かつてないほどに新しいことに取り組んだ──「SH906i」開発者たちの熱き思い(2/3 ページ)

» 2008年06月23日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

「今からそれをやるんですか?」──議論の末にたどり着いたタッチパネル搭載

photo 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第2ソフト開発部 主事の大湊吉行氏

 前述のとおり、SH906iがタッチパネルを採用することになったのは、開発が始まってしばらくたってからのことだった。それまで横画面を快適に活用するデバイスはどんなものがいいか、という議論と試行錯誤を重ねてきたが、最終的にタッチパネルに決定したのは、開発が間に合うギリギリのタイミングだったという。

 第2ソフト開発部でデバイスドライバなど、各種新デバイスのソフトウェア回りの開発を担当した大湊氏は、「今からそれ(タッチパネル)をやるんですか?」と思ったという。SH904iやSH905iで静電式のタッチパッドを用いたTOUCH CRUISERを採用していたため、センサーからの入力に基づきカーソルを動かすノウハウは生かせたが、やはり新規に採用するデバイスということで、開発と調整にはかなりの時間を要した。

 「タッチパネルはアナログ的な動きをするセンサーで、ちょっと周囲の素材が変わっただけでも動きがまったく変わってしまったりするんです。実際、ある試作の段階で、今まで動いていたものがまったく動かなくなるということがありました。パネルの厚さや素材が変わったことが原因だったのですが、それに対応するのに苦労した記憶があります」(大湊氏)

 そのほかにも、光TOUCH CRUISERなどの新たなデバイス類を組み込むため、最後の最後まで悩みは尽きなかったと大湊氏。新しいデバイスが自分の担当部門に集中していたため、「正直に言うと、商品企画の人を恨めしく思ったこともありました(笑)」。

 SH906iは、今までで一番多くの機能を組み込んだ機種であり、今まででもっとも長く頭を悩ませた機種だと話した大湊氏だが、「最終的にはうまくいったと思います」と笑顔を見せた。

果たしてタッチパネルに触ってもらえるのか──UIに込めた工夫

 ハードウェア的にタッチパネルを搭載するチャレンジと平行して、ソフトウェアやUIをどうするか、という困難な問題も開発陣の前に立ちふさがっていた。かつてタッチパネルを搭載した「ザウルス」やPHSを開発したことはあったものの、未知の要素も多数あったからだ。

Photo オンリーワン商品企画推進本部 総合デザインセンター ソフトデザイン室 主事の鈴木恭一氏

 特にUI回りは、携帯電話の開発に携わる広島の商品企画部と、奈良にあるオンリーワン商品企画推進本部 総合デザインセンター ソフトデザイン室で検討を重ねた。ソフトデザイン室の鈴木氏は「最初に思ったのは、タッチパネルを触ってもらえるのだろうか、という点」だと振り返る。SH906iは、一般的な携帯電話と同じ形をしており、ディスプレイがタッチパネルになっていることに気づかないユーザーもいるかもしれない、と思ったのだ。

 そこで鈴木氏らは、さまざまな表情を持ち変化がある、ユーザーが“触ってみたい”と思えるUIを目指した。デザインのテーマを「水」としたのはそのためだ。ディスプレイを表にして開いたときから表示される、水滴のような動きを見せる横画面のUIは、しばらく見ていると上から水のしぶきが落ちてきて水滴に当たり、増えた分の水分が下にしたたり落ちていく様子がなんとも美しい。回りに押せそうなボタンがないことも相まって、思わず触れてみたくなる。

 「お客様が触ってみたくなるような、そんなUIをめざしました。ただ水に見せるための動きというのが難しく、水の表情を出し、リアルな水の感じを出すのに苦労しました。最初はどうやったら水らしく見えるのか、水ってどう動くのか、といった点から考えていきました」(鈴木氏)

 時間帯によって、横画面で表示されるアイコンの縁取りを変えているのも、ユーザーに興味を持ってもらうための工夫だ。この縁取り、よく見ると朝は水色だが、午後になると黄色くなり、夜には青に変わる。

Photo 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部の堀敏幸氏

 商品企画として横画面のUI開発に携わった堀氏も「タッチで操作しやすいよう、アイコンの大きさなども含めてさまざまな検討をしました」と感慨深く話してくれた。

 ユーザーがディスプレイをタッチすると、その下の画面がそれを検知して変化する。このこと自体は、とても当たり前のように感じられるが、その裏では非常に多くの処理を実行している。画面をタッチしたときの場所の検出1つをとっても、ユーザーが違和感を持たないような補正を加えているのだ。

