メディアフロージャパン企画が11月27日から、原宿にあるKDDIデザイニングスタジオ(Kスタ)で、携帯電話を中心とする小型デバイス向けのマルチメディア放送技術「MediaFLO」の実証実験を開始した。
実験に使用する周波数は米国と同じ700MHz帯(UHF帯)。帯域幅6MHz、出力1.4ミリワットの電波を用いて、Kスタの3階でデモを行う。
この実験は、米QUALCOMMが開発し、すでに米国で商用サービスを行っているMediaFLO用の機器や端末などを利用して、主に屋内でMediaFLOサービスを利用する際の、電波の品質向上方法などのデータを収集するのが目的だ。また一般ユーザーから、ワンセグがあるという前提で、どういうコンテンツがあれば見たいか、それに対してどれくらいの対価を払うか、といった声などを聞きながら、商用化に備える。
デモコーナーではMediaFLOの特徴を説明する映像を流すほか、実際にMediaFLOの受信が可能なLG電子製の「VX9400」を用意し、手にとってストリーミング映像の視聴やチャンネル切り替え、EPG(電子番組表)などを試せる。またIPデータキャスティングのコンテンツなども実際に配信する。
情報通信審議会が、「VHF/UHF帯における電波の有効利用のための技術的条件」として、マルチメディア放送用への割り当て方針を示した、90MHz〜108MHzもしくは207.5MHz〜222MHz(VHF帯)を使った実験ではなく、UHF帯を使う実験になったのは、「VHF帯に対応するデバイスの準備がまだできていないため」(説明員)。まずはVHF帯にも応用できるようなデータを先行して収集するという。
実証実験開始にあたり、実験の概要とメディアフロージャパン企画のMediaFLO事業に対する考え方などを紹介した代表取締役社長の増田和彦氏は、「携帯端末向けのマルチメディアコンテンツは、屋外はもちろん、屋内でも快適に視聴できる必要がある。今回の実験を通して、まずは技術的課題の調査を行い、合わせて市場性や事業性の検証も行っていく」と話した。
日本でMediaFLOに周波数が割り当てられる可能性があるVHF帯の電波は、米国でサービスが行われているUHF帯の電波とは伝搬特性が異なる上、ノイズへの耐性も大きな違いがあるという。周波数が低いため、受信側にはある程度長めのアンテナが必要になるほか、ノイズの影響を受けやすく、電波の出力も高めにする必要もあると考えられている。しかし、いかんせん現状ではまだVHF帯を使ったMediaFLOのデータがまったくないので、今後VHF帯に対応した試験用端末が開発でき次第、VHF帯でのMediaFLO実証実験を実施し、日本特有の電波環境の検証も含めて、データを収集したいとしている。
なおメディアフロージャパン企画・KDDI・クアルコムジャパンの3者が日本で実施したアンケート調査によると、ワンセグのようなストリーミング映像コンテンツのリアルタイム視聴だけでなく、蓄積型の「クリップキャスト」やデータのプッシュ配信を行う「IPデータキャスト」に対する関心も非常に高いことが分かったという。
蓄積型のコンテンツ配信は、たとえば「毎週末に着うたフルのダウンロードベスト10などを端末に送り、その中からユーザーがほしいものだけ選んでコンテンツキーを購入するといった、BCMCSの拡大版のようなサービスも提供しうる」(増田氏)という。仮にMediaFLOで6MHzの帯域を使用できれば、最大6Mbpsでデータを端末に送信可能で、テキストベースの情報を送るのがせいぜいのBCMCSよりも格段にリッチな情報が配信できる。
株価や天気などの、データ放送的なコンテンツも、通信を利用したプッシュ配信よりも早く、かつリアルタイムで送信可能だ。増田氏は「IPデータキャストはデータを流しっぱなしにできるので、通信で行うコンテンツビジネスよりも即時性が増し、ユーザーベネフィットは高い」とその優位性を話す。
「蓄積型のコンテンツは、ダウンロード型のコンテンツに近い。ダウンロード型コンテンツには、ユーザーはすでに通信のサービスとして相当な対価を払っている。それとリアルタイム型あるいはタイムシフト型のコンテンツをパッケージングすれば、今のサービスをよりリッチに楽しめ、かつ映像コンテンツも楽しめる新しいビジネスが組めると思う」(増田氏)
気になるMediaFLOのサービス開始時期については、周波数を獲得できていないこともあって、「仮に免許が取得できたとして、周波数の跡地利用の考え方から言うと、2011年7月21日以降」とコメント。「1日も早いサービス開始を願っているが、総務省での議論が続いており、法体系自体の見直しの動きも出ているので、明確なことは言えない」(増田氏)と話すにとどめた。
また当初MediaFLOは携帯電話での利用が中心になるが、「MediaFLOを視聴するための専用デバイスなども出てくると思う」と増田氏は話した。「証券会社が自社の顧客に配布して、常時株価がチェックできるようにしたり、カーナビなどで、同時同報データ配信や地図アップデートを行うといったことも活用範囲として考えられる。また、MediaFLOはグローバルスタンダードなので、日本だけでなく世界の市場のニーズに応じてさまざまな受信端末が開発されていくと思う。携帯以外の受信デバイスにも興味を持って動向を注視している」(増田氏)
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