違う、と感じた方も少なくないのではないかと思います。

 中でも特に多くの人が「なんでこんなサイトが上位にヒットするのか」ということを感じたのではないかと思います。世界最高峰の検索エンジンの技術力を持つ会社も、通信キャリアも、携帯専業ベンチャーも、誰しもが苦労するこの分野の現状を、いくつかの角度から明らかにしてみたいと思います。

携帯サイトの構造は、検索エンジンが理解しにくい

 携帯サイトは、PCと同じHTMLの規格を利用しながらも、携帯電話のユーザーインタフェースに最適化された構造になっており、検索エンジンが構造を把握するのが難しい仕組みになっています。

 例えば、キャリアや端末によって表示させるページを変えていたり、目的の情報にアクセスするために経由する中間ページが多かったり、トップページにたくさんの情報を詰め込んだ“チラシ的”なサイト構造になっていることが多かったりします。これは、トップページに来たユーザーをいかに逃がさず、サイト内を回遊させたり、会員サービスに登録させたりするかを工夫してきた結果です。

 各携帯サイトは、検索サービスの登場に伴い、「モバイルSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)」と呼ばれる、検索エンジンに見つかりやすくするための対応を余儀なくされ始めています。ただ、そればかりを考えて、これまで試行錯誤の中で実現してきた、ユーザーを逃がさないインタフェースを壊してしまっては元も子もありません。難しい対応が迫られています。

端末環境によって表示される情報が異なる

 携帯ページは、思った以上に動的に作成されています。アクセスする機種ごとに対応するサービス・対応できないサービスはまちまちですし、そもそも通信キャリアが大きく三分されており、統一的なサイトを提供するのには限界があります。

 「着うた」「着うたフル」など、特定の端末向け・通信キャリア向けだけに限定して公開されているサービスは多数ありますし、同じサービスでも通信キャリアによって呼び方が異なることもあります。例えば「デコメール」はauでは「デコレーションメール」ですしソフトバンクでは「アレンジメール」となっていたりします。

 そこで携帯検索では、キャリアごとに検索結果を動的に変えていくことはもちろん、検索する端末の種類に応じて可変的に検索結果を変えていく必要もあります。例えば、着うたに対応していない機種で着うたの検索結果を出していくことは意味がありません。

公式サイトは検索エンジンが拾いにくい

 公式サイトは、一般サイトに比べて多くの情報・サービスが詰まっていますが、その大半が会員限定で提供されているクローズドサービスですから、検索エンジンにひっかかりません。

 会員限定サービスでなくても、検索エンジンが拾いにくい仕組みになっています。携帯電話から公式サイトにアクセスする場合、各キャリアが管轄する接続サーバー経由になり、各キャリアは、自身が提供する接続ルートのみに公式サイトへのアクセスを開放する傾向にあるためです。

 このため、検索エンジンのロボットが他のルートを経由して公式サイト情報を収集しようとしても、公式サイトがアクセスをしゃ断するケースが多々あり、情報を正しく収集することがてきないという現実がありました。一方、公式サイト外の一般サイトや掲示板なら、そういったルートしゃ断もなく、検索エンジンが確実にクロールできます。

 その結果、検索エンジンは公式サイトの情報を拾うことができず、情報としてあまり価値の高くない、一般サイトや掲示板上の情報をを収集して検索結果に表示するしかない、といった現実にぶつかります。

 ただ、こうした状況は、検索サービスのユーザー増と連動して改善傾向にあります。

携帯ページは情報の絶対量が少なすぎる

 携帯ページで取得できる情報量は、PCのそれと比較して圧倒的に差があると言われています。当社の検索サービス「F★ROUTE」は携帯とPCサイト両方を横断検索できますが、PCサイトの方が圧倒的にヒット数が多くなっています。

 例えば、各社の検索サービスで「携帯電話」を検索すると、以下のような結果になります。

検索サービス名 携帯ページのみの検索結果 PCページを含む検索結果
iメニュー検索 約2300件 (未対応)
Yahoo!モバイル 約21万件 約5700万件
gooモバイル 約3万件 (未対応)
F★ROUTE 約5万件 約461万件
R25式モバイル 約1万9000件 (未対応)

 携帯サイトが検索にヒットしない理由には、前段で解説したように、携帯サイトの有用な情報のほとんどが、会員登録や有料課金処理をしなければ得ることができない公式サイト内にあり、検索エンジンが拾える携帯の一般サイト上にあるのはユーザーのコメントや足あと(アクセス履歴)的なものが大半で有用な情報が少ない――といった理由が考えられます。

 こうした状況では、利用者は検索エンジンを使って情報を探すよりも、公式メニューの有料サービスに登録して利用したほうが、結果として求める情報に速くアクセスできるということになります。

 とはいえ、PCサイトをそのまま見られるフルブラウザや、携帯から「Wikipedia」やPCサイトを検索できるサービスが一般化し始めており、携帯検索から得られる情報量は爆発的に増え始めています。携帯サイトの情報鎖国状態は少しずつ緩和しているようにも思えます。

検索はまだもうかっていない

 携帯検索サービスは1999年からありましたが、検索連動広告が登場する2004年まではそれ単体ではほとんどもうからない分野でしたし、現状でも収益化できている状況とは言い難いと思います。

 現在の収益源は、検索連動広告が主体。携帯の小さな画面を広告枠として占有して広告を表示できることもあり、市場は急速に成長しています。投資家や業界の期待は集めていますが、まだまだ大幅な収益が上げられる段階にはないという状況です。

 同じ携帯電話向けの検索機能なら、有料で提供されている音楽コンテンツの検索機能や、乗り換え案内などの位置情報検索関連サービスのほうが、収益化も見えやすく、より高性能である場合もあります。

 余計なお世話かもしれませんが、世界規模で展開する検索事業者にとっては、日本のような独自の発展を遂げてしまい、インターネットの外の世界から見ると制約の多いように感じてしまう現状の環境で携帯検索でナンバーワンを目指すよりも、より成長速度も市場規模も広大な、例えば中国の携帯検索市場にリソースを投入するほうが、冷静に有益ではないのか、と感じる部分もあります。

 とはいえ、海外では、Yahoo!やGoogleが携帯検索のサービスを刷新し始めましたし、携帯検索は世界的に注目を集め始めいます。大手ネット系検索サービス事業者が本格参入してきたことでようやく、収益化の光も少し見えてきた状況のようです。

 携帯検索事業者にとって今重要なのは、検索エンジンで有用な情報を拾えないことに一喜一憂することではなく、ユーザーが求める情報がヒットするよう、地道な取り組みを積み重ねていくことかな、と感じています。

 F★ROUTEでは、10数種類にのぼる専門的な検索機能の一斉提供と、クラスタリングとよばれる新しいアルゴリズムの導入し、ユーザーの利便性を高めようと努力しています。ユーザーはここ半年でかなりの勢いで増えてきていることもあり、そうした試みが有用であるということが少しずつ確信に変わってきました。

佐藤崇

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 1975年生まれ。慶応義塾大学大学院社会学研究科修士課程卒業。2000年、フォンドットコムジャパン(現オープンウェーブ)に入社。携帯電話向けコンテンツディベロッパーマーケティングに従事した。2001年にオープンサイト運営者として独立、後に事業売却。2003年、ビットレイティングス株式会社を設立。モバイルポータルサイト「F★ROUTE」(エフルート)を中心にモバイルサイトのアグリゲーター業務を行う。

著書に「ケータイ・ビジネス 成功の新常識」がある。


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