「写メール」のように「ポケットフィルム」のカルチャーを広めたい──藤幡正樹氏「ポケットフィルム・フェスティバル」ってなに?(1/2 ページ)

» 2007年09月18日 23時28分 公開
[房野麻子,ITmedia]

 携帯電話を撮影機材とする映画祭「ポケットフィルム・フェスティバル」が、東京藝術大学とソフトバンクグループの主催で12月に開催される。この映画祭はパリ市立映像フォーラム「フォーラム・ド・イマージュ(Forum des images)」が2005年から開催してきたものだが、日本で開催することでアジア・太平洋地域からの参加を働きかけ、携帯電話による映像表現の発展を狙う。

 ポケットフィルム・フェスティバルを日本で開催することになった経緯や応募作品への期待、携帯で映像を撮ることの意味、フェスティバルでソフトバンクが果たす役割について、メディア・アーティストであり、東京藝術大学大学院映像研究科長でもある映画祭の実行委員長、藤幡正樹氏と、ソフトバンク広報室の長束康孝氏に聞いた。

フランスに先を越された「ポケットフィルム・フェスティバル」開催

ITmedia 「ポケットフィルム・フェスティバル」は、フランスで始まったものと聞きました。今年の6月に第3回目が開催されたそうですが、どうしてフランスで始まったのか、またそれをどうして日本で開催しようと思ったのか、お聞かせください。

Photo メディア・アーティストであり、東京藝術大学大学院映像研究科長でもある藤幡正樹氏

藤幡正樹氏(以下敬称略) 実は4年くらい前から、僕自身がこういうフェスティバルをやりたいと思っていたんです。当時、フランスの友人と色々な話をしていたのですが、その中で、世の中の映像はどんどんハイデフィニション化(高解像度化)していくけれど、実は低い解像度の方が面白いのではないか、という話がありました。そのときは“ローデフィニション・ムービー”なんていうのもいいよね、といって盛り上がっていたんです。それで、それを形にしようと色々やっていたのですが、なかなかうまくいかなかった。そうこうするうちに、その友人から「フランスで(ポケットフィルム・フェスティバルが)始まったよ」と連絡を受けて“ガーン”としちゃったんです(笑)。

 ポケットフィルム・フェスティバルの第1回では、ジャン=シャルル・フィトゥスィという若い映画監督が話題になりました。彼は携帯で撮影した映像で77分の作品を作ったんです。非常に長時間という点でも面白いんですが、見ても非常に面白いんですよ。そこで今年の1月に彼を東京藝術大学に呼んで、彼の作品やそのほかのポケットフィルムを上映しました。藝大は企業と関係を結ぶ取り組みを色々とやっているのですが、このポケットフィルムを上映した際に、ソフトバンクの方も来てくださって、「これ、どうですかね」「面白いからやりましょう」というような話になったんです。

 今後は、日本で集めたいい作品をフランスで、フランスで集めたいい作品を日本で、というように、6月にフランス、12月に日本の年2回、ポケットフィルム・フェスティバルをやっていく予定です。日本で応募して、高い評価が集まれば、フランスでも上映されます。

今まで撮れなかった映像が撮れるケータイ

ITmedia 藤幡さんがローデフィニション・ムービーに興味を持つ中で、あえてケータイに着目されたのはどういった要因でしょうか。解像度が低い、という意味では、デジカメの動画撮影機能を使ったり、古いムービーのカメラで撮るといったアプローチもあると思うのですが。

藤幡 ケータイにカメラが付いているということは本当に画期的なことなんですよ。でも、どう画期的なのかを掘り下げている人が実は皆無に近いんです。ケータイのすごいところは、みんながいつでも持っているということです。デジカメとケータイと、どちらか1つだけ持って出かけるとしたら、ケータイを持って行きますよね。

 いつでもどこでも持っているケータイなら、今まで撮れなかった映像、撮り損なっていた映像を撮れるはずです。しかし、そういったところも深められていません。概念としては分かるけれど、「あ、あのときカメラを持っていたらよかったのにな」というものが、もうちょっと高いレベルでつながってくるということはどういうことか。こういったことを考えるためにも、ポケットフィルム・フェスティバルは必要だと思っています。

 携帯電話には、時計や計算機から始まって、カメラ、テレビといろいろな機能が付いていますが、それぞれの関係性は全然取れていません。メーカーは機能として全部詰め込んでいるけれど、あとはユーザー任せなんです。

 でも、クルマの場合は違っていますね。クルマはメーカー側が「こういうライフスタイルには、このクルマ」というように、使い方やパッケージを設定して、ユーザーのライフスタイルに合わせて提案しています。

