「取説を不要にしろ」と、孫社長は言った──ソフトバンクモバイルのUI戦略神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2008年02月13日 09時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 周知のとおり、携帯電話の主な商戦期は春、夏、秋冬の年3回。そこでは各キャリアから多種多様な端末が発表されて市場を賑わせる。特に番号ポータビリティ(MNP)制度が始まった2006年秋以降は商戦期毎に投入される機種数が増えて、各キャリアの新商品競争は総力戦の様相を呈している。

 そのような中で、この1年で端末ラインアップの訴求力を大きく向上させたのが、ソフトバンクモバイルである。同社はMNP開始直前の2006年秋冬モデルから端末のバリエーションやカラーリングを増やし、ハイエンドモデルの先進性でも他社を上回る健闘ぶりを見せている。また、ユーザーインタフェース(UI)の面でもタッチセンサーやフルキーボード搭載の端末を投入するなど、新分野の開拓に積極的だ。

 そこで今回のMobile+Viewsは特別編として、ソフトバンクモバイル プロダクトサービス本部 プロダクト統括部 プロダクト企画部長の安東幸治氏にインタビュー。ソフトバンクモバイルの携帯電話UIに対する姿勢と、今後の展望について話を聞いた。

Photo ソフトバンクモバイル プロダクトサービス本部 プロダクト統括部 プロダクト企画部長の安東幸治氏

業界3位のソフトバンク流“UIの考え方”

 2007年から2008年にかけての、携帯電話業界のトレンドの1つが「使いやすさ」であったのは間違いない。携帯電話の機能が増加し、サービスが豊富になる一方で、多くの一般ユーザーが“携帯電話を使いこなしきれない”状況に置かれてしまった。いかに端末機能やサービスを使ってもらうかは、携帯電話キャリア共通のテーマである。

 そのような中でソフトバンクモバイルでは、携帯電話の使いやすさには「2つのポイントがある」(安東氏)と見ている。

 「1つは“慣れ”です。現在の携帯電話ユーザーは、その大半が買い換えで新しい端末を手にします。ほとんどのお客様は分厚いマニュアルを読んだりしませんので、今までと同じように感覚的に使える“慣れ”はとても大切です」(安東氏)

 この“慣れ”の部分は、ドコモやauでは端末メーカーごとのUIだけ見ればよいが、ソフトバンクモバイルでは“他キャリアの各メーカーUI”の操作体系をどれだけ取り込むかも重要になるという。

 「うちは(累計シェアが)3位ですからね。ソフトバンクモバイルのユーザーが端末の買い換えをするだけでなく、他キャリアのユーザーが(MNPで)移ってきていただく環境にあります。我々は早い段階でアクロディアのVIVID UIを採用し、『おなじみ操作』という機能を搭載しました。これは他キャリアのユーザーの皆様にも今まで慣れたUIで、抵抗感なく(ソフトバンクモバイルの)端末を使っていただくために導入しました」(安東氏)

 携帯電話の買い換え需要が中心になる中で、ユーザーが迷わず使えるために“慣れ”を重視する。これを使いやすいUIの基本とした上で、「今の時代にあわせたUIの整理も必要」(安東氏)だ。これがソフトバンクモバイルの考える、使いやすいUIの2つめのポイントである。

 「操作性の部分で慣れは重要なのですけれど、新たな機能やサービスに対応させて、メニュー階層を増やしていくと、どうしても使いにくいものになってしまう。その結果、8割以上のお客様が携帯電話の機能を使い切れない状況になっている。Appleの『iPhone』のように、まったく新しい切り口で根本的にUIを見直すことも必要です」(安東氏)

 さらに、この抜本的なUIの改革は、携帯電話の商品力を向上させる上でも重要だという。その1つの参考例となったのも、iPhoneだ。

 「UIは使いやすさの源泉であると同時に、商品力のキードライバーであると考えています。iPhoneはまさに、それ(使いやすさと商品力の両立)を実現している」(安東氏)

直感的な操作へのアプローチ

 では、ソフトバンクモバイルの考える「今後のUI」の姿はどのようなものなのか。安東氏はそこでのキーワードとして、「直感的であること」を挙げる。

 「我々は“直感的”であることを、(将来端末における)UIのポリシーとしています。直感的に使えるかどうかが、今後のソフトバンクモバイルの端末では大きなテーマになる。

 うちの(孫正義)社長からは、『取説(取扱説明書)を不要にしろ。取説なしでも使えるUIにしろ』とはっきり言われています」(安東氏)

 では、直感的なUIを実現するためにどうするのか。アップルはiPhoneにおいて革新に向かってUIの飛躍を図ったが、ソフトバンクモバイルでは段階的にUIの見直しをしていく方針だ。その最初のステップとして同社が重視しているのが、端末の初期設定値のUIだ。

 「多くのユーザーが、携帯電話を初期設定のままでお使いになっている。ですから、この初期設定のUIがどれだけ直感的で使いやすいかが重要です。

 今のところ我々は、この初期設定の項目を見直していまして、まずは(ドコモやauの端末も含めて)業界標準的なUIにあわせていくという作業をしています。従来からのUIへの慣れも重要ですが、少しずつ端末ごとに異質な部分を減らしていって、直感的に使い始められるようにしなければなりません」(安東氏)

 端末ごとの違いを平坦にし、共通化していくことは、それにユーザーが慣れるとともに直感的な操作ができるようになる。だが、この手法は“やりすぎ”てしまうと、端末の個性を消失させる恐れがある。昔からのユーザーだけでなく、メーカーも反発し、抵抗勢力になる可能性もあるだろう。なぜなら、ハードウェアやOS、機能面での差異性がなくなる中で、外観デザインとUIは、メーカーにとって最後の差別化要因でもあるからだ。

 「メーカー枠として(差異性を)残していく領域と、使いやすさ向上のために(UIを)あわせていく領域。この2つのバランスを考えながら、UIの改善を進めていくことになるでしょう」(安東氏)

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