韓国キャリアによる、モバイルインターネット利用促進の動きが本格化してきた。HSDPAを始めとした高速通信が3社で出そろい、ユーザーの認知度も高まってきている。ここで端末やサービスを充実させようと各社とも必死だ。韓国ではやや低調だったモバイルインターネット利用は活性化するのだろうか。
ここで、SK Telecom(以下、SKT)による、2007年の実績発表資料を見てみよう。
2007年1年の同社の売上高は11兆2860億ウォン(約1兆1869億円)で、10兆6510億ウォン(約1兆1200億円)だった2006年より6%増加している。営業利益は2兆1720億ウォン(約2326億円)で、2兆5840億ウォン(約2717億円)だった2006年に比べ16%減少した。
売上額の詳細を見てみると、通話料が3兆7570億ウォン(約3943億円)、基本料が2兆9690億ウォン(約3122億円)。無線インターネット(モバイルインターネット)はこれらに続く2兆8040億ウォン(約2948億円)となっており、いずれも微増している。大きく伸びたのは加入費だ。
一方、「営業実績」を見てみると、ARPUは4万4416ウォン(約4643円)で2006年とほぼ同じ水準。ただしこのうち、基本料&通話料および無線インターネットは2006年に比べ減少している。逆に加入費が44%増加しているのが分かる。
2007年は、新規加入者増のおかげで加入費が大幅に増加した1年だった。これはとくにHSDPAの加入者が増えたことによるものだろう。HSDPA加入者が増えるのは、大々的なマーケティングを行ったおかげに他ならないが、逆に2007年のマーケティング費用は2兆8540億ウォン(約3001億円)で、2兆1880億ウォン(約2300億円)だった2006年より30%も増える結果となった。
そして無線インターネットによる売上額は増加しているものの、ARPUで見ると減少しているのは、定額料金制の加入者が増えたためともいえるようだ。ちなみにKTFやLG Telecom(以下、LGT)では無線インターネットのARPUはそれぞれ2006年に比べ3%、2.5%ずつ増加しているものの、実際の金額はSKTの半分程度かそれ以下の、それぞれ6435ウォン(約677円)、3650ウォン(約384円)に留まっている。
HSDPAを始めとした高速通信規格の加入者増加の余地は今後も大いにあるが、これからは実質的なサービス利用で収益を増やす必要がありそうだ。とくに高速性を生かせるモバイルインターネットの利用は、SKTだけでなく、KTFやCDMA2000 1x EV-DO Rev.A(以下、Rev.A)サービスを行っているLGTにとっても大変重要な課題になってくる。
モバイルインターネット利用活性化のための動きが、これまで1つもなかったわけではない。
SKTは2007年2月から「オープンウェブ」というフルブラウジングサービスを提供していた。この頃はKTFも「モバイルウェブサーフィン」という、PC用サイトの検索サービスを開始しており、約1年前にも両社の間でフルブラウジング競争が勃発していた。
当時はHSDPAサービスも開始され、端末もいくつか出そろっている状態だったので、上記のサービス利用活発化の土台はある程度あったといえるが、実際にはそれほど活発に使われたわけではなかった。
その理由としてSKTでは「携帯電話の大きさやUIなどに問題があり、汎用的なサービスにならなかった」と説明している。つまり画面が小さく、PCのように自在なメニュー操作ができないという端末の仕組みが、モバイルインターネット向けではなかったということだ。サービスだけ便利になっても、利用増加には結びつかない。
またこれ以外の理由として、料金やコンテンツ面の要因も大きい。それは元を正せば、PC向けインターネットの発達が響いているようだ。韓国はPC用インターネットがモバイルインターネットより早い時期に大いに発達したので、高速インターネットを月額定額で利用する土壌が定着しきっている。そこにオプション料金を追加してまで、あるいは従量制でモバイルインターネットを使う気にはなかなかならないのだろう。
またPC向けインターネットの方がコンテンツが充実しており、大抵はこれらを無料で利用できる。コンテンツ料を払ってまでモバイルインターネットを利用せずとも、高速環境で便利なサービスを使い放題なPCの方が良いと思うのは自然なことだろう。
だからこそ大事になってくるのが、慣れたPC環境をそのまま携帯電話でも利用できるようにするフルブラウジングだ。これに加え上記でSKTが述べている“端末の問題もクリアすれば、モバイルインターネットの需要が増えるのでは”という問題をクリアすることで、フルブラウジングに最適化された携帯が、フルブラウジングサービスと一緒に登場している。
2008年3月下旬、SKTとKTF向けにSamsung電子の「Hapticフォン」こと「SCH-W420/SPH-W4200」が発表された。SKTが「今までのモバイルインターネットサービスとは次元が違う便利さを提供できる」と胸を張るこの端末。Haptic(触覚の)という言葉通り、感覚的な操作にこだわっている。
3.2インチのワイドQVGAタッチパネルを搭載しており、ドラッグ&ドロップも可能だ。フルブラウジングにももちろん対応している。内部のメニュー構造は基本的にこれまでのSamsung電子のそれと大きくは変わりないものの、よく利用する機能を登録しておけるウィジェット機能が追加され便利さが増した。フルブラウジングの場合は、端末を縦/横に傾けると、これに合わせて画面も縦/横に表示されるなど、画面の傾きに合わせてWebサイトが表示されるのが便利だ。
