日本の顧客をサポートすることで、OMAPはさらに進化する──日本TI 水上修平氏ワイヤレスジャパン2007 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)

» 2007年07月05日 22時44分 公開
[石川温,ITmedia]
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さらなるハイエンド化が進む、これからの携帯電話

ITmedia 今後、携帯電話はどのように進化していくでしょうか。

水上 ハイエンド端末はマルチメディアの用途がさらに重要視されると思います。映像はDVD品質、ゲームはアーケードゲームレベル、デジタルカメラは12Mピクセル、GPSといった付加機能が求められます。

 ミドルクラスは、それに対してワンランク控えめな性能になります。デジタルカメラなら2〜3Mピクセル程度。ローエンドは“音声のみ”から“最低限のアプリが載る”ようになってきます。

 あとは、ユーザーインタフェースの面で着目すると、これまではボタンを押して操作していたわけですが、これからは、より人間の感覚に近いインタフェースが求められるでしょう。TIでは“モアヒューマン、レスマシン”と呼んでいます。このあたりはプロセッサの性能に跳ね返ってくる。アプリケーションプロセッサに求められる性能は増えることがあっても減ることはないと思います。

ITmedia モバイルWiMAXのような、新しい無線ブロードバンドは、どのように携帯電話と統合されると見ていますか。

水上 WiMAXの技術はポテンシャルがとても高いと思っています。スーパー3Gや4Gと共存していくでしょう。TIとしては両者が共存するのは歓迎すべき方向だと考えています。

 WiMAXはOFDMがベースになっていますが、TIでは無線LANやDSL、UWB、デジタルテレビといったものを開発しており、すでにOFDMで実績があります。WiMAXもTIの技術の蓄積を生かせる分野です。

ITmedia TIとしてチップを提供する可能性はありますか。

水上 現在、あるお客様とWiMAXをベースとした製品展開を進めつつあります。もうしばらくすると発表できるようになると思います。その技術を生かして、さらに横展開する可能性もあります。

 WiMAXに限った話ではありませんが、われわれは海外の大手端末メーカーとの結びつきが強く、彼らにはカスタムチップを作って納めています。カスタムチップとして作った技術をTIでさらに独自に進化させ、われわれの独自チップとして作ることがあります。WiMAXでそれが適用されるとは限りませんが、そういった可能性も考えられると思います。

ITmedia 日本メーカー向けにもカスタムチップを作っていますか

水上 OMAP自体は標準品ですが、日本の顧客のニーズを汲んで開発しているので、ほとんど「ジャパンカスタム」といってもいいくらいのものになっています。日本で展開して、こなれたところで日本以外の展開につなげるような感覚です。日本の次は欧州が多い。あとは北米などに展開していきます。

ITmedia 携帯のスペックは、いまでも日本と海外との間で2〜3年くらいの差があるのでしょうか。

水上 今は、その差は縮小傾向にあります。特にマルチメディアでいえば、韓国は日本とあまり代わらないポジションにいます」

ITmedia モバイルテレビへの取り組みはいかがでしょうか。

水上 かつてチップを出していたことがありました。しかし日本で採用されたISDB-Tという規格は、日本以外にブラジルしか採用していません。世界を見渡すと、ほとんどがDVB-Hなのです。いまでこそ日本ではワンセグの普及率が上がっており、重要度は高まっていますが、わたしたちはワールドワイドの展開を優先しているので、ISDB-Tがネックになっているわけです。今はストラテジーの見直しをかけている状態です。

ITmedia 先日、DLPをケータイに内蔵するソリューションを発表しましたが、そういった方向もあり得るのでしょうか。

水上 すでにコンセプトのデモもお見せしていますが、アイデアとしては、ノートPCでできていることを携帯電話でもできるようにしたいと思っています(3月30日の記事参照)。例えばビジネスマンが出先でプレゼンテーションする場合、プロジェクターを持って行くこともありました。携帯電話にプロジェクター機能を内蔵すれば、B4くらいの映像を投射することも可能です。ただし、ここで課題になるのが消費電力。投影していると電池がなくなってしまうので、そこが克服できれば製品化も視野に入ってきます。

日本の顧客のサポートは至上命題、1チップソリューションにも注力

ITmedia 世界から見た、日本TIの位置づけはどうなっているのでしょうか。

水上 日本ではOMAPを中心に順調に実績を積み上げ、伸びています。TIにとって日本は、全マーケットにわたってTIがワイヤレスで培った技術とポートフォリオを生かせる有望な市場であり、日本の顧客をサポートするのは至上命題だと考えています。これからはOMAPやOMAP-Voxといった1チップソリューションに力を入れていくつもりです。

ITmedia チップセットが高機能化していくことで、気になるのが電力消費です。省電力対策について教えてください。

水上 さきほど、OMAP 3430で65ナノメートルプロセスになっていると説明しましたが、プロセスが微細化すると漏れる電流が大きくなり、低省電力化の面では不利になってきます。しかし性能を上げようと思えば、高いクロック周波数が必要になって、電力を消費してしまいます。それではどうすればよいのか。

 プロセスが微細化すると、低い電圧で動かすことができるようになります。OMAPの場合、きめ細かい電源管理ができるので、動作周波数をダイナミックに調節して、使いたいときに動かし、終わったときにクロックを止めてパワーダウンします。

 ある処理をするときに必要な周波数を見ておき、わざとゆっくり動かし、フル電圧ではなく、必要な周波数に合わせた電圧にします。電源の管理を細かく制御することで、低消費電力化を図るのです。すでにOMAP 2時代から取り組んでいますが、OMAP 3ではそれをさらに進化させています。プロセスが微細化し、周波数が上がるという低消費電力化とは逆の方向に行きながら、電力が上がらないよう努力しているのです。

ITmedia 最後に、TIから読者に向けてメッセージをお願いします。

水上 ワイヤレスはほかの技術に比べて、進化が速い分野。ここで培った技術はほかの分野にも生かしていきたいと思っています。特に日本で手がけている分野は、TIが培った技術の蓄積を生かせるので、力を入れてリソースを投入し、顧客をしっかりサポートしていきたいと思っています。

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