第6回 数々の挑戦を乗り越えた──「SH904i」誕生の裏側(1/2 ページ)

シャープの最新FOMA端末「SH904i」には、「TOUCH CRUISER」や名刺リーダーを搭載し、独特の表情を持つアルミパネルを採用するなど、さまざまな新しい試みが盛り込まれている。これらの機能はどうやって実現されたのか。開発の舞台裏に迫った。

» 2007年06月26日 10時00分 公開
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 まったく新しいデバイスを搭載する──。それが端末開発の中でさまざまな困難を伴うことは想像に難くない。SH904iに搭載されたTOUCH CRUISERは、やはり開発陣にとっては大きなチャレンジだった。そして新たに採用した「名刺リーダー」も、単純に認識エンジンを組み込むだけで実装できたわけではなかった。シャープとしては3機種目となる背面のアルミパネルの加工も、決して容易な作業ではなかった。

 いくつもの新しい試み、そして一般にシャープが“強い”とされる素材感を生かしたボディは、どのようにして結実したのか。SH904iの開発を担当した通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 主事の安田一則氏、同商品企画部の堀敏幸氏、同第2技術部 副主任の大島久和氏、同第1技術部 主事の奥迫和毅氏、同第2ソフト開発部 主事の中江優晃氏、そしてデザインセンター 係長の水野理史氏に開発の裏側を聞いた。

Photo 左から通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部の堀敏幸氏、第2ソフト開発部 主事の中江優晃氏、デザインセンター 係長の水野理史氏、商品企画部 主事の安田一則氏、第1技術部 主事の奥迫和毅氏、第2技術部 副主任の大島久和氏

“UIの改革”へ踏み出すための新しいデバイス

PhotoPhoto 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 主事の安田一則氏(左)と商品企画部の堀敏幸氏(右)

 SH904iの商品企画を始めたとき、商品企画部のメンバーは、SH900i以来打ち出してきたスペック(デバイス)の優位性や、その後ユーザー層を広げるために取り組んできた、デザインに重心を置いた端末については、ユーザーに一定の支持を得られたと考えていた。そして、今後どういった方向へかじを切るべきか考えたとき、「もう一度原点に立ち返り、基本機能の強化を図ろうということになった」(安田氏)という。

 「携帯電話は、誕生以来操作部分については適宜見直され、改善が図られてきました。しかし、もっと抜本的に新しい操作感を市場が求めているのではないかと考え、“ユーザーインタフェース(UI)の改革”へ踏み出そうということになりました」(安田氏)

 一言でUIの改革と言っても、それを実現するためのデバイスは多数考えられる。実際他社の製品にも、端末のUIを変革すべく新しいデバイスを搭載した機種が存在する。そんな中でシャープは、静電式のタッチパッドを採用することに決めた。

 タッチパッドを選んだ理由は、もともとダイヤルキーや十字キーと共存させる狙いがあったからだ。そのため(トラックボールのような)立体的なポインティングデバイスは検討しなかった。また、一般的な携帯電話の“顔”は維持したまま、ポインティングデバイスも使えるようにしたかったので、ダイヤルキー面に違和感なく搭載できる、シート状のものにしたいという思いがあった。

 搭載する場所は、案外すんなり決まったという。「もともと携帯電話は片手操作が基本ですから、あまりダイヤルキーから上下に離れていると、握った状態で操作しにくくなってしまいます。さらに、操作は十字キー周りで行うことが圧倒的に多いため、使いやすい範囲で置ける位置というのはどうしても限られています。自然と十字キーとパッドの両方が使いやすいSH904iの配置になりました」(安田氏)

PhotoPhoto SH903iの十字キーの上にはスペースがあった(左)。SH904iではここに静電式タッチパッド「TOUCH CRUISER」を搭載した(右)

 ちなみに安田氏は「本当は十字キーやソフトキーのエリアも含めた、メタリックな仕上げの部分全面をTOUCH CRUISERにしたいという思いもあった」と話してくれた。確かに操作性だけを考えた場合、その方がいいという考え方もある。しかし、PCには以前からよく利用されていたデバイスとはいえ、静電式タッチパッドがシャープの携帯電話に搭載されるのは初めてであること、もともとのコンセプトではキーとパッドの共存を考えていたことなどから、両方が違和感なく使える形になった。

 ただ、やはり十字キーより上にあり、多くのユーザーは十字キーでの操作に慣れ親しんでいるため、TOUCH CRUISERが使える場面でも、つい十字キーを使ってしまうケースは多いはずだ。TOUCH CRUISERを使ってもらうために、十字キーとTOUCH CRUISERを逆に配置するという可能性はなかったのだろうか。

 デザインを担当した水野氏は、「使用頻度を考えると、ダイヤルキーと十字キーがもっとも高いので、それら2つは近い位置に配置するのが自然です。ですから十字キーとダイヤルキーの間にTOUCH CRUISERを入れるということは考えませんでした」と話す。UIの変革といっても、あまりに劇的に変えすぎてしまうとユーザーの使い勝手を損ねてしまい、拒絶されてしまう可能性もあるからだろう。

外から見ると空いているように見えるが──決して簡単ではなかった実装

PhotoPhoto 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第1技術部 主事の奥迫和毅氏(左)、通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第2技術部 副主任の大島久和氏(右)

 「端末は可能な限り薄く、コンパクトにしなくてはならないので、内部の部品のレイアウトは常に試行錯誤しながら、無駄なスペースができないようにしています。ですから、外から見えるほど中は空いているわけではありません」とは設計を担当した奥迫氏。SH903iで十字キーの上側にスペースがあるように見えるが、これはカメラユニットと十字キーが重ならないようにしていたためだ。「その部分にセンサーを持つデバイスを組み込むことになったため、どういうふうに実装するか、またどうやって制御用のチップとTOUCH CRUISERを接続するか、時間をかけて模索しました」(奥迫氏)