このHapticフォンは、画面に触れた際に軽い振動が起こるようになっている。この振動の種類は22種類も用意され、電話をかけてきた相手のバイオリズムによって表示画面が変わるなど、使って楽しい機能が多いのも特徴だ。アイコンのデザインや動きもポップな印象で、決してビジネスに特化している端末でないことが分かる。そのため若い社会人層に広く利用されるのではないかと思われる。実際に市場では大変な人気で、現在は入手困難な状況になっている。これまでの反省を生かし操作感を大きく改善したHapticフォンで、今度こそモバイルインターネットの活性化がなるかが注目される。
一方LGTは、2007年11月にRev.Aサービスを開始したものの、特化したサービスを発表するでもなくあまり音沙汰がなかった。しかし4月3日「OZ」という新ブランドを開始し、モバイルインターネットサービスで勝負に出た。
OZのコンセプトはPC用インターネットのコンテンツを携帯電話でも閲覧できる、といものだ。SKTやKTFではこれまで、テレビ電話をHSDPAの中心的サービスの1つとして強調していたのに反し、OZの場合はあくまでインターネット利用に重点を置いているのが最大の特徴だ。低調だったインターネット利用の傾向を、OZが変えていこうという本気のサービスである。
そのためにまずOZ専用携帯として、LG電子の「LG-LH2300」と、個性派携帯「canU」シリーズに新製品を発表した(3月26日の記事参照)。そしてLGTらしいのが、こうしたサービスを安価に提供するという点だ。
料金制 | 利用可能サービス | 基本料 | データ利用量 | 備考 |
---|---|---|---|---|
OZ無限自由 | ez-iおよびWebアクセス | 6000ウォン/月 | 1Gバイト(超過時は従量課金) | 2008年9月まで加入可能。加入月含む6カ月間は使い放題 |
データ日定額制 | 1000ウォン/日 | 使い放題 | 加入時から当日24時まで有効 | |
PCからのWebアクセスのほか、もともとLGTで提供していた携帯電話用のインターネットサービス「ez-i」も利用できる |
区分 | Webアクセス | ez-iテキスト | ez-iマルチメディア | ez-i動画 |
---|---|---|---|---|
一般料金制 | 0.25ウォン | 5.2ウォン | 2ウォン | 1.04ウォン |
0.5Kバイトあたりの料金 |
例えばSKTが推奨するHSDPAデータ定額料金制を見てみると「データセーフ定額制」の場合2万6000ウォン/月で使い放題となる(参考にSKTのデータ通信料は1.5ウォン/0.5Kバイト)。
LGTの料金制は2008年9月まで加入が可能な、プロモーション的な要素のある料金制度ではあるが、これほど価格を下げて大丈夫かという懸念もある。しかし3キャリアで初めて音楽配信サービス「Music ON」を2004年12月に開始した当初も、LGTは同サービスを無料で使い放題にしたので、まずは何よりサービスを利用してもらおうという戦略なのだろう。
モバイルインターネット利用を促進するため、革新的な端末を出してきたSKT/KTFと、安さという切り口で勝負に出たLGT。異なる戦略をとった両陣営による戦いの火蓋が切って落とされた。
HSDPAを始めとした高速インターネットが活性化するには、新しい携帯電話をリリースし、フルブラウジング機能を提供するだけでは、やはり十分ではない。折りしも3月26日で「電気通信事業法」で定められた期限が切れたことにより、条件付き補助金制度も終わりを告げた。巷に溢れていた「無料ケータイ」は減ることが予想されるので、今後はより端末を販売する努力が必要になってきそうだ。
しかしその代わりにSKT・KTFが打ってきた手は、SIMロックの解除だった。これは3月27日から開始されている。現在のところは同じキャリア同士のユーザーでのSIMロック解除だが、7月からは別のキャリア同士でも解除される予定となっている。
SIMロック解除は希望するユーザーが、顧客センターなどに申請すればできる。逆にSIMロック解除を希望しないユーザーのために、他人のSIMを入れても通話ができないようにするサービスもある。
韓国ユーザーにとっては、これまであまり馴染みのなかったSIMロックの解除。それが次第に一般の人たちに広く認知されれば、HSDPA端末の需要もさらに増えることが予測される。SKTやKTF間でもSIMロックが解除される7月からは、顧客の取り合い競争が始まる可能性もあるが、顧客にHSDPAを利用してもらう格好の機会でもあるのだ。
SIMロック解除や革新的な端末、安価な料金制など、韓国のモバイルインターネットを取り巻く環境は急速に変わり始めている。キャリアやメーカーが仕掛けるこうした変化は今後ますます加速し、互いに影響を与え、2008年中には端末や市場状況全体が変わることが予想される。PC用インターネットを、それに最適化された環境で利用できるというのは、韓国ユーザーにも多きなメリットであり、今後モバイルインターネット利用が普及することも期待できる。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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