教会ケータイ/バイブルフォン/仏教サイト――モバイル市場で“宗教ユーザー”をつかめ韓国携帯事情

» 2007年11月06日 20時37分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国はキリスト教が普及している国だ。夜、韓国の町を歩いてみると、赤い十字のネオンサインをあちらこちらで見かけるのだがこれは、病院のものではなく、すべてキリスト教会なのだ。それほどたくさんのキリスト教信者がいることの表れだが、それをビジネスチャンスに変えてしまうのが、韓国の携帯電話キャリアだ。

熱心なキリスト教徒が多い韓国

photo KTFの説教サービス。テレビ画面に出力されているような動画が見られる

 韓国政府の統計庁による「2005年 人口住宅総調査」によると、韓国の仏教徒は1072万6000人で人口比率は22.8%。プロテスタントは861万6000人で同18.3%、カトリックは514万600人で同10.9%となっている。プロテスタントとカトリックを合わせてキリスト教徒とすれば、合計1375万6600人で29.2%と仏教徒よりも多くなる。

 韓国にはプロテスタント、カトリック、いずれも大変熱心な信者が多く、礼拝のある週末ともなると、教会の周辺は信者たちや車であふれる。信者同士が教会で親交を深めるだけでなく、ビジネス上の人脈が増えたりすることもあるので、キリスト教を通したネットワークが広りを見せているのだ。

 なかでもプロテスタントは特に布教活動に熱心で、団結力も固いことで有名だ。今年12月に行われる韓国大統領選挙でも、候補者の1人がプロテスタントであるため、信者から多くの票を集められるだろうとの噂である。

 そんなプロテスタントに向けてサービスを開始したのがKTFだ。同社のCDMA2000 1x EV-DOサービス「Fimm」とHSDPAサービス「SHOW」を通じて、「モバイル説教サービス」を提供している。

 このサービスは「韓国最大の説教動画数を有する」(KTF)という、韓国プロテスタントインターネット放送「C3TV」と提携して実現したものだ。韓国内外にある152カ所もの教会牧師による動画を高速インターネットサービスで見たり、あるいは音声ファイルを携帯電話にダウンロードして聞くことができる。ちなみにこれはあくまでプロテスタント信者へのサービスであり、カトリック信者は含まれていない。

 0.9ウォン/1Kバイトのデータ通信料さえ払えばコンテンツ料はかからず、教会別に2本までの説教動画を無料で見られるという太っ腹ぶりだ。サービス提供には協会側も積極的なようで、KTFによると賛美歌の提供などすでに次のサービス提供も検討しているという。

KTFの教会ケータイ

 筆者は先日、韓国人の友人から「KTFの教会携帯に加入しないか」と誘われた。聞くと番号ポータビリティを利用してKTFの“教会ケータイ”へ加入すれば、端末を無料で手に入れられるのだという。その代わり3カ月間は、先の説教サービスに加入する必要がある。筆者はキリスト教ではないためこの話を断ったが、携帯電話が無料という言葉にかなり心を動かされた。

 しかしよく考えて見ると、筆者に教会携帯をすすめた友人はカトリックだったはず。説教サービスはプロテスタント向けのもので、カトリックに関係ないのではないだろうか……。聞くと友人は、SK Telecom(SKT)ユーザーだったが、無料の魅力に負け番号ポータビリティで教会ケータイを契約したという。説教サービスは、プロテスタントである夫が時折利用しているとのこと。つまり教会ケータイは信者専用というわけではなく、契約者が本当にプロテスタントかどうかまでは問わないようなのだ。

 携帯電話を実質的に無料でばら撒き、まずは加入者を増やそうという「無料ケータイ」戦略は、HSDPAを始めとした加入者獲得競争の激化とともに韓国で増えている手法だ。端末を安く入手できるが、さまざまな付加サービスや料金制に一定期間(大抵の場合は3カ月程度)加入しなければならない。しかしその効果は絶大で、KTFのSHOWはいまや加入者が200万人を超えている。

 ちなみにこの教会ケータイはCDMA2000 1x EV-DO方式のFimm端末に限られている。また番号ポータビリティではなく新規加入した場合は、携帯電話代を支払わなければならない。結局のところ、番号ポータビリティで他キャリアからユーザーを獲得するのが目的なのだろう。そのために幅広いネットワークを持ち、敬虔で忠実な信者が多いプロテスタントに目を付けたというのは、韓国ならではの発想かもしれない。

 教会ケータイはKTFが全社をあげて大々的に営業している商品ではないのだが、発想自体にユニークさが感じられた。先に述べたように、携帯電話を契約する際は、大抵の場合複数の付加サービスに一定期間加入しなければならないが、期間を過ぎると、すぐにサービスを解除する人も少なくない。その点宗教は、求心力が大変強く独自ネットワークによる口コミ効果も期待できるサービスではないかと思われるのだ。

総合宗教情報を扱うLG Telecom

 プロテスタントに限らず、幅広い宗教を対象にしたサービスを展開しているのがLG Telecom(以下、LGT)だ。

 「バイブルフォン」サービスでは、インターネットを通じて各種プロテスタント情報を提供する。説教を聞いたり教会情報を発信するだけでなく、関連製品のショッピングサイトや賛美歌着メロ配信など、何でもありのプロテスタント専門サービスだ。

 カトリック向けにも別途サービスを用意している。カトリック界の各種情報や教会探し、ミサ映像視聴など、こちらもトータルなサービスを提供する。また仏教向けにも、寺院や僧侶の検索、最新情報の提供、仏教同好会サイトの運用など、さまざまなメニューを用意しているという。

 これらのサービスは、ニュースや急な連絡事項も即座にチェックできる手軽さがある。さらに、忙しい中、教会やお寺に足を運ぶ必要なく宗教的な行事や情報に触れられるというメリットもある。LGTは今後、こうした宗教サービスのコミュニティ機能を強化していく方針だ。常連信者同士の結びつきが強まり、今以上のアクセスアップも見込めるだろう。

 韓国で電車に乗っていると、熱心に聖書を読んでいる信者を見かける。寺院に行くと入りきらないほどの人が、お祈りしている様子もみかけられる。上記のようなサービスは、これほど熱心な信者が多い社会だからこそ可能なのかもしれない。日本は韓国ほど熱心な宗教国家ではないが、精神的なつながりが見直され注目されはじめている。宗教ではないが通じる部分があるという意味で、日本ならではのサービスが誕生するかもしれない。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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