 奥迫氏が所属する第1技術部は、回路設計や部品のレイアウト設計などを担当する部署だ。TOUCH CRUISERは、表面のセンサーと内部のチップで構成され、回路設計と構造設計の両面からさまざまな検討を行う必要があったため、システム設計や構造設計を担当する第2技術部の大島氏と協力しながらTOUCH CRUISERを実装した。

 TOUCH CRUISERの場所が決まったあとも、さらに解決しなくてはならない問題があった。十字キーやTOUCH CRUISERの周囲は、高級感を持たせるために、金属感のある素材を採用したいというリクエストがあったのだ。

 「TOUCH CRUISERは静電式パッドなので、表面の素材には大きな影響を受けます。商品企画担当やデザイン担当が求める質感を出すためには、どうしても金属系の質感を持つ塗料を使う必要がありました。しかしセンサーで静電容量を検出する際に、金属は邪魔をします。さらにソリッドブラック、クリスタルホワイト、ラインブルー、プレミアムピンクの各色で表面の色を変えているため、塗料も異なり、色ごとに誘電率が違いました。TOUCH CRUISERでは、パッドで検出したデータをチップで処理してカーソルを動かしますが、この部分の調整も本当に大変でした」(奥迫氏)

 素材選びから始まって、静電パッドが下にある状態でソフトキーや十字キーのクリック感を出さなくてはならない苦労もあったという。また、TOUCH CRUISERの表面には、パッドを操作しやすくするための工夫として、縦方向にヘアラインのような筋が入っているが、これも開発陣がユーザーの使いやすさを考えた結果だ。表面をつるつるではなくあえて少しざらざらした感触にすることで、指先に引っかかる感覚を出し、パッドの操作感をよくした。ちなみにこの筋はヘアライン加工ではなく、平らな素材の上にUVコーティングを施し実現している。大島氏によると、筋を横向きにしたものと縦向きにしたものを試作し、操作感を比べた結果、縦の目を採用したという。

ギリギリまで調整を続けたTOUCH CRUISERの操作性

Photo 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第2ソフト開発部 主事の中江優晃氏

 携帯電話の操作そのものも変えることになったTOUCH CRUISERは、ソフトウェアの開発にも大きな影響を与えた。特に苦労したのが、「ディスプレイは縦長なのに、TOUCH CRUISERは横に細長い点」(中江氏)だった。

 「ノートPCなどに搭載されているタッチパッドは、画面の形とパッドの形がほぼ同じなので、それほど違和感なく使えます。一方SH904iは、長い縦方向の操作をするスペースが短い。そのため、結局十字キーで操作した方が速いと思われないよう、またTOUCH CRUISERならではの操作性が生きるよう、時間をかけてパラメーター調整を行いました」(中江氏)

 人によって感じ方が違う“操作感”の部分を細かくチューニングしていく作業は、相当な時間を要したようだ。指の太さや押す力なども人それぞれなので、すべての人に使いやすいパラメータを設定するのは難しい。最適なパラメータを決めるまでに、何度も調査と調整を繰り返した。「一番端から端まで移動させるのに、どれくらいのスピードでカーソルが動けばいいのか、どれくらい指の動きに追随させるか、加速度を反映させるべきかどうか。そういったところを細かく調整していきました」と中江氏は振り返る。

 ベースとなるパラメータが決まったあとも、調整は続いた。メニュー、ブラウザ、電話帳でそれぞれ操作方法が異なるように、同じパラメーターで動かしても、アプリケーションソフトが変わると、同じ結果が得られるわけではない。そのためアプリごとにさらに細かなチューニングを行っている。この調整作業は開発の終盤まで時間をかけたという。中江氏はその結果に「使いやすいといえる状態まで来たと思います」と自信を見せた。

 また場面によってはTOUCH CRUISERを使うことで使いにくくなることも考えられたため、TOUCH CRUISERがアクティブにならないシーンも設けた。例えば端末を開いたときに、TOUCH CRUISERに触れて電話帳の画面が出て、うっかりダブルタップして発信してしまったら、ユーザーにとっては誤動作になってしまう。「はい」「いいえ」を選択するような重要な画面では、自分が意図していない方を選んでしまうことがないよう、十字キーで操作するようにしている。

 中江氏とともに最後まで調整作業に関わった堀氏は「あまりに動きやすくしてしまうと逆に細かな操作ができなくなる。細かな操作ができるギリギリの範囲でできるだけ動くようにする、ということを意識しました」と話していた。

 「フルブラウザなどはかなり使いやすくなっていると思います。だいたい縦に2回なぞると縦1画面分のスクロールができるようになっています。操作に慣れた段階ではかなり直感的に使っていただけるのではないでしょうか」(堀氏)

 実はTOUCH CRUISERの名前が付くまでにも紆余曲折があったそうだ。安田氏は「ギリギリまで名前が決まらず、数え切れないほど案を出しました。たぶん200個から300個くらい考えたと思います。機能をイメージしやすいように、動作的な文言を入れてしまうと、すごく丸い表現になってしまって新しさが出ませんでした。SH904iでデビューする機能ということで、斬新さやとんがった雰囲気を表現し、頭に残るフレーズにしたかったのですが、なかなか思い浮かばなかったのです」とその苦労を話していた。おかげで水野氏は何度もロゴのデザインをし直すことになったという。

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提供:シャープ株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2007年6月30日