 でも、ケータイの場合はそうではなくて、「ともかく全機能がそろっているから、あとはお好きにどうぞ」という形になっています。非常にシンボリックで、商品のあり方自体がすごくデジタルなんです。それに対して、ユーザー側で「こういう風に使えるじゃん」という提案があるべきというか、あって当然だと思うんですね。僕はそういうユーザーからの提案の場として、このフェスティバルを見ています。

日本でも、驚くような作品がきっと出てくる

Photo

藤幡 フェスティバルを開催する理由は、集めることが大事だからだと考えているからです。集めて、並べてみることによって見えてくるものがあります。並べたときに初めて差異が見えてくるんですね。それによって、これは古い考え方だとか、これは今までなかったものだとかが分かるわけです。

ITmedia コンテストをやることで、考えもしなかったことが出てくるかもしれない、ということですね。

藤幡 作った本人は新しいものだと気づいていない場合があるんです。本人は単に面白いから、という理由で作ったものかもしれませんが、別の視点で見るとすごい新しい使い方だ、と驚くことがあります。

 一例を挙げましょう。ある場所に木があるとします。そこでセミが鳴いています。僕が「Aさん、あそこにミンミンゼミがいるよ」と言うと、「どこどこ?」と聞かれるような状況ってありますよね。Aさんがセミを見付けられないと、お互いに顔を近づけて「あそこだよ」と指を差し、少しでも近い目線を示そうとするわけです。立ち位置や、木の枝に止まっているセミを見極める力などは人によって違いますから、目線を可能な限り合わせる必要があるわけですね。

 でもここでケータイをセミに向けて、パッと写真を撮って「これだよ」と見せたら、相手にはそれだけで一発で伝わるんですよ。これは実はすごいことなんです。言葉で「それ」とか「これ」と指す機能をシフターというのですが、ケータイのカメラはシフターになるんです。

ITmedia 人の目線を共有できるということですね。

藤幡 そうです。僕の視線をポンとはずして、ケータイに入れられるんです。でも、まだこういった概念をズバッと表現する作品は出てきていない。このフェスティバルで出てくると面白いと思いますね。

 さっきお話しした、77分の映画を作ったフィトゥスィさんの影響力はすごく大きいんですが、誰かが日本でまた驚くようなものをポンと出せば、みんなプチっと弾けますよ。僕はプチっと弾けるところが見たいわけです。

 その77分の映画は、パリからイタリアに行くという設定で、日記のように撮ったものを編集して、後付でストーリーを作っています。半分フィクションで半分ドキュメンタリーみたいなもの。携帯電話の持っている写りの悪さみたいなのが、逆にすごくきれいなんです。薄暗いところで人がうごめいている様子が、すごく面白く見える。

 また、あるパーティ会場を撮っているシーンでは、給仕さんもお客さんもまったく撮られていることに気が付かない。きわめて自然な姿で映っているのです。これはケータイじゃなきゃ難しい。これと同じことを普通のカメラでやろうと思ったら、全員役者にして、自然に見えるように全部仕込まないと撮れません。それがケータイならパッと撮れてしまう。ただ、最後に撮っているのがバレてちょっと大変だったらしいですねどね(笑)。常にそういう問題を抱えてはいますけれど、とても面白い映像が取れると思います。もちろん法に触れない範囲である必要はありますけどね。

 また、イタリアの2人組みが、愛をテーマにインタビュー形式の作品を撮っているらしいです。うるさいクラブの中やバーなんかで、ケータイを相手に向けて「どう思いますか?」みたいに撮っている。みんな相当赤裸々なことをしゃべっているらしいですよ。そんなことは今まではありえなかった。カメラを向けた途端に、相手は身構えてしまいますからね。

これまでのポケットフィルム・フェスティバルに集まった作品

フランスで開催されたポケットフィルム・フェスティバルでは、第1回、第2回にそれぞれ400本程度、第3回には1500本程度の作品が集まったという。フランスPocket Films Festivalの公式サイト(http://www.festivalpocketfilms.fr/)には、フェスティバルで集まった作品の一部がアーカイブされている。

 「ありとあらゆる作品が集まっています。編集なしで撮りっぱなしのものから、かなり編集しまくりのものもあるし、これってCGじゃないの、と思えるようなのもあります。日本だと公開を躊躇するような作品もありましたね」(藤幡氏)

 このサイトは日本のポケットフィルム・フェスティバル公式サイト(http://www.pocketfilms.jp/)からもリンクされている。


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