 例えば画面上のアイコンをタッチするとき、多くの人は指の先端でアイコンに触れていると考えている。しかし、実際に画面に当たっているのは指先よりも少し下の部分で、センサーが検知した情報をそのまま画面にフィードバックすると、逆にユーザーが違和感を持ったりするのだ。「そのあたりのズレをいかに吸収し、お客様がストレスなく操作できる用に調整するのが大変でした」(堀氏)という。

 タッチパネル自体は、それほど新しいデバイスではない。例えば銀行のATMなどは、今やタッチパネル操作が当たり前になっている。駅の券売機などもそうだ。しかし、携帯電話のタッチパネル操作がそれらのように機能を優先したUIでいいのかというと、それは違うと堀氏は言う。「携帯電話のタッチパネルには、使って楽しい、使うことで感動する、といった要素を操作の中に入れる必要があると考えました。驚きを演出したかったのです」(堀氏)

 実は、ディスプレイを表にして折りたたむとメニューが起動するという点も、SH906iを操作していると当たり前のように感じるが、実は新しいポイントだ。従来の回転2軸の端末では、ディスプレイを表にして折りたたむとカメラが起動したり、ワンセグが起動したりと、特定のアプリケーションが呼び出されるようになっていた。それはそれで、当時横画面に割り当てられていた機能を考えれば当然の動きなのだが、今回初めてメニューが立ち上がるようになったことで、今までと違う雰囲気を感じてもらい、驚いてもらいたいという。そうすることで、次の操作、すなわち“画面へのタッチ”へ自然に導けると考えた。

 「ディスプレイを表にたたむと、押せるボタンがシャッターキーくらいしかなくなります。そこにメニューがあれば、お客様もまずは画面を押してくださるかな、と考えました。押したらバイブレーションによるフィードバックもありますので、押して操作できることを分かっていただけます。そこから先も、さまざまな演出を用意して、操作をしたあとに“こんなことができるんじゃないか”と想像していただけるようにしています。タッチパネルの操作は直感的で分かりやすいのですが、実はそれを簡単に見せるための仕組みは結構大変なんです。でもSH906iでは、難しさを見せないUIが作れたと思います」(堀氏)

 UIのデザインを担当した鈴木氏もこの点に関しては「できることは全部やりました」という。「今までの問題点を解決する、というアプローチも、UIをデザインする上では1つのやり方ですが、それではあくまでも“使いにくい点がなくなる”“問題点が0になる”というレベルでしかありません。本来でしたら、問題がないのは当たり前のことですので、それを使うことで感動していただく、楽しんでいただくということが重要になるのです。携帯電話にタッチパネルが載ったことで、感動や面白い体験をしていただけるようになると思います。ぜひみなさんに触っていただきたいですね」(鈴木氏)

横画面のさらなる活用を提案するHID対応Bluetooth

 タッチパネルを組み合わせ、横画面でケータイを活用するスタイルを提案したSH906iでは、もう1つ横画面を活用するための「仕掛け」を用意した。それがBluetoothである。

 Bluetoothというと、ワイヤレスで音楽を楽しんだり、PCなどと接続してデータの送受信に使ったりするのが一般的だが、SH906iではHIDプロファイルをサポートしており、HID対応のBluetoothキーボードを接続できる。

 SH906iの開発陣は、メールは縦画面で作成し閲覧するユーザーが多いことは認識しつつ、表示できる情報量や、ユーザーがメールで伝えたい感情を考慮し「メールも横画面で扱った方が適している場合もあるのではないか」と考えたのだ。そこで横画面のUIに、メールを閲覧できる仕様を加えるとともに、そのシーンで文字を入力したい人もいるだろうと考え、Bluetooth経由でキーボードを接続できる環境を整えた。

 「Bluetooth自体は、他社さんもすでに取り組まれていて、早くやりたいと思っていました。ただ、どうせやるなら新しいことをやらなくてはと考えていたんです。そんなとき、Bluetoothキーボードを用いた横画面の活用とうまくフィットして、いい形で搭載することができました」(安田氏)

 なおオプションのBluetoothキーボードはシャープ製ではなく、アイ・オー・データ機器に持ちかけて開発してもらった。コンパクトで、操作に必要なファンクションキーも備えた“SH906iカスタム”と呼んでも差し支えながさそうなモデルだが、シャープでは「横画面でメール作成という文化ができれば」と考え、あえて専用オプションにはしなかったそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:シャープ株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年6月30日