各キャリアの個性がはっきり──ケータイ夏の陣を斬る神尾寿のMobile+Views(2/3 ページ)

» 2008年06月05日 19時34分 公開
[神尾寿,ITmedia]

端末・サービス・販売モデルの“足並みがそろった”au

Photo au(KDDI)の2008年夏モデル。上段左からW62H、W62SH、W63SA、Sportio、W62CA、W64SA下段左からフルチェンケータイ re、W62T、W64K、W62K、W63K、W62PT

 2007年後半から2008年の春商戦にかけてのauは、純増数そのものは獲得しつつも精彩を欠いていた。KCP+プラットフォームへの移行の遅れがその直接の原因だが、それ以外にも、端末・サービス・販売モデルのすべてで他社の後れを取り、最盛期のauらしからぬ不手際が目立った。挙げ句の果てには、純増数目当てでプリペイド携帯の乱売・インセンティブの浪費を黙認するなど、キャリアの体制と姿勢そのものに問題があったのは紛れもない事実である。

 しかし今回の夏商戦では、かつての“auらしいau”が帰ってきた。端末とサービスの魅力が歯車のようにうまく噛みあい、先進的なサービスが多くの一般ユーザーにとって使いやすいものとして提供されている。そして、販売モデルにおいても、ソフトバンクモバイルやドコモの割賦販売制をキャッチアップ。現在、そして今後における端末販売価格の多様化に道筋をつけた。昨年のプロダクト全般から見られたちぐはぐ感から一転して、auの足並みはそろってきている。

 以下に今回発表された夏商戦向けモデルについて具体的に見てみよう。

 まず、端末ラインアップであるが、全体的にバリエーション感があり、さまざまなユーザー層に届くものになっている。今年の春商戦モデルまではKCP+の実装の難しさからか、他キャリアの端末よりも分厚く、デザインもパッとしないモデルが多かったが、今期はスタイリッシュなモデルから中庸なものまで粒ぞろいになっている。

 特に筆者が高く評価したいのが、東芝製の「Sportio」、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「フルチェンケータイ re」、カシオ計算機製の「G'zOne W62CA」である。これらの端末はそのターゲット層と商品企画にかなった個性を身につけており、ラインアップ全体の広がりの創出に貢献している。こういった端末をきっちりと作れるようになったことは、「KCP+を使いこなせるようになってきた」(KDDI幹部)ことの証左といえるだろう。

PhotoPhotoPhoto 左から「フルチェンケータイ re」「Sportio」「G'zOne W62CA」

 また、こうした個性的な端末を用意する一方で、「W62SH」や「Woooケータイ W62H」など“売れ筋”を狙いやすいスタンダードなモデルを投入しているところもさすがである。このように今夏のauのラインアップは、全体的にバランスがよく、隙のない布陣になっている。

 サービス面では、auも動画サービスで勝負をかけてきた。それが「LISMO Video」である。しかし、そのアプローチはドコモと異なり、自宅のPCで購入・ダウンロードした動画コンテンツを、「LISMO Port」経由で転送して楽しむというものだ。コンセプトとしては、米Appleが提供しているiTunes Movie Rentalsに近い。動画コンテンツのラインアップはかなり多く、サービス開始時で約2000本が用意されている。

 「KDDIは(FTTHの)ひかりoneにおいて、以前からビデオレンタルサービスをやっていましたからね。過去の着うたフルでの実績もあわせて、コンテンツホルダーの協力が得やすかった。

 もちろん、動画コンテンツは他社も今後調達していくでしょうが、お客様が簡単に購入してケータイで見るといった使いやすさの部分で、auは優位性があると考えています」(KDDI取締役執行役員常務の高橋誠氏)

 一方、端末の販売モデルについては、シンプルコースの抜本的な改定を行い、他キャリアと同じく割賦販売制を前提にした分離モデルを導入した。その詳細は別記事に譲るが、これによりauは、今後の端末ラインアップにおいて価格帯を拡げる選択肢を得た。

 「端末においてもお客様のニーズは多様化しています。高品質・高性能な端末を高くてもいいから買いたいというニーズもあれば、比較的お求めやすい価格でベーシックな端末が欲しいというニーズもある。auとしてはフルサポートコースとシンプルコースの(偏ることなく)両方で、端末ニーズの拡大に対応していく」(高橋氏)

 今期のauは昨年の不振から一転して、商品企画力の”冴え”を取り戻してきている。KCP+移行の遅れや3000万契約獲得という数字目標の存在、さらにソフトバンクモバイルの予想以上の躍進などで、auは大きくバランスを崩したが、転倒する前に持ち直してきた印象だ。高橋氏は現在のauについて、「(KCP+の遅れなど昨年の不振から)リカバリーできてきた」と話す。

 むろん、これでauが盤石になったというわけではない。

 シンプルコース改訂による新たな料金・販売プランはソフトバンクモバイルをターゲットに据えるが、auはキャリア内での音声定額を用意していないため、ホワイトプランに正面から対抗できるものにはなっていない。“端末とサービスの連携”ではauらしい優位性を得たが、料金を含めた総合力で、ソフトバンクモバイルの急伸をキャッチアップできるかは不分明だ。

 さらに中長期的な視野に立つと、“インフラ力のリード”が失われたままというのも大きな不安要因である。かつてのauは、インフラの技術的先行を背景に、端末とサービスの商品企画力の高さがうまく重なって躍進していた。しかし今では、auの技術的先行はドコモやソフトバンクモバイルにかなり追いつかれている。大容量コンテンツのサービスを実現する収容力や、“繋がりやすさ”を担保する信頼性など、総合的なインフラ力ではドコモに負けている。auは「単なる土管屋になったら面白くない。端末とサービスの連携、使いやすさの提供といった部分で、auらしさを出していきたい」(高橋氏)というが、それならばなおさらのこと、インフラの部分で再び先行することが重要だろう。

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