有線接続に迫る“ケータイブロードバンド”──「UMB」で下り最大40Mbpsを体験BREW 2007 Conference

» 2007年06月27日 09時28分 公開
[園部修,ITmedia]

 米QUALCOMMは6月20日(現地時間)、EV-DO Rev.Bのデモ(6月22日の記事参照)に続いて、次世代の高速通信規格「UMB」のデモも行った。

 UMBとはUltra Mobile Broadbandの略称で、最大20MHzの帯域を使い、TDD方式を採用(上りと下りの帯域をそれぞれ10MHzずつ確保)した場合、理論値で下り最大288Mbps/上り最大75Mbpsという超高速通信が可能な規格だ。搬送波(キャリア)は1.25MHzから20MHzまでが規格化されている。周波数帯は450MHzから3.6GHzまでをサポートしており、さまざまな帯域で利用できるのが特徴だ。現在はFDD版のみ規定されているが、TDD版も標準化が進んでいる。

 またUMBでは、複数のアンテナを活用するMIMOや、アダプティブアレイアンテナを応用した空間多重技術(SDMA)、電波の位相と振幅を制御して指向性を持たせるビームフォーミングなど、高度な技術を応用して周波数利用効率を向上させている。レイテンシが低い(遅延が少ない)点もUMBの特徴で、EV-DO Rev.Aでは30ミリ秒ほどあるレイテンシはUMBでは約半分の16ミリ秒以下になる。

 なおUMBは、かつてはEV-DO Rev.Cとも呼ばれていたが、EV-DO Rev.Cと呼ばなくなったのは、UMBがEV-DO Rev.Bとの厳密な下位互換性を維持せず、新しい周波数や幅広い周波数帯を活用できるため。現在QUALCOMMではEV-DO Rev.BとUMBは共存するものと位置づけている。

PhotoPhotoPhoto UMBは、EV-DO Rev.Bの後継という位置づけではなく、新たな周波数帯を使ってモバイルブロードバンドを実現する技術として開発されている。幅広い周波数で利用可能なほか、遅延が少ないなど、多くの特徴を持つ

一般的な携帯電話ネットワークと同程度の出力で下り最大40Mbpsを実現

 今回QUALCOMMでは、車に搭載したUMBの実験システムで、移動体でのUMBの性能デモを行った。周波数は20MHz幅を用い、TDD方式で上りと下りにそれぞれ10MHzを割り当てている。実験システムの下りの最大データ転送速度は40Mbps、上りは最大10Mbps。上限がこの速度に制限されているのは、システム的な制約というわけではなく、プロトタイプとして、実際の性能を確認するためのスペックだからだという。

 実験はQUALCOMM本社があるサンディエゴ近郊で実施された。基地局は、本社ビルの近隣にある関連施設の屋上に3カ所設置されており、基地局側の電波出力は約20ワット。端末側の出力は200ミリワット程度で、「一般的な携帯電話とほぼ同じ」(説明員)。

 実験の内容は、車で走行しながらストリーミングデータやFTP、HTTP転送などを行い、ディスプレイ上でデータ転送速度などを確認しながら実際のアプリケーションを動作させるというもの。送信側のアンテナは4本利用し、2レイヤーのMIMOとしている。受信側はアンテナを2本装備し、上りの送信は1本のアンテナで行っていた。

PhotoPhotoPhoto デモは大型のバンで行われた。車内にはPCと各種ディスプレイを用意しており、各作業がモニターできるほか、QUALCOMM車内の会議室とHDビデオでのテレビ会議回線も接続されている

 送受信されるコンテンツはHD動画(ビットレート約9Mbps)を再生しつつテレビ会議(ビットレート約20Mbps)を行いながら、インターネットラジオのストリーミング再生し、「Slingbox」を利用した映像の再生(ビットレート約1.5Mbps)を行い、バックグラウンドでGoogle Earthを動かしてHTTPでのデータ転送を実行。同時にFTPでファイルをダウンロードするというなかなか負荷の高い作業を実施した。

 基地局間のハンドオーバーなどが問題なく行えることや、電波の状態が悪くなった場合でも、QoS(Quality of Service/サービス品質維持機能)によってストリーミング動画はコマ落ちせず、HTTPやFTPのパフォーマンスが低下する様子などが確認できた。

Photo 時速30〜50マイル(50〜80キロ)程度で走る車の車内でデモを行った。走行中のスループットや現在位置が画面上に表示される
PhotoPhoto 左のウィンドウで下りのスループットを、右のウィンドウで上りのスループット表示。アプリケーションごとに色分けされており、QoSにより品質を最優先しているHD動画再生(紫)がほぼ一定なのに対し、そのほかは帯域に応じて変動しているのが分かる(左)。車で移動したルートを表示するウィンドウでは基地局との位置関係が確認できる(右)。基地局はビルAE、ビルN、ビルWTに設置されている

WiMAXとUMBの大きな違いは、移動体環境でのキャパシティ

 昨今、国内の携帯電話事業者各社が導入を検討し、実験を行っている「WiMAX」とUMBの違いについても紹介された。UMBはIEEE802.20として標準化作業が進められている規格とよく似た要素を持っており、もともとモバイル環境に最適化された形でデザインされているのが特徴だ。

 一方WiMAXは、もともと固定のブロードバンド回線を引くのが難しい地域で無線によるブロードバンドを実現するべく開発された規格のため“モビリティ”が考慮されていなかった。その後規格化された「モバイルWiMAX」で、移動体での利用を考慮した仕様が盛り込まれたが、キャパシティはUMBよりも低いという。

 特にVoIP(データ通信を利用した音声通話)を利用するシーンでは、WiMAXはユーザー数が増えると極端にキャパシティが下がると指摘。UMBでは、多人数でVoIPを利用してもキャパシティはあまり下がらないという優位性を示した。

Photo 同じモバイルブロードバンド規格として注目を集めるWiMAXとUMBを比較すると、UMBはもともとモバイル向けに設計されている点が大きな特徴で、特にVoIPを扱う場合のキャパシティに大きな差が出ると指摘

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