「品質」と「ソリューション」で選ばれる法人サービスを目指す――NTTドコモ 三木茂氏ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー

» 2008年07月16日 07時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
Photo NTTドコモ 法人ビジネス戦略部長の三木茂氏

 携帯キャリア各社が“2008年の注力分野”と口をそろえるのが、新たな成長領域として期待される「法人市場」だ。この分野は、音声定額で先行したウィルコムのみならず、KDDIソフトバンクモバイルも注力しており、各キャリアの純増数競争で重要な役割を占める主戦場になりつつある。

 業界最大手のNTTドコモも、法人市場の獲得に大きく舵を切っている。同社は1990年代のムーバ(2G)全盛期から多くのビジネスパーソンに支持され、サービスの安定性やインフラの信頼性には定評がある。エリアの広さと音質のよさ、災害対策の充実でもドコモは業界トップであり、そこが「安心」を求める法人ユーザーから支持されている。

 しかし、その一方で、料金プランの値下げや音声定額の導入といった「割安感の演出」では後れをとり、中小規模の法人ユーザー獲得でウィルコムやソフトバンクモバイルの後手に回ったのも事実だ。

 そして2008年。法人市場全体が広がりと多様化を見せる中で、ドコモはこの市場とどう向き合っていくのか。NTTドコモ 法人ビジネス戦略部長の三木茂氏に聞いた。

純増数における「法人の伸び」が重要に

ITmedia ドコモの法人ビジネスの現況をどのようにとらえていますか。

三木氏 ドコモ全体の加入者数に対して、法人契約の比率は約10%。しかし、法人市場ではボリュームディスカウントがかなりありますので、収入比率でみると売上比率よりは若干落ちるという状況です。

 一方、純増数で見ますと、2007年度の実績でも法人契約が占める比率はかなり上がってきています。

ITmedia ドコモはMNP(番号ポータビリティ)開始後、「ひとり負け」と言われることもありましたけれど、実は純減はしていません。むしろ契約者数は増えているわけですが、そこでも“法人契約の占める比率”が上がってきているわけですね。

三木氏 間違いなく上がってきています。今年度以降も、(携帯電話キャリアの)純増における法人契約の貢献度は高くなり、重要な役割を果たすと考えています。

 この1〜2年で見ますと、法人市場はコンシューマー市場よりも伸びてきています。特にこの半年はドコモを含めて、各キャリアが法人向け料金プランの拡充を行いましたので、市場の伸びが目立ってきています。

ITmedia 日本の携帯電話市場は飽和していると一部では言われましたけれど、実際のところ先の3月の純増数などは過去5年間で最も多かった。これを支えているのが「法人市場の伸び」で、ここを制することが、各キャリアの競争で重要と言えるかもしれません。

トータルソリューションと使いやすさで付加価値をつける

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ITmedia 法人市場のニーズというと、個人情報保護法が施行されたあたりから「セキュリティ」が取り上げられることが多いようですが、実際のところはいかがでしょうか。

三木氏 実情は(セキュリティが重視される)順番が逆かもしれませんね。

 まず、法人市場のニーズは圧倒的に「通話需要」です。音声がメインで、それ以外の部分は未開拓なのが実情です。例えば、iモード契約の付加率で見ても、法人市場はコンシューマー市場よりもずっと低いのです。ですから、音声通話料金の安さだとか、音声定額サービスが(法人ユーザーに)重視されるという傾向は強いですね。

ITmedia やはり「通話料」など料金面のニーズが強いのですか。

三木氏 ええ。その次にくるのが「サービスエリア」、3番目が「セキュリティ」です。

ITmedia なるほど。その中で「サービスエリア」は、今のFOMAならば他社を上回るほど充実しましたが、一方で料金面では競争が激しく、差別化しにくいのではないでしょうか。

三木氏 料金においても、我々はタリフ(料金表)ベースで負けているとは思っていません。また個別の割引サービスについても、適用範囲を広げて、従来よりも多くの企業ユーザーにご利用いただけるようにしています。

 また、サービスエリアも全国で拡大したほか、ビル内で局所的な圏外が起きやすいような場合は、IMCS(屋内基地局設備)を積極的に設置してエリア改善に努めるなど、お客さまに安心して使っていただけるエリア構築に力を入れています。

 ほかにも、国際ローミングや国際電話など、国際サービス分野も法人ユーザーのニーズが高いですね。ドコモ全体では国際サービス全般の収入を1千億円規模にしたいと考えていますが、ここでも法人での需要が大きく寄与することになるでしょう。

