携帯電話の高機能化に伴い、ディスプレイの表現力が増している。ハイエンドモデルの解像度はワイドVGA(480×800ピクセル)以上が標準になりつつあり、画面サイズも3.5インチクラスの端末が登場するなど、進化し続けている。また、通信速度の高速化や定額プランの導入も進んでおり、リッチなコンテンツを楽しめる素地が整ってきたといえるだろう。
しかし、サービス面では、この高解像度なディスプレイや通信速度を生かし切ったものが登場していないのが現状だ。例えばワンセグはそもそもの解像度がQVGA(320×240ピクセル)であるため、大画面はメリットになるものの、解像度の面ではさほど効果があるとはいえず、大画面や高解像度が生きてくるWeb系のサービスにしても、表現力の豊かな携帯サイトはまだ少ない。
こうした中、携帯電話が持つ表現力と、まだ改良の余地がある携帯Webのユーザーインタフェース(UI)に着目し、新たなRIA(Rich Internet Application)プラットフォームを開発したのがネイキッドテクノロジーだ。
同社が開発したのは、携帯向けRIAプラットフォームの「Colors」。RIAとはHTML表記のWebサイトに比べて、リッチな表現や柔軟な操作が可能なWebアプリケーションの総称で、PC向けにはAdobeが「AIR」を、Microsoftが「Silverlight」を開発している。ネイキッドテクノロジーは、モバイルに特化することで競合との差別化を図る考えで、7月23日から携帯向けWebアプリケーションのクライアントアプリ(α版)を一般公開する。
Colorsとはどんなプラットフォームなのか、FlashやHTMLの携帯サイトに比べてどんなメリットがあるのか、Colorsが目指すビジネスモデルはどのようなものなのか。同社代表取締役の菅野龍彦氏に聞いた。
携帯向けRIAプラットフォームのColorsは、PCや携帯のインターネット上にあるさまざまなWebサイトを、携帯画面に最適化したリッチな形で表現し、インタフェースをそのサイトに適した形にカスタマイズできるプラットフォーム。携帯電話にインストールするクライアントアプリと、Webコンテンツを送り出すゲートウェイサーバで構成され、クライアントアプリ上で閲覧できるサービスやWebコンテンツは、ネイキッドテクノロジーが手がけるものもあれば、既存のWebメディアのコンテンツや携帯向けコンテンツをColorsプラットフォームを通じて配信するものもあるといった形になる。
Webサイトは提供するサービスによって機能が異なり、それをそのまま携帯向けに変換すると使い勝手が損なわれることも多い。Colorsの特徴は、端末内蔵のWebブラウザや機種、メーカーに依存することなく、そのサイト専用のUIを構築できる点にある。
ユーザーは、アプリを端末にダウンロードすることで、Colorsプラットフォーム上のWebサイトを閲覧できるようになる。アプリ上には、サービス一覧機能が用意される予定で、ユーザーが複数のコンテンツやサービスをアプリ上で切り替えて利用できるようにするという。
当初はiモード向けのiアプリ版を提供し、年内をめどにau、ソフトバンク向けアプリを提供する予定。以降、Windows MobileやSymbian、iPhone版も開発する計画だ。
7月23日から公開されるiアプリに搭載されるのは、Twitterクライアントの「twittie」と、Flickr閲覧用クライアント「flickkie」。つぶやきを投稿したり見たりするTwitterと、写真を探して閲覧するFlickrでは機能や最適な見せ方が異なり、アプリ上ではそれぞれのサイトに最適化した表示やメニューが適用されているのが分かる。
ITmedia 「Colors」は、どのような位置づけの携帯電話向けプラットフォームですか。
菅野氏 Webアプリケーションを携帯電話上で実行するプラットフォームです。デスクトップPCの世界では、RIAと呼ばれるリッチなインターネットアプリケーションを実行するプラットフォームがあり、Adobeが「AIR」を、Microsoftが「Silverlight」を開発して話題になっていますが、我々はこれを携帯電話に特化した形で開発しています。
ITmedia Webサイトを携帯電話に最適化したリッチな表現にするプラットフォームということですが、「Colors」ならではの特徴はどのようなもので、従来はできなかったどんな表現が可能になるのでしょう。
