大阪で実験中!“屋内で携帯GPSナビ”体験記 神尾寿の時事日想

» 2008年02月13日 09時41分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 地図ナビゲーションや緊急通報の需要拡大を受けて、急速に標準搭載が進んでいるのが、携帯電話の「GPS(Global Positioning System : 全地球測位システム)」機能だ。この分野では、古くからKDDIのauが標準搭載しているほか、NTTドコモやソフトバンクモバイルも2006年後半から搭載機種を増やし、今では最新端末の“標準機能”になっている。

 しかし、携帯電話のGPS機能は見上げる空がなければ役に立たない。自分がどこにいるのか、測位にGPS衛星の電波を使っているからだ。クルマならば車速情報と自立センサー群で屋内やトンネル内でも一定レベルの位置測位を行うが、携帯電話にそのようなものはない。“屋内でGPSナビゲーションは使えない”のが、これまでのGPS携帯電話の常識だった。

 そのような中で、近畿総合通信局が大阪の阪急三番街で、地下街でGPSを利用する実証実験「みて!ふれて!つかおう!ユビキタス体験 in 阪急三番街」を実施した(参照記事)。これは屋内でのナビゲーションや情報提供のシステムを模索するもので、実験には大阪大学や立命館大学、京都大学など在阪の大学と、KDDIやドコモ関西、ナビタイムなどが参加。産官学の取り組みになっている。

 GPS携帯電話を使ったナビゲーションは、屋内でどこまで使えるのか。

 今日の時事日想は特別編として、筆者自身が大阪の屋内GPSナビゲーションの実証実験に参加。その内容と、サービスのクオリティについてレポートしたい。

屋外で受信したGPS信号を屋内で再送信

 ここで一度、GPSおよびGPS携帯電話の仕組みと成り立ちについて、簡単に振り返っておこう。詳しい人は読み飛ばしてほしい。

 GPSは地球上の高度2万キロメートルにある6つの軌道を周回する合計24個の衛星からの電波を受信して位置測位するシステムで、基本的には3つ以上のGPS衛星からの信号が受信できる環境で高精度な位置測位「3次元測位」が可能になる。日本では2000年から「SA(Selective Availability=選択的利用性)」と呼ばれる意図的に測位精度を落とす仕組みが解除されており、これにより携帯電話など小型のモバイル端末でも測位誤差10メートル以下の測位が可能になった。またGPS携帯電話では、基地局からの信号も測位時間の短縮や誤差修正に使っており、これらの組み合わせで実用性の高いGPSケータイのナビゲーションが実現したのだ。

 単純にいえば、GPS携帯電話の位置精度は、どれだけ開けた空を見上げられたかで決まる。多くのGPS衛星からの電波をとらえられれば、その分、精度の高い位置が分かるのだ。

 では、空が見上げられない屋内で、どのようにGPS衛星の信号をキャッチするのか。大阪ではその問題をクリアするために、屋外のGPSアンテナで受信した信号を、地下街の天井に設置した小型アンテナで再送信するという仕組みを導入している。

 具体的には、建物の屋上に12基のGPS受信アンテナを設置。その信号を阪急三番街地下2回の25基の屋内小型アンテナで再送信している。屋内アンテナは小出力で電波のカバー範囲が狭いため、屋外のアンテナ1つ分の受信情報を、屋内では2つのアンテナで再送信しているという。

今回の実証実験で用いられたGPS再送信設備。屋外のGPSアンテナ(左)で受信した信号を、屋内アンテナ(右)で送信する。屋外アンテナは12基、屋内アンテナは25基が導入されている

 なお、今回の実証実験の地下街地図はナビタイムが制作・提供しているが、実験システムでは「屋外」「屋内」といった判別はしていないという。つまり、屋外で測位しても位置情報が実験の建物内と重なれば、地下街にいると地図上では表示される。「屋外・屋内のどこにいるかという、3次元的な位置の測位までは今回の実験で想定していない」(説明員)

「滑らかな移動」はまだ難しい

実証実験に合わせて用意されたEZナビウォークの特設メニュー。ドコモやソフトバンクモバイルの「NAVITIME」でも屋内GPSサービスを試せる

 では、実際の屋内ナビゲーションはどうだったのか。

 今回のテストに筆者はauの「EZナビゲーション」端末を持ち込んだのだが、実証実験中は専用メニューが用意されており、地下街の店舗が簡単に検索できるようになっている。なお、位置の測位と地下街地図の表示は、ドコモやソフトバンクモバイル向けの「NAVITIME」でも同様に利用できる。

 実際に地下街で測位してみると、天井があるにも関わらずGPS信号を受信し、自分の位置がきちんと表示される。測位精度は屋内のどこで試したかによって大きく変わり、筆者がテストした範囲でもほぼ正確に測位したケースと、逆に表示位置が大きく異なる場合があった。

 「屋外のGPSアンテナの受信環境に左右されます。今回の実験でも一部のゾーンでは(屋外アンテナが)建物の影の影響で、やや精度が悪い」(説明員)

 屋外アンテナの状況がよいと思われる場所では、屋外での測位と同様にピタリと自分の位置が合う。もし、このシステムが実用化されるとしたら屋外アンテナの設置状況が重要になりそうだ。

 次に実際に目的地まで案内するGPSナビゲーションの使い勝手だが、これは正直、屋外で使うほどの精度にはならなかった。具体的には、自分の位置がスムーズに動くのではなく、ポイントからポイントへ一気に動いてしまうのだ。携帯GPSナビを使ったことがある人ならば、歩きながら長いトンネルや高架下を歩いたときの自位置の動きをイメージすると分かりやすいだろう。

 このようなぎこちない動作になってしまうのは、屋内GPSアンテナの設置に原因がある。今回の実証実験では1つの屋外アンテナで受信した信号を、屋内では2つのアンテナで再送信している。さらに屋内アンテナの出力が弱いので、隣り合った屋内アンテナからの信号の強弱で位置を割り出す仕組みにはなっていないという。そのため屋内で「Aという屋外アンテナ配下から、Bという屋外アンテナの配下に移ると、自位置が一気に移動してしまう」(説明員)のだ。表示された地図とルートを頼りに目的地を目指せればいいが、完全にGPSナビ頼りで地下街を歩くには、まだ心許ないクオリティだ。この問題を解決するには、屋内GPSナビゲーション用の位置補正信号と、それを処理する仕組みが必要だろう。

EZナビウォークで、阪急三番街の地下街をナビゲーションする。自位置の確認・店舗検索・ルート誘導などが利用できるが、屋内GPSアンテナの仕様から、屋外ほどスムーズな誘導はできなかった

“屋内GPSナビ”は新しいビジネスチャンスになる

 屋内でのGPSナビゲーション技術は、都市部の地下街はもちろん、大型化・高層化が進む多目的ビルや、郊外の大規模ショッピングセンターなどで重要なものになる。特に商業施設では、来訪者の経路案内サービスという顧客満足度の向上だけでなく、位置情報広告や店舗誘導によるリアルアフィリエイトビジネスに展開する素地にもなるだろう(参照記事12)。サービスだけでなく新ビジネス創出という点でも、屋内GPSナビゲーションは今後の発展が期待できるのだ。

 阪急三番街での実証実験は14日に終わるが、これに続く実証実験が他の地域や施設で行われる可能性は高い。屋内デジタル地図の整備とあわせて、今後に注目の分野である。

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