UIに対する考え方を変えていきたい――急成長するミドルウェア企業、アクロディアの挑戦(後編)神尾寿のMobile+Views

» 2007年12月11日 11時58分 公開
[神尾寿,ITmedia]
Photo アクロディア代表取締役社長兼CEOの堤純也氏

 携帯電話向けミドルウェア企業として「UI分野」を軸に、さまざまなプロダクトを展開するアクロディア。同社の代表的なミドルウェアである「VIVID UI」は今冬、各キャリアの主力ラインアップすべてに搭載されており、「VIVID Movie」や「VIVID Message」、「VIVID Panorama」といった他の製品の展開も順調だ。

 急成長するアクロディアは今後どこへ向かうのか。前編に引き続き、アクロディア代表取締役社長兼CEOの堤純也氏に聞いていく。

UIの進歩は道半ば。それがアクロディアの優位性

 携帯電話UIは、スマートフォンも含めて、いま最もホットな分野の1つだ。その世界的な端緒はアップルの「iPhone」の登場だが、日本でも“使いやすさの向上”が携帯電話の利用率向上につながることから、UIを重視する向きは強くなっている。

 アクロディアは2004年という早い段階から「UIの洗練」に着目し、この分野のプラットフォーム化に腐心してきた。その成果が、今冬の3キャリアへの採用ともいえる。しかし、これから先で見れば、VIVID UIを始めとする同社のUI関連製品の競合となるプロダクトが、国内外から台頭してくる可能性は高い。そのような中で、“アクロディアの優位性”はどのように保たれるのだろうか。

 「現時点での競争優位性として最も大きいのは、何よりも『世界に先駆けている』ことになるでしょうね。UIを抽象化し、(UIの)プラットフォームを作るという取り組みは、これまで我々だけしかやってきませんでしたから。

 さらに我々が優位性を保つ上で有利なのは、UIの進歩は今後さらに進んでいくということです。まだ道の途中でスタートラインを切ったばかりですから、先頭を走る我々がリードしていく“先”が開けています」(堤氏)

 発展途上の分野で先頭を走るプレーヤーが有利なのは、UIに限らず技術革新のセオリーだ。携帯電話のUIが成熟期にほど遠いことこそが、アクロディアの優位性につながると堤氏は言う。

 しかし、ドコモやKDDI、ソフトバンクモバイルの最新機種を並べてみれば、VIVID UIの搭載でUI環境は大きく進歩した印象を受ける。それでもまだ「道半ば」なのだろうか。

 「今、VIVID UIでできることは何かというと、トップメニューを中心にUIを入れ替えるという段階でしかない。(アップルの)iPhoneのようにUIに“統一された世界観”を持たせるには不十分なんです。

 例えば、今の携帯電話では、(端末内蔵の)ネイティブ機能とブラウザ、メール、追加したアプリなどの操作体系がバラバラで、同じ操作なのにキーの割り当てや扱いが微妙に異なるといったことが普通にある。全体としてみたときに統一感がなくて、それがボディブローのように、じわじわとユーザーに使いにくさを感じさせる原因になっているのです」(堤氏)

 1つ1つは些細な違いでも、積み重なれば漠然とした使いにくさになる。逆にiPhoneは、それが“切り捨ての論理”に基づいていたとしても、すべての利用シーンで同じ操作感が貫かれている。端末内蔵のソフトウェア、メール、アプリケーション、そしてフルブラウザのSafariでWebを見ている時まで、ユーザーは統一されたUI環境の下に置かれる。これがiPhone経験者が必ず口にする「使いやすさ」と「気持ちよさ」の源泉なのだ。

 「iPhoneのUIがすべてにおいて優れているわけではない。日本型の携帯電話のUIが優れている部分も多くあるでしょう。しかし、今のように携帯電話の中で、UIがバラバラなままでは漠然とした使いにくさが解消できない。これからのUIが目指さなければならないのは、全体としての統一感なのです」(堤氏)

 統一感の必要性については、ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの主要3キャリアとも意見の一致が見られており、今後、段階的にUI全体をVIVID UIなどアクロディア製のミドルウェアでプラットフォーム化していくという。

 「UIを自由に変えられるプラットフォームを作った上で、その適用範囲を広げて、端末機能の隅々まで一括して変えられるようにする。その上で、統一性のあるUIのパッケージが流通し、それらをユーザーが選択できる環境にしていく。そうなれば、ユーザーはUIを選択する自由を得ながら、統一された世界観による使いやすさも実現できます。

 もちろん、これは(端末の)一世代ではとうてい実現不可能です。そのため今後、数世代にわたってVIVID UIの適用範囲を広げていく取り組みを、各キャリアとともに行っていくことになるでしょう」(堤氏)

