電波の感度が比較的よい場所での通信速度が確認できたところで、今度は電波状態が慢性的に悪い場所で2台の内蔵通信モジュールを利用した場合と、音声端末をモデムとして利用した場合の違いをチェックしてみた。内蔵モジュールということで、いわゆるアンテナ感度も気になったからだ。
ロケーションは、音声端末でアンテナバーが常時0〜1本をフラフラし、圏外になることも珍しくない屋内。設置場所から少し離れた半地下へ出る広い通路には電波が十分に届いているが、計測した場所は奥まっており電波が届きにくい。ちなみに、ここはauもソフトバンク3Gも電波状況はほぼ同様だった。
音声端末は前述の「N902iX HIGH-SPEED」を利用し、PCとはUSBケーブルで接続した。また、通信速度のバラツキが大きかったので、ここでは3回ずつ計測したすべての結果とその平均値を下表にまとめている。また、音声端末をモデムに使う場合は設置の自由度が高いというメリットがあるので、PCの横に置いた場合と、PCの液晶ディスプレイよりも少し高い位置にある棚に置いた場合の2つのパターンで計測している。
結果を見ると、2台に内蔵された通信モジュールは少なくとも筆者の予想よりずっと送受信能力が高いようだ。3Gの音声端末は内蔵アンテナが主流で、N902iXもその例に漏れないが、今回試用したVAIO type TとLOOX T70XNXは2台ともHSDPA通信モジュールがワンセグチューナーとの排他搭載となっているため、ワンセグ用アンテナの収容部がそのままHSDPA通信モジュール用アンテナに転用できているのだろう。
さすがに受信時の平均値はN902iXをPCよりも高い場所に設置した場合が優位となったが、VAIO type Tはこれにかなり肉薄し、最速のデータでは追い抜いている。送信速度の最速値では、VAIO type T、LOOX T70XNXともにN902iXを上回った。今回の比較対象はN902iXだけなので断定はできないが、「電波が弱い場所だと、音声端末は利用できても内蔵モジュールで通信できないことが多いのではないか」といった不安を持つ必要はなさそうだ。
以上の検証結果から、VAIO type TとLOOX T70XNXに内蔵されたHSDPA通信モジュールは、通信速度や感度に不満がないことは分かったが、インターネットの利用には注意しなければならない点がある。これらで利用できるNTTドコモの定額データプランは、インターネットの用途を原則としてWebとメールに限定しているからだ。つまり、インターネットに接続できても、利用できないサービスやコンテンツも存在する。
そこで簡単だが、この2台で何ができて何ができないのかを簡単にチェックし、表にまとめてみた。ちなみに一般的なWebアクセスやメールの送受信(POP/IMAP4)に関しては制限なく利用できたので、表には含んでいない。
インターネット利用の検証結果 | ||
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ジャンル | サービス/コンテンツ | 結果 |
ストリーミング | YouTube | ○(停止あり) |
ニコニコ動画(RC2) | ○(停止あり) | |
GyaO | × | |
Yahoo!動画 | × | |
インターネットラジオ(WMA) | × | |
インターネットラジオ(RealAudio) | × | |
ファイル転送 | FTP | × |
IDiskマネージャ | ○ | |
mixistation(アルバムアップロード) | ○ | |
アップデート | Windows Update | ○ |
Google Update | ○(停止あり) | |
Apple Software Update | ○(停止あり) | |
Adobe Updater | ○ | |
VPN | Windows XP VPN(PPTP) | × |
TinyVPN(ポート番号443) | ○ | |
定額データプランでは、基本的にストリーミングサービスを利用できないが、例外的にFlash Videoは再生可能としている。今やFlash VideoはWebサイトに一般的に使われており、排除するのは得策ではないとの考えもあるのだろう。
実際に利用できたのはFlash Videoを用いたYouTubeとニコニコ動画(RC2)のみで、GyaOやYahoo!動画といったメジャーな動画サービスを視聴することはできなかった。また、Flash Videoでも時間がある程度経過するとパケットが流れなくなることがあったので、無条件に利用できるわけではなさそうだ。動画に限らず、トラフィックとしては比較的小さいインターネットラジオを聴くこともできなかった。
ファイル転送では、FTPはやはり利用できなったが、ジャストシステムのオンラインストレージサービス「インターネットディスク」は専用ソフト「IDiskマネージャ」での転送も可能で、mixistationではアルバムへの画像アップロードも行えた。OSやアプリケーションの自動アップデートサービスも軒並み利用できたが、Google UpdateとApple Software Updateは途中からパケットが流れなくなることもあった。
VPNに関しては、Windows XPのPPTP接続は行えなかったが、HTTPSポート(ポート443)を用いたVPN接続は可能で、当然ながらVPN接続でのファイル共有やリモートデスクトップなども問題なく動作した。
今回試してみた限りでは、現状はWebやメールで一般的に使うポートのみを開放しつつ、ある程度はトラフィックを監視して利用制限を行っている一方、VPN接続などパケットの特定パターンを見て遮断するには至っていないようだ。
ただし、NTTドコモが現時点で保証しているのはあくまで文字、静止画ベースのWebアクセスとメールだけで、これ以外の用途に関してはいつ制限が設けられるのかは分からない。例えば、現在は利用できるポート443でのVPN接続も遮断できないわけではないだろう。この点には注意しておく必要がある。
今回取り上げたVAIO type TとLOOX T70XNXの魅力は、通信カードやモジュールを別途装着することなく、全国の広いエリア(FOMAハイスピードエリア)で高速なインターネット接続が可能な点に尽きる。通信モジュールの内蔵によって、本体の携帯性が犠牲になることはなく、トレードオフになる機能はワンセグチューナーくらいで、ほとんど気にならない。いずれもモバイルノートPCとして定評がある製品なので、通信機能以外の部分で大きな不安を感じることもないだろう。
実際、無線LANやBluetoothが内蔵されたノートPCを携帯利用している人には理解してもらえると思うが、モバイル環境において通信デバイスがPC本体に内蔵されているメリットは格段に大きい。外出時に必要な通信モジュールを忘れて出かけてしまうことがあったり、破損の危険性を感じつつも通信カードを装着したままでノートPCをカバンに放り込んでいる人などには、身にしみて価値が分かるのではないだろうか。
価格については、VAIO type TがBTOで2万円増、LOOX T70XNXが標準モデルに比べて3万5000円増となっており、外付けの通信モジュールを新規購入するよりは確かに割高だ。ただし、カードスロットやUSBポートを埋めることなく、通信モジュールを内蔵して持ち運べることにメリットがあると感じる人にとっては、決して高い追加投資にはならないだろう。
とにかくモバイルノートPCでインターネットをフル活用したい人には、十分に検討の価値がある製品が登場したことになる。そろそろ来春に向けてPCのモデルチェンジの時期が近づいているが、今後もこうしたモデルの販売を継続してほしいところだ。
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