安さだけでなく付加価値で勝負――変わる韓国のケータイ料金制度韓国携帯事情

» 2008年01月23日 19時07分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国では今、携帯電話料金の多様化が進んでいる。2007年には条件付きながら、同一キャリア内の通話を無料にするサービスが始まった。2008年からはSMS料金が値下げされたり、また新しい大統領の方針により通信費全体の値下げも検討されている。新たな価格競争に突入したキャリア各社は、顧客を取り込むような料金制度を次々と発表している。

新政権誕生を前に料金割引合戦が始まる

 2007年12月中旬に次期大統領に選出されたイ・ミョンバク氏は、2月の正式就任に向けて準備に大忙しだ。イ・ミョンバク氏はさまざまな公約を掲げているが、国民が大きく期待するものの1つに、通信費の値下げがある。

 市民団体の中には、加入契約手数料の廃止や基本料金の半減を求めているところもあるが、実際にそれほど大幅な値下げができるのかは未知数だ。また政府は、電話を受ける方も料金を支払う「双方向料金制」の導入も検討しているという。通信コストの負担をどう分配するのかも含め、多様なアイディアが行き交ってはっきりとした結論は見えていない。

 しかし、ユーザーや政府からの値下げ圧力は日々高まっており、キャリアとしてもまったく無視するわけにもいかないようだ。すでに2008年に入り、SMS料金が1件30ウォン(約3.35円)から、20ウォン(2.23円)に値下げされ、LG Telecom(以下、LGT)はその後、SMSの月定額料金の割引まで行った。例えば月500件のSMSが無料になる「SMS 500プラス」は、もともと基本料金が9000ウォン(約1000円)だったが、これが8000ウォン(約890円)になる。

 同じキャリアの加入者同士ならば、通話料が一定時間無料になる網内割引と呼ばれるサービスも始まった。値下げ競争の口火を切ったのはSK Telecom(以下、SKT)だ。月2500ウォン(約280円)の追加料金を支払えば、SKT同士の通話(テレビ電話含む)が50%引きになるサービスを開始。これにLG Telecom(以下、LGT)、KTFが続いたのだ。

 KTFは、同じく月2500ウォンの追加料金を支払うことで、KTF同士の通話および固定電話との通話が50%割引になる「KTファミリー50%割引料金」を発表。またLGTは、「網内無料標準」「網内無料プレミアム」という2種類の料金制を用意した。

 LGTの網内無料標準プランは、1カ月1万5500ウォン(約1730円)を支払うとLGT同士の通話が1200分まで無料になる。さらに網内無料プレミアムプランは、1カ月4万1000ウォン(約4580円)で1200分のLGT同士の通話と、300分の他キャリアとの通話料が無料になるのだ。LGTにはもともと「無料通話料金制」といって、他社との通話も一定期間無料になる制度がある。しかし、他社通話300分のみの場合で基本料が3万8500ウォン(約4300円)だった。わずか2500ウォンの追加で(LGT同士とはいえ)1200分の通話が無料になるサービスはインパクトが大きい。

 これまで補助金をふんだんに出し、無料に近い携帯電話をばら撒くなど端末価格で勝負してきた3社だが、安い端末が当たり前になった今、料金面での競争に移っている。とくに網内割引のような料金制度は顧客を囲い込むのに最適で、顧客の立場から見てもお得感がある。2007年10月から開始した網内割引の加入者は、2008年1月現在で200万人以上に達しているという。

実用的な生活密着料金制が続々登場

 ユーザーにとって携帯電話の料金は、安ければ安いほどうれしいものだ。単に安いだけでなく、お得感や実用性、便利さをプラスした料金制であれば、なおうれしい。こうした付加価値を高めた料金プランも、多く登場している。

 LGTでは、コンドミニアムや映画の割引が適用される「マイレジャー料金」を発表した。この料金制度を利用すれば、それだけで全国12カ所にあるハンファコンドミニアムの料金が最大約70%割引、映画予約チケットが最大4000ウォン割引(韓国の映画料金は通常7000ウォン)、旅行商品最大9%割引といった恩恵が受けられる。

 韓国では段階的に週休2日制度の導入が進められている。週末にレジャーを楽しむ人が増えており、マイレジャー料金はこうした社会動向にあわせたプラントいえるだろう。また同社では、マイレージがたまる付加サービスも用意している。月々の利用料金(基本料+国内通話料)が3万ウォン(約3350円)以上の場合、金額にあわせてアシアナ航空のマイレージをプレゼントする。

 KTFは生活密着型サービスを打ち出し、顧客獲得を狙っている。韓国最大のマート(スーパーマーケット)である「E MART」と提携した料金制度をスタートしたのだ。

 KTFの「E MART料金」は、月額基本料が1万3000ウォン(約1450円)。この基本料と国内通話料を足した額が2万ウォン(約2230円)を超える場合、金額に応じて5〜25%、または最大2万5000ウォン(約2790円)相当の割引が受けられる。さらに、決済にSamsungのクレジットカードを利用することで、割引率が増える特典も用意した。このところ韓国の物価は上昇しており、安価で何でもそろうマートの人気は上昇する一方だ。そんな消費者心理にあわせた料金制度である。

 また映画好きの韓国人に人気なのが、KTFと映画館チェーンのCGVが提供する「SHOW CGV 映画料金」だ。加入するだけで毎月1本の映画を無料で観覧できるもので、サービス開始から200日程度で約20万人の加入者を確保したという。

 またKTFでは1日限定の「SHOW デイフリー料金」も発表した。これは1日2000ウォン(約230円)で、W-CDMAサービスの「SHOW」によるモバイルインターネットサービス各種が使い放題となるというもの(動画サービスは除外)。モバイルサイトから申し込めばすぐに利用でき、その日の24時で契約が終了する。モバイルでのネット接続は月に数回で、月額データプランに加入するほどでもない、というユーザーに向けたサービスだ。

 さて、2007年12月末時点の市場シェアを見ると、SKTが50.5%、KTFが31.5%、LGTが18%だ。LGTは2007年6月の17.6%から、少しずつシェアを拡大している。逆にKTFは、同6月の31.9%から占有率を下げ、SKTも横ばい状態だった。LGTが成長した要因の1つは、上記のような生活密着型料金の存在が大きいという意見が多い。SKTとKTFがHSDPAによるデータ通信競争を行っていた間、LGTは料金制度の見直しという基本的な手法で、ユーザーからの支持を得たわけだ。

 新政権が動き出す2008年は、さらなる料金値下げが断行されることになりそうだ。もちろんキャリア3社は、値下げ合戦による消耗戦を望んではない。今後さらに、お得感があり消費を底上げできるような付加価値を持った、ユニークな料金制度が登場してくるだろう。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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