耳は口ほどに物を言う? イヤフォンがマイクにもなるハンズフリー装置「e耳くん」騒音をシャットアウト

» 2007年12月18日 23時23分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
photo 「e耳くん」

 日鉄エレックスと三洋電機は12月17日、雑音の中でも快適なハンズフリー通話が可能なイヤフォンマイク「e耳くん」を発表した。発売は2008年4月1日。価格は有線型(NEH-A20)が4万円、無線型(NEH-B30)が6万円。

 e耳くんは、イヤピース内の振動板にスピーカーとマイクの2つの役割を持たせ、発話と受話が同時に行えるイヤフォンマイク。自分の声と相手の声を分離する技術によって双方向での通話が行えるほか、90デシベルというゲームセンターや工場レベルの騒音下でも、ノイズキャンセル機能によって55〜65デシベルのオフィス並みの通話環境を作り出せるという。

photophoto 本体カラーはブルーとホワイト

 製品はイヤフォンマイクと本体から構成されており、有線型は携帯電話やPDAなどの対応機器と平型/丸形イヤフォンマイク端子で接続し、無線型はBluetooth(HSP/HFP)を使って接続する。電源にはリチウムイオン電池を採用しており、最大で8時間以上の連続通話が可能だ。

 e耳くんで通話すると、振動板には相手の声と自身の声が同時に伝わるが、三洋半導体製のイヤフォンマイク用LSIがそれぞれを分離し、内耳に反響するエコーをカットする。さらに、三洋電機が開発したノイズキャンセルLSIによって残留ノイズと外部からのノイズを除去。イヤーピースは3重の遮音構造で密着度が高いため、単独でも外部騒音の影響を6分の1程度まで低減できる。それをLSIによるデジタル処理でさらに10分の1まで低減し、最終的に元の60分の1程度まで雑音を低下させるという。

 騒音の大きい環境でのハンズフリー通話に幅広く応用できるため、一般ユーザーだけでなく、飲食店や宿泊施設、イベント会場、レジャー施設などで働くスタッフや、医療・介護従事者、治安維持や要人警護、人命救助に携わる官公庁向けのニーズも期待できるという。

photophoto 発表会場では試作機をIP電話に接続してデモが行われた

騒音環境での通話デモ

 女性のいる部屋は90デジベル前後の騒音があるが(スクリーン内の騒音計で確認できる)、e耳くんは女性の声だけを拾っている。

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自分の声は口だけでなく耳からも出ている

photophoto 日鉄エレックスの奥村氏(左)。三洋半導体の山田氏(右)

 2006年、日鉄エレックスは新日本製鐵と共同で送話と受話を切り替える「半二重騒音抑制型マイクイヤホン」を開発。産業用として一部工場向けに出荷した。日鉄エレックス 情報通信事業部ネットワークソリューション部部長代理の奥村幸治氏は、「騒音下の通話品質には評価を得られたが、トランシーバーのような半二重のやり取りではなく、電話のような双方向の会話が行えないかという要望が大きかった。1つのスピーカーで同時に流れる相手の声と自分の声を切り分けるのは非常に難しく、これを実現できたのは、イヤフォンマイク用LSIとノイズキャンセル用LSIを三洋さんが開発されたから」と話す。

 イヤフォンマイク用LSIを開発した三洋半導体 システムソリューション事業本部デジタルシステム第1事業部事業部長の山田進氏は、「『e耳くん』のような汎用性の高い製品に、我々の開発したLSIが採用されて非常にうれしい。通話時にe耳くんに入力される自分の声は、出力する相手の声の300分の1というレベル。さらに、聞いた音のエコーや外部からのノイズが混ざっているため、自分の声だけを検出するのは非常に難しい。まずアナログ部で受話音声と送話音声を分離しておおまかにノイズを落とし、DA/AD変換を行う。その後デジタル部において自分の声のみを抽出している」と、その構造を説明した。

photophoto 2つのLSIを使い、ゲームセンターに匹敵する騒音でも公園のような静かな通話環境にする

photophoto イヤフォンマイク用LSIとノイズキャンセル用LSIの働き

 内耳の空気振動から自分の声だけを取り出す際にも、エコーキャンセリングなどの技術が使われているが、対象はあくまで相手と自分の声成分のみ。外部から入ってくる騒音を低減するのはノイズキャンセル用LSIの役割だ。

 「通常の雑音であれば、イヤフォンマイク用LSIでも処理できる。会話内のノイズであれば、エコー成分と音声成分のサンプルがあるため除去できるが、もっと大きい音になるとLSIにとって“知らない音”なので消すことができない。そこで、雑音推定アルゴリズムを持つノイズキャンセル用LSIが騒音を10分の1に小さくする」(山田氏)

 e耳くんを通した声は、その複雑な処理やデジタル・アナログ変換を繰り返すため、元の声から少し変わって聞こえる傾向がある。試作機で行われたデモでも、少しこもった声になっていた。奥村氏は「もともと内耳に伝わる声を使うため、生で耳にする声とは違って聞こえる面もある。製品版ではもう少し高音域を残すようにして、自然に聞こえるようにチューニングする」と述べた。

 騒音下でも電話の音声を聞き取りやすくするデバイスには、骨伝導スピーカーを搭載した携帯電話や携帯用のレシーバーマイクなどがある。これらの機器とe耳くんの違いは、汎用性の高い平型/丸形イヤフォンマイク端子を用いており、携帯電話やPHS、PDAやIP電話などに接続できる点。そして、イヤフォンだけでハンズフリー通話が可能なのも、ほかにない特徴となる。

 1つ気になるのが、エコーキャンセルやノイズキャンセルを行う本体部分の大きさ。4月に発売される製品は本体がオーディオプレーヤーほどの大きさだ。「将来的に小型化を進めてモジュール化し、携帯電話に内蔵することも考えられる」(説明員)ということで、さらなる小型化や軽量化が望まれる。

イヤフォンの構造と、試作機のスケルトンモデル

 e耳くんの主な仕様は以下の通り。

品番 NEH-A20 NEH-B30
接続方式 有線タイプ 無線タイプ
音声通信 同時通話/エコーキャンセル/ノイズキャンセル機能内蔵
コード イヤフォンマイク700ミリ/無線機接続用100・500ミリ イヤフォンマイク700ミリ
音声帯域 300〜3.4KHz
コネクタ 平型コネクタ/丸型3極コネクタ なし
無線仕様 なし Bluetooth V2.0/プロファイルHSP/HFP 2.4GHz
対応無線機 携帯電話機/PHS/無線IP電話機/PDA Bluetooth内蔵携帯電話機/Bluetooth内蔵PDA/PC
電池持続時間 連続8時間以上
電源(入力/出力) リチウムイオン電池 AC100V/DC5V、1A
外形寸法(幅×高さ×奥行) 36×59×14.5ミリ 47×79×17ミリ
質量 約60グラム 約70グラム
耐環境 JIS防滴I型準拠/耐落下性能(1.5メートルコンクリート) IP54/耐落下性能(2メートルコンクリート)
本体/同梱品 ダイナミックレシーバ/イヤーパット

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