次世代マルチメディア放送で重要なのは“ケータイユーザー”の視点――メディアフロージャパン企画の増田氏MediaFLO Conference 2008

» 2008年03月21日 18時19分 公開
[石川温,ITmedia]
Photo KDDIを主要株主とするメディアフロージャパン企画の増田和彦社長

 2011年のアナログテレビの停波を前に、跡地となる周波数帯の獲得合戦が本格化しようとしている。この周波数帯を利用したサービス候補の1つとして挙げられるのが、携帯電話向けのマルチメディア放送だ。現状ではKDDIソフトバンクモバイルがMediaFLO方式を、ドコモがISDB-Tmm方式を推進しており、それぞれが企画会社を設立して周波数帯の獲得に向けたアピール合戦を繰り広げている。

 行政側の動きも活発で、総務省が2007年8月から「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」を開催。懇談会のなかでは、(1)マルチメディア放送のサービスをどう定義すべきか(2)全国放送なのか地域放送なのか(3)ハードとソフトは分離すべきか(4)キャリアフリーが望ましいのか(5)周波数帯はどのようにすればよいのか などといったテーマについて、関連各社が集まって討議している。

 3月19日に開催されたクアルコムのイベント「MediaFLO Conference 2008」で講演を行ったメディアフロージャパン企画の増田和彦社長は、MediaFLOのメリットを紹介するとともに、携帯向けマルチメディア放送のあり方について、メディアフロージャパン企画がどう捉えているのかを説明した。

Photo MediaFLOのメリットは、リアルタイム映像やタイムシフトなどのた非リアルタイム映像、電子書籍などのダウンロード型コンテンツ、プッシュ配信によるIPデータキャストなど多種多様なコンテンツを1つのインフラで携帯端末に配信できる点にある

「携帯電話ユーザーに向けたサービス」という視点が重要に

 まず、サービスの定義について増田氏は、「携帯電話ユーザーに向けたサービスである」という視点が不可欠だと話す。テレビやラジオなどの場合、テレビは「視聴者」、ラジオは「聴取者」という概念が存在するが、マルチメディア放送は、映像や音声だけではなく、データ配信やクリップキャストなど、さまざまなコンテンツ領域をカバーすることとなる。そのため「“視聴者”という考えだけでなく、“携帯電話ユーザーをターゲットにしている”という視点が大事になってくる」(増田氏)という。

 この考え方はコンテンツだけに留まらず、ネットワークの構築についても同様だ。ワンセグの視聴動向を分析すると、外出先だけでなく、自宅やオフィスの中で見るといったユーザーも相当な割合を占めている。しかし、現状のワンセグは「放送」であるため、“家の奥まで電波が届かない”といった不満の声も聞こえてくる。マルチメディア放送を展開するにあたっては、“家屋の中まできっちりと電波が届く”という、携帯電話的な利用を意識することが大事だというのが増田氏の考えだ。

 さらに、「携帯電話ユーザー」を意識するという考え方は、対象とするエリアにも影響を与えるという。懇談会では「全国放送か地域放送か」といった議論もなされているが、増田氏は「携帯端末は特定地域での受信を前提とするものではなく、全国で同一のコンテンツが見られるほうがメリットが大きい。対象はあくまで携帯電話ユーザーである。(多チャンネルで)さまざまな趣味嗜好を狙うなら、全国であることが不可欠。ただし、地域コンテンツを否定するものではなく、全国均一のサービスと、地域コンテンツを両立することが重要」という見方を示した。

技術は“自由に選べる”ことが大事、サービスはキャリアフリーで提供

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 総務省の懇談会では、「技術は統一すべきか、複数方式にすべきか」という議論も展開されている。増田氏は「1つの技術に決めるという方向性を出すのではなく、マルチメディア放送を実現できる技術を自由に選択できることが大切。グローバルな視点で見ても、技術的に中立なのが重要」だとした。

 現在、導入の検討が進んでいる携帯端末向けマルチメディア放送の技術は、いずれもOFDMがベースになっている。すでに複数の技術にワンチップで対応できる流れにあるため、「複数であっても、ワンチップで提供できる段階に来ている」(増田氏)ことがその理由だ。

 懇談会に参加する構成員からは「複数の方式に対応すると、コストアップにつながるのではないか」という懸念の声も聞かれるが、これに対して増田氏は「価格は結局、どれだけ多くのチップが出荷されるかが大きく、(多数出荷されれば、コストが安くなるという)数の経済が左右する。複数方式をサポートしたワンチップが出てくれば、コストインパクトが大きくなる。日本で複数方式になっても、消費者への影響は少ないだろう」と説明した。

 サービス展開については、キャリアフリーの立場であることを強調。「メディアフロージャパン企画の主要株主がKDDIであるからといって、KDDIだけにサービスを提供するわけではない。NTTドコモ、ソフトバンクモバイルにもサービスを提供する考えがある。当然、ウィルコムやイー・モバイルなどのプレーヤーも含めて、サービス提供していきたい」(増田氏)

周波数割り当ては、ハイバンドを希望

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 現在、米国ではUHF帯の周波数を使ってMediaFLOサービスが提供されているが、日本ではすでに周波数はVHF帯というのが前提条件になっている。割り当て可能な周波数としてローバンドとハイバンドの2つがある中、「我々としては、なるべく周波数の高い方を割り当ててほしいと考えている」(増田氏)という。

 MediaFLOは6MHzの1チャンネルを要求しており、「全国ネットワークを(周波数帯を効率よく利用できる)SFN(single frequency network)でカバーすることを検討している」(増田氏)。すでにこれまでUHF帯でサービスを提供していたMediaFLOは、VHFに対しても技術的な検討を進めており、「干渉をいかに抑制していくのかがポイント。1エリアで最大110キロをカバーできる仕組みも検討している」(増田氏)とした。

 サービス開始は、デジタルテレビへの完全移行が完了する2011年を見込んでおり、そのためにも2009年の夏頃には割り当てを確定してほしいという。「約2年間をかけてネットワークの構築をしていきたいと考えているので、2009年の夏頃にはサービスを誰がやるのかを確定してほしい」(増田氏)

ユビキタス特区・沖縄で実験を開始

 メディアフロージャパンは総務省が募集した「ユビキタス特区」制度に応募しており、同社はこのスキームを使って、沖縄県でトライアルを行うための準備を進めている。

Photo ユビキタス特区のエリアシミュレーションと実験のロードマップ

 現在は那覇を中心とした地域で、具体的な場所の検討を進めており、電波の強弱を調べ、シミュレーションにフィードバックする作業を進めているという。

 2008年の上半期には導入検討やシステム構築を行い、第3四半期に予備免許を取得し、第4四半期にフィールド試験を展開する計画だ。VHF帯でのMediaFLOは世界でも初となるため、ここではSFNの試験や受信評価、デバイスの試験などを行う。そして2009年第4四半期からは、コンテンツやユーザービリティなどの評価を実施する予定としている。


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