ITmedia しかし、料金やエリアでの競争は他のキャリアも努力していますし、差別化するのが難しい領域でもありますね。ドコモらしさ、ドコモならではの付加価値はどういった点で訴求するのでしょうか。

三木氏 法人市場では今後、単なる回線契約を売るだけでなくて、トータルソリューションをご提供していく形になると考えています。SI(システムインテグレータ)のシステム受託のイメージですね。

 ドコモの(法人向け)携帯電話サービスを導入していただければ、他社よりも安くなる。その上で、安くなった分をシステム投資に振り向けていただければと考えています。

ITmedia トータルソリューションというと、ドコモの場合は「モバイルを前提にして」ということになるのでしょうか。

三木氏 最初のステップとしてはモバイルが中心になりますが、やはり(法人の)お客さまのニーズに応えていかなければなりません。そこではNTTグループで連携をとり、固定系のサービスも含めたシステム提案なども必要になるでしょう。

ITmedia トータルソリューション以外でドコモの優位性になる部分はどこでしょうか。

三木氏 先ほども申し上げたとおり、法人市場では音声通話以外の機能があまり使われていません。その理由の1つとして「使いやすさ」にまだハードルがあると考えています。我々は以前から(コンシューマー市場において)端末やサービスの使いやすさを追求してきましたが、このノウハウが法人市場でも生かせると考えています。

ITmedia 確かに法人市場のエンドユーザーは、「ケータイを使いこなそう」という人ばかりではありませんからね。その点では、法人市場向けの「らくらくホン」のようなものがあるといいのかもしれません。このあたりは長年研究してきたドコモに期待したいところです。

法人契約比率を「全契約者数の2割」まで拡大する

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ITmedia 今年ドコモは「新ドコモ宣言」のもと、新しいコーポレートロゴを作り、7月1日からは全国一社化を果たしました。こうした施策は、法人向けビジネスにどのような影響をもたらすのでしょうか。

三木氏 全国一社化で見ると、法人(ビジネス)の体制が一番変わると思いますよ。我々は以前から全国で一体的に法人市場に向き合わなければならないという問題意識を持っていまして、それが今回、一社化になったことで実現しました。特に(全国規模で展開する)ナショナルアカウントのサポートはしやすくなると考えています。

ITmedia 営業・サポート体制の充実につながるわけですね。

三木氏 ええ。ドコモとしては、今後、ナショナルアカウントは直営で、そのほかの法人企業さまへの対応は販売会社と協力しながらあたっていきます。その中で、例えば各地に拠点があるようなお客さまとの接点は持ちやすくなったと思います。

ITmedia 先日、ドコモの山田隆持社長の記者会見で「法人契約比率を2割程度まで伸ばしたい」という発言がありましたが、現在の1割を2割にすると、それだけでかなりの純増数になりますね。

三木氏 その数字は、目標というより希望に近いものですが(笑)、ドコモとして法人契約率を今後伸ばしていきたいという考えがあるのは確かです。

 そこには背景事情もあります。今までドコモのお客さまの中には「仕事で個人契約の携帯電話を使っている」という人がとても多かったんです。このようなお客さまに、法人契約に移行していただきたいと考えています。

 今は“仕事で使うのは音声通話”がメインですけれど、セキュリティや、さまざまなデータソリューションによる個々人の生産性拡大をかんがみますと、やはり“個人の携帯電話”でできないサービスが増えてきます。単純に法人契約を増やすというのではなく、新たなビジネススタイルに適応させるために、仕事で使う携帯電話の法人名義化を進めていきます。その結果として、法人契約の比率がドコモの契約者数全体の2割程度になればと、考えているのです。

ITmedia 2008年、法人市場におけるドコモは、どのような位置づけを狙うのでしょうか。

三木氏 新生ドコモではこれまで以上の顧客重視を打ち出していますが、それを法人市場にあてはめてみると、“いかに対面でお客さまに向き合うか”が重要になると考えています。今まで以上にお客さまとの接点を大切にしていきます。

 そして今年からは、料金だけの競争から、いよいよソリューションや品質の総合力で勝負をする時期になったと考えています。(法人向けの)ソリューション元年にしていきたいですね。市場環境も、そういう段階にきたと考えています。品質とソリューションで選ばれるドコモになっていきたいと思っています。

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