GPS搭載義務化を追い風に、急成長するナビタイムジャパン神尾寿のMobile +ing(1/2 ページ)

» 2007年05月17日 09時56分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2007年4月1日、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルの携帯電話キャリア3社が「緊急通報位置通知」機能を開始した(3月27日の記事参照)。緊急通報時に位置情報を自動的に受理機関(警察機関/海上保安庁/消防機関)に通知するシステムの導入は、かねてから総務省主導で進められてきたものであり、今後の第3世代(3G)携帯電話は対応が義務づけられることになる。

 総務省では緊急通報位置情報通知機能の導入に当たり、当初は基地局情報のみで対応を認めるが、今後は原則的にGPS搭載を義務づける方針を打ち出している。携帯電話のGPS機能は、これまでKDDIのauが積極的に搭載してきたが、今後はドコモやソフトバンクモバイルの携帯電話でも、GPSが標準的な機能になっていくことになる。

 これから始まるGPSケータイの時代を前に、注目を集めているのが携帯電話向けのGPSナビゲーションサービスだ。クルマ向けのカーナビと異なり、“ユーザーの場所”を起点に位置情報やナビゲーション、コンテンツ提供を行う携帯電話向けのサービスは、今後大きく発展する可能性が高い。

 今回のMobile +ingは特別編として、ナビタイムジャパン代表取締役社長で、東京大学客員教授でもある大西啓介氏にインタビュー。NAVITIMEのサービスやビジネスの現状と今後の展望、さらに位置情報市場の将来について話を聞いた。

Photo ナビタイムジャパン代表取締役社長の大西啓介氏

GPSナビゲーションが普及する3つの条件

 周知のとおり、携帯電話のGPS機能はKDDIが牽引してきた分野だ。同社は2001年からGPS携帯電話を市場に本格投入し(2001年11月の記事参照)、現在ではほぼすべての携帯電話にGPS機能を搭載している。さらに昨年はNTTドコモがauの動きに追随。GPS機能を同社の主力ラインアップ「903i」シリーズの標準機能にしたことで、GPS搭載携帯電話は急速に増えている。

 「現在の市場環境を見ますと、GPS搭載携帯電話をお持ちのユーザーのうち、5〜10%の方が(ナビタイムをはじめとする)何らかのGPSナビゲーションサービスを使っています。現在、GPS搭載機種の台数は2000万台を超えたぐらいですが、市場規模は拡大してきています」(大西氏)

 さらに3G携帯電話へのシフトや、最近の液晶画面の大型化が、GPSナビゲーション分野の追い風になっていると大西氏は話す。

 「GPSナビゲーションサービスが普及するには、『高速データ通信』『パケット定額制』『GPS機能の高速化』という3つの要素が重要になります。また最近の携帯電話は大画面化・高解像度化が進んでいますから、地図が見やすくなっている。これもGPSナビゲーションの使いやすさ向上につながります」(大西氏)

 このようにGPSナビゲーションの普及環境は整ってきているが、利用率の見込みは控えめだ。大西氏によると「GPS携帯電話の普及台数に対して、GPSナビゲーションの利用率は10〜20%程度」だと分析する。

 「有料課金モデルでやっていく以上、(GPSナビゲーションの)利用率は10〜20%と見るのが現実的です。しかし、総務省によるGPS搭載義務化の動きもあり、今後は年間2000万台ずつGPS携帯電話が増えていきます。最終的には国内で1000〜2000万台前後がベースマーケットということになるでしょう」(大西氏)

 NAVITIMEの現在の有料会員数は直接契約で約46万人、さらにナKDDIと共同運営するEZナビウォークの会員数が約140万人ほどだという。GPSナビゲーション分野のトップであることは言うまでもなく、携帯電話の実用系サービスの中でも会員数がずば抜けている。さらに有料会員の利用頻度が週2回程度と多く、解約率が低いのも特長だ。GPS携帯電話の増加はau以外のキャリアでは“右肩上がり”の状況なので、成長の余地はまだ大きく残されている。

「ルートとデータベース」が、ナビタイムの優位性

Photo

 ナビタイムジャパンが設立されたのは2000年3月1日。翌2001年、auのGPSケータイ発売と同時にNAVITIMEの公式サービスが始まり、2002年には3キャリア展開も果たしている。さらに、2003年10月にKDDIと共同で開始した「EZナビウォーク」が、同社が急成長するきっかけになった。

 このように日本のGPS携帯電話の歩みとともに、NAVITIMEは携帯ナビゲーション分野でナンバーワンになったが、デジタル地図やカーナビゲーション分野ではほかにも“老舗”のライバルが存在した。ナビタイムジャパンがここまで急成長した要因、他社に対する優位性は何だったのだろうか。

 「我々がユーザーに支持していただけている要因は、地味なところなんですけれども(検索される)“ルートがよい”ところにあります。NAVITIMEではトータルナビゲーションとして、電車、クルマ、徒歩など複数の移動手段を加味した複合的な経路探索技術を研究しています。ここでは電車・バスの時刻表から、年4回更新される地図までさまざまなデータが変わっていくわけですが、そういった変化の中で最適なルートを出し続けるというのは難しい。ルート検証に時間がかかりますし、アルゴリズムも汎用的なものではパフォーマンスが落ちてしまうのです。パフォーマンスを落とさず、いいルートを安定的に出す(技術力の)部分に我々の強みがあります」(大西氏)

 これは筆者自身も感じていることであるが、auのEZナビウォーク、さらにドコモの903iシリーズ向けのNAVITIMEも、ほかのサービスに比べると確かにルート検索能力が高い。ナビタイムジャパンはナビゲーション技術が高いことももちろんだが、多くのユーザーを抱えて長年サービスを提供していることが、ノウハウの蓄積になっているようだ。

 「また、もう1つの優位性がデータベースが豊富であることです。NAVITIMEでは多くのデータベースを外部から購入していますし、例えばバス停の時刻表のようにまとまったものが販売されていなければ独自調査をすることもあります。“何となく”で探しても見つかるようにデータベースを充実させることを重視しています」(大西氏)

 ナビタイムジャパンは現在、37企業75業態と契約して多様なデータベースを取得している。その中にはタウンページのようにポピュラーなものから、スターバックスやタリーズといったカフェ店舗情報、100円ショップやまんが喫茶の店舗情報まで含まれる。公開されているデータだけでなく、ナビタイムジャパンが個別に店舗チェーンと交渉して入手している情報もある。また、施設や時刻情報の“鮮度”も重視しており、「タウンページ情報なら2カ月に一度、カフェやコインパーキングなど入れ替わりの激しい情報は毎月データの更新をしている」(大西氏)。地図やルート検索アルゴリズムだけでなく、データベースの構築とメンテナンスまでしっかり行うことが重要だという。

 「今後の展望でいえば、最近、急速に増えてきている大規模SC(ショッピングセンター)内の詳細情報を充実させたいと考えています。今後はモーションセンサー搭載の携帯電話が増えると予想されますので、そうするとGPS情報が取得できない(ショッピングセンターなど)施設内でも自立ナビゲーションが可能になる。施設内で探している店舗まで誘導するには、独自のデータベースが必要になります」(大西氏)

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