“スマートフォン=HTC”を目指す──HTC Nipponの挑戦今、SIMロックフリー端末を出す理由(1/2 ページ)

» 2007年07月26日 20時17分 公開
[園部修,ITmedia]

 2006年、NTTドコモとソフトバンクモバイルにそれぞれ「hTc Z」「X01HT」という2機種のWindows Mobile搭載スマートフォンを供給し、にわかに注目を集めるようになった台湾HTC。同社は世界のWindows Mobile搭載スマートフォン市場で8割のシェアを持ち、世界各国でさまざまな形のスマートフォンを発売している“スマートフォン専業メーカー”だ。

 HTCが国内市場に参入した当初は、日本でその名を知る人は少なかったと思われるが、すでにソフトバンクモバイルから3機種目の端末「X02HT」の発売が決まっている。さらに7月18日には、9月以降に自社ブランドで「HTC X7501」「HTC P3600」を投入することを明らかにしており(7月18日の記事参照)、存在感を強めている。

 HTCは今、日本市場でどんなことに取り組み、国内スマートフォン市場をどう見ているのか。HTC Nipponビジネス・ストラテジー&マーケティング本部 ディレクターの田中義昭氏に話を聞いた。

Photo HTC Nippon ビジネス・ストラテジー&マーケティング本部 ディレクターの田中義昭氏

「W-ZERO3」の登場から、業界の流れが変わった

 「いわゆるPDAと呼ばれるデバイスには、過去にいろいろと不幸な歴史がありました。しかしこの夏以降は“今度こそ”という芽が出てきたと思っています」(田中氏)

 日本では携帯電話が広く普及する前から、PDAと呼ばれる小型のデバイスには一定の需要があった。読者の中にはPocket PCやPalm、CLIE、Zaurusなどのデバイスを持っていた人もいるだろう。これらのデバイスはスケジュールやアドレス帳など、いちいちPCを起動するのが面倒なちょっとしたデータの閲覧や、ドキュメントファイルのビューワとして活用されていたが、ノートPCの小型化、そして携帯電話の高機能化にともない、市場はだんだんと縮小の道をたどった。

 しかし、2005年12月にウィルコムが、Windows Mobileを搭載し、通信機能を備えたスマートフォン「W-ZERO3」を発売したことで、業界の流れが変わった。PDAが通信機能を標準装備し、いつでもどこでも通信ができるようになったことで、新たな利用スタイルとユーザーを獲得したのだ。それ以降、市場規模は反転し、徐々に拡大してきている。

 田中氏はIDCやガートナーなどがおよそ60万台程度としているPDA市場の調査結果から、2006年はその約半分の30万台程度が通信機能を持ったスマートフォンだと推定する。では2007年はどうなのか。

 「現在マイクロソフトさんが“目標100万台”とおっしゃっているので、仮に2007年の市場規模が約100万台だとすると、やはりその半分の50万台程度がスマートフォンになると見ています。2007年1月から6月までの出荷台数の推移は、2006年とほぼ同じくらいです。7月以降にウィルコムさんの『Advanced/W-ZERO3[es]』や我々のX02HTが出てきますので、下半期にはぐっと出荷台数が増えると考えています」(田中氏)

 将来的にはマーケットはさらに広がるが、従来型の通信機能を持たないPDAは減っていく。そしてゆくゆくは200万台、300万台という規模まで伸びてくると田中氏は予想する。

ソフトバンクが「X01HT」を採用した功績は大きい

 ではHTCのワールドワイドの視点から見て、日本市場はどう映っているのだろうか。田中氏は「日本の携帯電話市場がかなり特殊であることは間違いありません」という。そもそも日本の携帯事業は、ビジネスモデルが海外とは根本的に異なる。日本では、端末メーカーがキャリア向けに端末を開発し、キャリアはそれを購入して自らのブランドで販売する。端末向けのサービスなどもキャリア主導で開発/導入されるため、一般に「垂直統合モデル」と言われる。

 一方で、HTCが手がけるWindows Mobile搭載端末は、どちらかというとキャリアや端末メーカー、サービスプロバイダがそれぞれの役割を分担して担う「水平分業モデル」に属する製品だ。海外ではユーザーが端末とキャリアの組み合わせをある程度自由に選べる場合が多い。また自由にアプリケーションソフトをインストールし、好みに合わせてカスタマイズしたりもできる。ただ、キャリアが提供するサービスなどが受けられない場合もあるなど、使い勝手が悪くなるケースもあり、垂直統合モデルに適合していないスマートフォンの普及には大きなハードルとなる。

 また、日本では音声端末自体がスマートフォンと呼べるだけの機能を備えており、欧米とは事情が異なる点もWindows Mobile搭載機にとっては逆風といえる。欧米では、端末はどちらかというと通話とSMSの利用がメインで、メールは別のデバイスを利用していることが多かったため、受け入れられる素地があったが、日本のようにメールからWebアクセスまですべてカバーできる端末がある市場で、Windows Mobile端末が広く普及するには、もう少しユーザーの認知度を高めていかなくてはならないと田中氏は考えている。

 しかし、やはりユーザーの中には“音声端末の機能では満足できない”“もう少しインターネットに近い方がいい”と考えている人たちがいたわけで、「X01HTという、PHSではない3Gのスマートフォンを出したソフトバンクモバイルの決断は大きかったと思う」と田中氏は話した。

 「携帯キャリアは、どうしてもコンテンツプロバイダに気を遣って、Windows Mobileのようなオープンなビジネスモデルは手がけにくいが、ソフトバンクモバイルは開かれたモバイルインターネットを標榜し、Windows Mobile搭載モデルを投入しました。この功績はすごく大きかったと思います」(田中氏)

ターゲットはビジネスコンシューマーのコアユーザー

 この拡大基調のスマートフォン市場で、HTC Nipponが目指すことの1つが、ユーザーの認識を、「スマートフォン=HTC」に変えることだ。

 「現在、多くのお客様が“調味料=味の素”といった感覚で“スマートフォン=ウィルコム”と認識していらっしゃいます。確かに2006年の前半までは、W-ZERO3シリーズしか市場になかったのでその通りでしたが、我々が『X01HT』を発売してからは、市場の約3割から4割はHTCが占めていると推定しています。大げさな言い方をすれば、我々がスマートフォン市場の多様化を実現したわけです。

 真のスマートフォントは、3Gに対応していて、QWERTYキーやテンキーの有無や、タッチパネルの有無などさまざまな形態を選べる必要があります。それを提供できるのがHTCです」(田中氏)

 現在スマートフォンを利用しているユーザーは、いわゆるビジネスコンシューマーと呼ばれる人たちだ。スマートフォンを仕事でもプライベートでも活用しているが、いわゆるエンタープライズ向けのソリューションを利用しているというわけではない。このビジネスコンシューマーユーザーがHTCのターゲットだ。ビジネスコンシューマーの中でもコアなユーザーを中心にして、その周りを固めていくことですそ野を広げていく。

 「すそ野を広げていくことは重要です。そうしないと、またPDAと同じマーケットサイズに戻ってしまう可能性もあります。スマートフォンはQWERTYキーやタッチパネルが付いている、というだけでなく、さまざまなフォームファクタがあるので、ユーザーの用途に合わせた多用な端末を展開していく必要があると考えています」(田中氏)

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