約6.1ミリの薄型化を成し遂げた男たち──「AQUOSケータイ SH905iTV」誕生の裏側“厚い”“遅い”の不満を解消(1/3 ページ)

前モデルAQUOSケータイ SH903iTVの登場から約1年。大幅な薄型化と高機能化を果たしたドコモ向けAQUOSケータイ第2弾「SH905iTV」が満を持して発売された。その開発の裏には、開発者たちの限界への挑戦があった。

» 2008年02月14日 10時00分 公開
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 2007年に発売されたドコモのワンセグ搭載端末の中でも非常に人気が高かったシャープの「AQUOSケータイ SH903iTV」が、1年の時を経て大幅な進化を遂げた。ドコモ向けとしては第2世代となる「AQUOSケータイ SH905iTV」では、ディスプレイの大型化やカメラの高画素化、通信速度の高速化、TOUCH CRUISERの搭載、ドルビーモバイルの採用といったさまざまな改良が加えられたが、ボディの厚さは25ミリから18.9ミリへと薄型化されている。

 短期間にこれだけの性能向上とコンパクト化を果たせた秘密はどこにあるのか。シャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 主事の宮田雄介氏、同じく商品企画部の福山享弘氏、第1技術部 主事の足立一浩氏、第2技術部 主事の川畑松吾氏、第2ソフト開発部 主事の清水純一氏、そしてデザインセンター 係長の水野理史氏に話を聞いた。

Photo 後列左から通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第2技術部 主事の川畑松吾氏、第2ソフト開発部 主事の清水純一氏、デザインセンター 係長の水野理史氏、前列左から信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第1技術部 主事の足立一浩氏、商品企画部 主事の宮田雄介氏、商品企画部の福山享弘氏

限界に挑戦したサイクロイドヒンジの薄型化

PhotoPhoto 商品企画担当の宮田雄介氏(左)と機構設計を担当した川畑松吾氏(右)

 「初代AQUOSケータイ SH903iTVのサイクロイドスタイルは、多くのユーザーの方にご好評をいただきました。でも、同時にご要望もたくさんいただいたんです」(宮田氏)

 AQUOSケータイ SH905iTVの開発に当たり、商品企画を担当した宮田雄介氏は、SH903iTVに対して寄せられた“ボディの厚さ”と“動作の遅さ”の改善を望むユーザーからの声に応えるべく、多くの時間と労力を割いたと話す。

 ドコモ初のAQUOSケータイ SH903iTVは、ほぼ1年前の2007年2月28日に発売された。SH903iTVは、シャープの“サイクロイドスタイル”ならではの使い勝手の良さと、ハイエンドモデルと呼ぶにふさわしい高機能を備えた端末で、当時はドコモのラインアップにワンセグ搭載端末が少なかったこともあり、幅広いユーザーからの支持を集めた。

 しかし、多くのユーザーに支持されると同時に、要望も数多く届いたという。その中でも多かったのが“厚さ”と“遅さ”に対する不満だ。そこで次期モデルの開発を進めていたシャープの開発陣は、第2世代のAQUOSケータイを、コンパクト感の実現とスピードの改善に重点を置いて開発することに決めた。

 機構設計を担当した川畑松吾氏は、次期モデルでSH903iTVから大幅な薄型化を目指すと聞き、「正直悩みました」と振り返った。結果的に、SH905iTVはSH903iTVと比べて約6.1ミリの薄型化を実現しているが、このためには数々の課題をクリアする必要があった。

 川畑氏は、まずサイクロイド機構の薄型化を中心に、ダイヤルキー側の筐体とディスプレイ側の筐体にケーブルをどう通し、どう配置していくか、またディスプレイ側筐体の回転中に、ケーブルがサイクロイドヒンジに干渉し、信頼性が低下しないようにするにはどうすればいいか、といったことを検討したという。単純に薄くするだけでは強度が落ちてしまうので、強度を保ちながら薄くする必要もある。さらに、ディスプレイを縦位置から横位置(サイクロイド状態)へ回転させる際の軌跡に合わせたディスプレイ側筐体の位置調整や、サイクロイドヒンジとディスプレイ筐体を固定する構造など、強度以外にも部品構成によっていろいろな課題があった。どれくらいの薄型化が可能か検証するため、同氏は評価、実験を繰り返した。

 その結果、SH905iTVのサイクロイドヒンジの機構は、SH903iTVとは異なる構造を取り入れた。またSH903iTVのヒンジ筐体内に搭載していたステレオスピーカーは、SH905iTVではディスプレイ横に移動させ、ヒンジ部筐体を薄くした。

 「サイクロイドヒンジ筐体には、かなりのボリュームが詰まっています。部品の構成を始めとし、検討をしていく中でいろいろな課題がありましたが、評価、実験を繰り返してなんとかこの厚さを実現しました。ケーブルの構成なども工夫し、中のメカの動きにも影響しないような形で配置しています。このケーブルの処理がとても大変でした。とはいえ、全体的に見て結構バランス良く薄型化できたと思います」(川畑氏)

 ヒンジ筐体をアルミ製にしたのも、大きな決断だった。川畑氏は「薄くするのに金属を使うのは難しい」という。樹脂よりも金属の方が薄型化には有利だと考えがちだが、一概にそうともいえない部分があるようだ。「携帯電話のボディにはそれなりの強度が必要です。薄型化するためにボディに金属を使うことは、金属製品の製法やその特性、またサイクロイドヒンジを覆うために金属でどう固定していくかなどを考慮すると、リスクが高い部分もあるんです。結果的に、アルミを使うことで樹脂で作るよりも強度を保ちつつ薄くできたのですが、この薄さで金属を採用したことも大変苦労しました」(川畑氏)