スマートなUIが広げる可能性

 VIVID UIを代表とするアクロディアのUI製品は、まずUI部分を抽象化し、ユーザー、メーカー、キャリアの“選択肢を増やす”ことを目的としている。しかし、UIのプラットフォーム化が進めば、それだけに及ばず、さまざまな形でUIの進化が望めるようになる。

 「例えばUIのプラットフォーム化によって、端末側がユーザーの“UIの履歴”を蓄積することも可能になります。これを活用すれば、ユーザーが使いやすいUIのパターンを収集して、利用実態を反映したUI開発が可能になります。またユーザー側に立てば、UIプラットフォームが個々の利用者の使い方を学ぶことで、端末を使い込むほど“その人にとって使いやすく変化する”UIも実現可能になります」(堤氏)

 さらに携帯電話には利用時間や場所、状況を判断するパラメーターが多く存在する。例えば、時間や曜日をもとに変化するUIを作れば、「昼間は仕事で使いやすいUI、夜はプライベート用のUI」(堤氏)といった使い分けも可能になる。そのほかにも、GPSによる位置情報や、端末内のスケジュールソフトと連携すれば、TPOに応じて変化する“スマートなUI”も作れるだろう。

 「VIVID UIはあくまでプラットフォームですから、この上に今後、さらに表現力や機能を向上させるコンポーネントが搭載されてくる。これは何もアクロディア製に限ったものではなく、さまざまな企業とのコラボレーションにもなるでしょう。

 また来年以降で言えば、端末とネットサービスとの連携なども重要になってくる。これらは統一化されたUIプラットフォームの上で、メーカーやコンテンツプロバイダがさまざまなプロダクトを展開し、ユーザーがそれを選ぶような形になっていくと思います」(堤氏)

「すべてのデジタル家電」のUIも抽象化したい

 ところで翻って身の回りを見ると、携帯電話やPCといったいわゆる「ネット端末」以外のデジタル機器が、思いのほか増えている。家庭用ゲーム機は言うに及ばず、デジタルカメラやポータブルオーディオプレーヤー、HDDレコーダー、デジタルテレビなど、この数年で高性能化・多機能化を果たし、一方で複雑化したデジタル家電は数多い。この“携帯電話以外のデジタル機器”も、将来的なアクロディアのビジネスターゲットに入っている。

 「VIVID UIのコンセプトとしては、将来的にはデジタル家電をはじめ幅広い分野に展開していくものとして考えています。むろん、ネットサービスとの親和性が高い携帯電話と、それ以外のデジタル家電ではUIコンテンツの配信方法の違いなどはあるでしょう。しかし、プラットフォーム化をするメリットや狙いといった部分は共通です」(堤氏)

 携帯電話以外のデジタル機器で、UIの部分を抽象化し、開発自由度を上げるものとしては、マイクロソフトのカーナビ向けOSの「Windows Automotive」が早くから取り組んでいた。しかし、それ以外の分野では、かつての携帯電話と同じく、メーカーそれぞれが独自のUIを開発し、操作体系の統一も図られていないのが実情だ。一方で、デジタル機器の操作が煩雑になり、使いにくさが機器の使いこなしや利用促進の阻害要因になってきている。VIVID UIが展開していく素地は十分にありそうだ。

アクロディアの2008年は?

 2007年はアクロディアにとって躍進の年になった。VIVID UIの3キャリア採用を筆頭に同社のミドルウェアは幅広く浸透し、携帯電話のさまざまな機能・サービスを支える礎になっている。2004年から始まったアクロディアの挑戦は今年、1つの里程標を越えた。

 「2008年から先を見据えると、まずはVIVID UIをはじめUI分野の取り組みを質と量の両面で広げていきたい。量の面で言うと、すでに主要ラインアップに広がった(VIVID UIの)採用がさらに広がり、すべての携帯電話に搭載されるようになるでしょう。質の面では先に述べたとおり、端末内での適用範囲の拡大ですね。VIVID UIというプラットフォームの上で、統一感のあるUI環境を構築できるようにしたい」(堤氏)

 デジタル家電など、携帯電話以外への挑戦も、2008年以降の重要なテーマになるという。アクロディアが持つミドルウェア群を多角的に展開し、携帯電話を大きな足がかりとして、より幅広い分野で“使いやすさ”を訴求する考えだ。

 「アクロディアはユーザーインタフェースというものに対する考え方を変えていきたい。UIはユーザーが選択するもの、という文化を創っていきたいのです」(堤氏)

 携帯電話やデジタル機器が進化すればするほど、ユーザーから「使いにくい」とそっぽを向かれる。これはキャリア/メーカーとユーザーのどちらにとっても不幸であり、とても悲しいことだ。

 携帯電話の使いやすさを取り戻す。アクロディアの挑戦は、これからが本番である。

Photo 写真のサムネイル表現の一例

  • ↓3Dメニューの開発にも取り組んでいる

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