ネット連携に共通プラットフォーム、韓国携帯市場の2007年後半戦を占う韓国携帯事情

» 2007年07月24日 19時17分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 2007年もすでに後半に入った。今年の韓国携帯電話市場は、HSDPAの全国サービス開始などにより、キャリアの力関係に変化が見られた。環境面がひと通り整った2007年後半戦は、ユーザーサービスやプラットフォームの共通化など“中身”が争点になりそうだ。

他社との共同サービスを進めるKTF

photo 「ADU-620WK(FOMA A2502 HIGH-SPEED)」。下り最大3.6Mbpsで、国際ローミングにも対応。第4四半期中に販売開始する

 7月初旬、KTFのHSDPAサービス「SHOW」の累積加入者が100万人を突破した。5月中旬の50万人突破から、2カ月弱で約50万人の会員を確保したことになる。

 KTFによると、SHOW加入者のARPUは4万3019ウォン(約5700円)で、2G加入者の3万8665ウォン(約5100円)より11.3%高い。テレビ電話は、加入者全体の35.6%程度が利用し、その後も増加傾向にあるという。同社はユーザーの“量”だけでなく、“質”も向上していると強調する。

 KTFの今後の課題は、獲得した会員をいかにつなぎとめ、新規会員をどう取り込むかにある。そのため、新しい料金制や映像関連サービス、端末とローミングサービスの拡充を目標として掲げた。中でも注目なのが、マイクロソフトとの提携だ。

 両社は、携帯電話とPCの連動サービスを共同開発する契約を交わしている。手始めに、携帯電話で撮った写真や動画をインターネット上にアップロードできるサービスを拡大。その後、IPTVやホームネットワークといったサービスへと応用する方針だ。今後も、注目度の高いサービスが生まれることが予想される。

 また先日は、NTTドコモと共同でHSDPAモデム「ADU-620WK(日本名はFOMA A2502 HIGH-SPEED)」を調達すると発表した(7月13日の記事参照)。これは、KTFの「iPlug」やSK Telecom(以下、SKT)の「T LOGIN」と同様、USB接続型の端末でノートPCなどでもHSDPA通信を可能とするものだ。

 KTFによると、これは両社が2005年末に資本提携した際に設立した「BTCC」(Business & Technology Cooperation Committee:事業・技術協力委員会)(2005年12月の記事参照)による、端末共同調達プロジェクトの一環として開発された最初の端末なのだという。

 音声端末では、「WIPI on BREW」というプラットフォームを搭載した携帯電話を近く発表する予定だ。これは、プラットフォームにBREWを採用し、その上でWIPI対応アプリを動かす技術。これによりBREWとWIPI両方のコンテンツに対応できるようになる。

 KTFにとっては、対応コンテンツの幅を広げるためにも、海外でも広く商用化されてもいるBREWの導入は必要で、SHOWサービス拡大の鍵となる部分だ。コンテンツプロバイダとしては、コンテンツをBREW対応させることで海外進出への道も開かれるかもしれない。

インターネット機能で追いかけるSKT

photo SCH-M620。eメールサービスは3000ウォン/月(約400円)、モバイルメッセンジャー2.0は5000ウォン/月(約660円)の定額料金制

 図らずもKTFを追う立場になったSKTは、7月に入り立て続けに新サービスを発表している。そこからは、インターネット関連サービスに力を入れる姿勢が見て取れる。

 網開放事業(2006年12月の記事参照)に力を入れる同社は、「Open i」サービスを開始した。これはSKT独自のインターネットサービス「NATE」とは別に、コンテンツプロバイダ側で運用している網開放サイトを、簡単に検索できるゲートウェイサイトだ。

 SKTによると、現在網開放サイトはポータルから金融、ショッピングモール、タクシー、花の配達まで約500以上あるという。Open iでは、この中から好みのサイトを見つけられるよう、多くのアクセスを集める人気サイトをトップ画面に表示。ユーザーごとのブックマーク機能も提供する。

 このほか、韓国でも販売が開始されたQWERTYキーボード搭載のSamsung電子製スマートフォン、“ブラックジャック”こと「SCH-M620」向けメールサービスも開始している。

 ブラックジャックはもともと、2006年にSamsung電子が米Cingular Wireless向けに提供した端末だ。この端末に合わせて提供されたのが「eメールサービス」と「モバイルメッセンジャー2.0」だ。

 eメールサービスは、携帯電話のメニュー画面にメールソフトを搭載したもので、メールチェックのためにわざわざインターネットに接続する必要がなく、SMSのように自動受信した後アラーム音で通知してくれる。Microsoft Officeの文書や静止画などのファイルを利用でき、アカウントも5つまで登録可能と、PCでメールを使うような環境を提供する。

 モバイルメッセンジャー2.0は、テキストだけでなく、静止画や動画も共有できるマルチメディアメッセンジャーサービスだ。例えば、チャット中に撮影した動画を、チャット相手にもリアルタイムで見せることができる。このサービスは今のところ、SKTの会員同士で可能だが、2008年には他社ユーザーとの連動も可能にするという。さらにこの2つのサービスは、今後発売されるすべてのW-CDMA携帯に搭載する予定だという。

 またSKTは、SK TellinkなどのVoIP3社と提携し、VoIPと携帯電話間のテレビ電話による通話サービスも開始した。さらに携帯電話以外の端末でもHSDPA通信を可能にするT LOGINのモデムに、下り最大7.2Mbpsまで対応する新モデルを追加することも発表した。

 プラットフォームにおいては、なんとSKTとLG Telecom(以下、LGT)が協力している。両者はSKTが独自開発したUIプラットフォーム「T-PAK」の共同利用について、MOU(Memorandum of Understanding :技術交流についての覚書)を締結した。

photo 下り最大7.2Mbpsの通信が可能なT LOGINモデム。7.2Mbps通信が可能なのは、ソウルおよび近郊の一部地域のみ。既存の同型のモデムのソフトウェアをアップグレードするだけでも7.2Mbps通信に対応する

 T-PAKは、メーカーが提供するアプリケーションやキャリアの各種コンテンツやソリューションをWIPI上で1つに結びつけるパッケージ型プラットフォームだ。例えば、携帯ナビの「NATE Drive」を新たに提供する場合、従来なら端末製造時に必要なアプリケーションをWIPI上にポーティングする必要があった。しかしT-PAKを利用すれば、ユーザーがアプリケーションをインターネットを通じてダウンロードするだけでアップグレードでき、端末を機種変更しなくてもサービスの更新が可能になる。T-PAKは、韓国だけでなく世界展開も目標に開発したSKTの意欲作で、最初の搭載端末は8月にMotorolaから登場する予定だ。

 今回結ばれたMOUの期限は2010年7月までで、それまでに両社が共同のタスクフォースを作り開発を行う。2社が協力することでT-PAKの普及が速まるだけでなく、LGTとSKTのコンテンツ共有が進み、ユーザーの利便性も向上しそうだ。ただこのT-PAKは、KTFのWIPI on BREWに真っ向から対抗する存在であり、プラットフォームの覇権争いに発展しそうな様相を呈している。

 2007年前半は、KTFの勝利で終わったHSDPAの市場競争。後半はこのまま優位を維持したいKTFと、なんとか追い越したいSKTとでさらに激しい争いが予想される。またLGTはEV-DO Rev.Aを2007年末頃までに開始するといわれており、先の見えない緊張状態が続くと思われる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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