PhotoPhoto SH905iTVの厚さは、前モデルSH903iTVと比べると、ヒンジ部分がそのままなくなったくらいの薄型化を実現している。サイクロイドのヒンジ部分をのぞくと、SH905iよりも薄くなっている

 ヒンジ部からディスプレイの横に移動したスピーカーは、ディスプレイの対角線上に配置されているが、ここにも紆余曲折があった。もともとヒンジ部を薄くするために、ディスプレイの横にスピーカーを入れてほしいと要望したのは商品企画部だった。しかも商品企画部では「縦でも横でもステレオ感を出してほしい」と依頼した。

 回転するディスプレイがどんな状態でも音にステレオ感や3D感が出せるよう、当初は3つのスピーカーを搭載し、角度に応じてそのうちの2つを鳴らすアイデアなどもあった。しかし、スピーカーを3つ搭載することは、スペース的に難しい。そこで対角線上に配置してはどうか、というアイデアが出てきたわけだが、シャープの携帯電話開発者の中には、かつてオーディオ機器の開発を手がけていた人たちもおり、それで本当にステレオ感が出るのか、3D感が出るのかと懸念する声も大きかったという。結果的に、実験を重ねることで縦でも横でもステレオに聞こえることが分かったため、対角線上のスピーカー配置が決まった。

基板のサイズも徹底的に小型化

Photo 回路設計を担当した足立一浩氏

 また回路設計を担当した足立一浩氏は、ヒンジの薄型化に加えて、基板部分を小型化し、バッテリーパックの下から基板をなくしたことが、薄型化を実現できたもう1つのポイントだと話してくれた。

 「バッテリーの下の基板をなくす手法は以前から提案していたのですが、SH905iTVで初めて実際にチャレンジすることになりました。スペックが違うので単純には比較できませんが、SH905iTVの下ケース(ダイヤルキー側ボディ)は、SH905iのそれよりも薄くなっています。基板とバッテリーを分けて配置し、部品を小型化できたことで、大幅な薄型化に成功しています」(足立氏)

 従来の機種では、基本的にダイヤルキー側ボディのほぼ全体に1枚の基板が入っており、バッテリーパックは基板に乗せるような形で実装していた。しかしSH905iTVでは、バッテリーパック部分には基板がなく、金属の板が1枚とダイヤルキーしかない。つまり、基板の大きさ自体が大幅に小型化されていることになる。

 「基板をここまで小さくしたことはなかったので、うまくいくかどうか、最初は不安もありました。実際、性能を確保しながらレイアウトを検討する作業はかなり大変でした。基板を小さくすると、いろいろなコネクターの配置が難しくなっていくんです。基板が大きければ、ケーブルなどを接続するコネクターも分散して配置できますが、小さいと置ける場所が限られてきます。小さい基板に対して、各種部品をどう詰めていくかの調整は相当苦労しました」(足立氏)

 基板をコンパクト化したことで、アンテナ類の配置も再度検討する必要があった。ドコモ向け端末は800MHzと2GHzの2つの周波数に対応する必要があり、アンテナの構成はどうしても複雑になる。ワンセグのアンテナも搭載するため、通信用のアンテナとの干渉なども起こりやすいという状況の中で、きちんとした性能を確保しながらFeliCaのアンテナの配置なども1つ1つ解決していった。ちなみにSH903iTVではワンセグのホイップアンテナと共用にしていたFMトランスミッターのアンテナは、SH905iTVではFeliCaのアンテナと共通の基板内に組み込み、ホイップアンテナを伸ばさなくても利用できるようにするなど、細かな改良も加えている。

PhotoPhoto AQUOSケータイ SH905iTVのスケルトンモデル。ヒンジ部はアルミ製なので透明なパーツに置き換えることができず、中が見えないのが残念なところ。背面にはLEDやスピーカーが組み込まれているのが分かる。裏面はほぼ上半分に基板やカメラ、通信用アンテナなどのパーツが収まっている。茶色いパーツはFeliCaとFMトランスミッター用のアンテナだ

 こうした努力の結果、SH905iTVのサイクロイドヒンジをのぞいた厚さは、SH905iよりも薄くなった。サイクロイドスタイルの機構上、ヒンジ部分はどうしても出っ張ってしまうが、「少しでも薄くするにはどうすればいいのか」を考え、各部門と調整しながら機能を詰め込んでいった開発陣の努力には驚かされる。

 ちなみにSH903iTVでは3インチのワイドQVGA(240×400ピクセル)だったディスプレイは、SH905iTVでは3.2インチのフルワイドVGA(480×854ピクセル)に大型化しており、合計すると約0.4ミリほど画面の幅が広くなっている。しかし、端末の横幅は50ミリで変わっていない。ボディのサイズを変えずに、画面の大型化も実現している。

 ただ、徹底的な薄型化をしながらも、ダイヤルキーは従来製品に近い操作性を確保した。

 「シートキーを採用すれば薄型化は実現できますが、キーが押しにくくなってしまうという問題があります。人が触るインタフェースの部分は非常に重要なので、ある程度の押しやすさを確保したキーを採用しました。クリック感も微調整を重ねています。また、キーとキーの間にはくぼみを設け、隣のキーとの重複押しを防ぎ、かつ押しやすくする配慮をしています」(宮田氏)

PhotoPhoto 薄型化してもキーの操作性は損なわない工夫を凝らしている。ダイヤルキーは横のキーと隣接する部分にわずかなくぼみを設けて個々のキーを判別しやすくしているほか、キー表面も下側がやや盛り上がった山形になっていて打ちやすい
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企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年2月29日