ではTD-SCDMAは2008年5月末現在、どの程度実用レベルに達しているのだろうか。実際に中国移動で販売されている市販の端末を入手し、TD-SCDMAサービスの実力をチェックした。なお、サービスエリアの都市内にある中国移動の店舗であってもTD-SCDMAの端末やサービスを扱っていないところもあった。このことからも、まだ大々的に普及させようという段階でないことが分かる。
今回は北京、上海、広州、深センの4都市で利用した。第一印象としては、都市によって利用できないエリアのほうが多いように感じた。例えば北京では、オリンピック会場付近や主要な交通インフラとなる郊外のバス車内では良好に電波が入ったものの、市内の繁華街では電波を拾えない場所が多かった。これは北京の玄関ともいえる北京空港でも同じだった。
北京は中国の首都だけに、市内はおおむねサービスエリアに入っていると予想していたがそうではなかった。基地局の設置はオリンピックに合わせて、これから急ピッチで行われるのかもしれない。
上海は地下鉄でもTD-SCDMAを利用できるエリアが多く、GSMと同様に地下の移動中も安心して利用できた。ところが地上へ上がると、例えば上海駅近辺などでもTD-SCDMAのエリア外である場所がある。やはり市内全域が完全にカバーされているわけではない。
このように、市内であっても満足のいかないカバー率である都市がある一方で、深センでは市内の繁華街と言えるエリアにおいて、ほとんどの場所でTD-SCDMAを利用できた。深センは携帯電話メーカーの工場も多数ある関係から、街そのものをテストフィールドにしているのかもしれない。
ところで中国のTD-SCDMA端末はGSMにも対応する。Samsung電子製端末はTD-SCDMAとGSMをハンドオーバーして切り替えるようで、SIMカードを1枚入れておけば両方のシステムで使える。これは一般的なW-CDMA/GSMデュアル方式に対応した端末でも同じ。すなわち、TD-SCDMAのサービスエリア外では自動的にGSMの電波を拾ってくれる。
一方、ZTE製端末は(ほかの中国メーカー端末も同じ)、TD-SCDMAとGSMのモジュールが別々となっていた。端末にはSIMカードスロットが2つあり、片方にTD-SCDMA、もう片方にGSMのSIMカードを入れて利用する。これは電話番号を常に2つ利用できるということでもあるわけだが、TD-SCDMAのサービスエリア外に移動してしまうと、TD-SCDMAの電話番号が利用できなくなる。この場合、もう1つのGSMを利用すればいいが、この番号はTD-SCDMAのそれとは別のもの。このため、TD-SCDMAをメインの電話番号として使うならば(現状は)中国メーカーの端末はやや使いにくそうだ。
では、回線の品質はどうだろうか。
通常の音声通話を行う分には、声が途切れたり聞こえにくいなどの問題は生じなかった。ただし電波状況が不安定であるところもまだ多いためか、アンテナアイコンがきちんと立っているのに発着信できなかったり、車での移動中に回線が切れることもあった。
このために筆者は、上海の現地の友人と互いに数時間ほど連絡を取り合えない状況に陥った。こちらはアンテナが立っているので相手の電話を待っていたが、相手はこちらに何回かけてもつながらない。結局はほかのGSM携帯を使って連絡が取れたので事なきを得たが、このようにメイン端末として使うにはまだ心細い。
一方、3Gならではのサービスと言えるTVコールはどうか。動画の画質は他国のW-CDMA方式と比べても同程度と言えそうなレベルではあった。ただ、TVコールは音声通話以上につながりにくく、つながっても相手の動画が表示されないなどのトラブルにも多く遭遇した。これらは端末の問題かもしれないし、基地局側の問題、あるいは相手側の問題かもしれない。いずれにせよ、まだGSM端末を差し置いて使うのは少し不安は残る。
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