菅野氏 携帯向けインターネットでリッチなものを実現しようとした場合、いくつかのアプローチがあります。1つは、PCのWeb表現をそのまま携帯電話に持ち込むというフルブラウザ的なアプローチ。もう1つはAdobe Flash Liteのように、1つのファイルのオブジェクトを一から開発し、ケータイ上で動くアニメや動画を実現するというやり方です。
我々のアプローチは、“その中間のようなもの”といえます。既存のHTMLファイルに簡単な拡張タグのようなものを付け加える手法を使い、デスクトップPCでいうところのAjaxが実現していたような豊かな表現を、“なるべくシンプルなコード”で実現しようという思想とアプローチで作っています。
Colorsの特徴の1つは、Webサイトをケータイの画面や操作に最適化した形で展開できることです。
ケータイ向けサイトを見ると、通信環境などの制約があることから、文字中心で比較的寂しい表現のサイトが多いのですが、Colorsを利用することで画像素材を多用し、アニメーションのような動きがあるものを画面のUIに持ち込めます。
また、従来型の携帯向けサイトの場合、狭い画面の中でさまざまな操作ができるようにするためには、その機能を実現するためのリンクをページ内にたくさん埋め込まなくてはならず、1ページがものすごく長くなってしまうという問題があります。すると、見たい情報を探すために、何度もスクロールする必要が出てくるわけです。
Colorsでは、例えば情報が多いサイトならタグで切り分けて、左右の行動導線を作って操作させるようなUIを提供できるので、“少ないキータッチで必要な情報を見せる”ことが可能になります。
もう1つの特徴は、Webサイトを閲覧する際に、携帯に搭載されるブラウザのUIや端末に依存しない操作が可能になる点です。Webブラウザ上では、例えばラジオボタンや検索ボックスの仕様はブラウザに依存したUIになりますが、Colorsはクライアントアプリケーション側でUIのルールを定義するようなものではないので、WebサービスごとにフルカスタマイズしたUIを設計できます。
例えばニュースサイトなら“読む”ことに、写真を効率的に見せたいなら“見せる”ことに最適化したUIを提供できるわけです。
このムービーをご利用いただくためにはFLASHプラグイン(バージョン8以上)が必要です。
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ITmedia Flashやフルブラウザがケータイ向けに提供されている中、あえてこの分野に参入する理由はどういったところにありますか。
菅野氏 Flashは開発者人口も多く、コンテンツをパブリッシュする側から見ても使いやすいプラットフォームだと思いますが、実際に世の中に出ているFlashサイトを見ると、例えば期間限定の広告キャンペーンで十数ページ分のコンテンツを豊かな表現で見せるといったような限定された規模での利用が多く、大規模なサイトをフルFlashで展開している例は少ないように思います。その背景には、Flashでサイトを構築する際の工数が多いとか、Flashで高品質のサイトを構築できるエンジニアの数が不足しているといった理由があるのかもしれません。
我々がこの分野に参入する理由の1つは、コンテンツを配信する側や作り手の側で、(Flashなどと)同等のリッチな表現をもう少し簡単に提供できる余地があるのではないかと考えたからです。
開発期間の面でいえばColorsは、定型化されたAPIがあるサービスで我々がビューを作るという形であれば、10日から2週間くらいでサイトの原型ができます。また、導入事例が増え、さまざまなサービスのひな形ができてくれば、さらに開発のスピードは速まるでしょう。
ITmedia Colorsプラットフォーム上で展開するのに適しているのはどのようなサイトになりますか。
菅野氏 Colorsで使われているのは、XMLの記述様式を拡張したものなので、定型化されたサイトにビューの定義を加えるような形は得意とするところです。
例えばレーベルがあってレコードがあるような、データベースに基づいて構築されたサイトは適していると思います。形式化されたデータの場合、そのレーベルに対して動きや見せ方情報を定義していくだけなので、得意とする領域の1つです。
もう1つは、検索項目がたくさんあるサイトですね。ページのデザインやレイアウトを自由に起こせるので、例えばレストラン検索のサイトは、立地や料理のジャンル、雰囲気など、複数の項目で複数の選択肢を選ぶ必要があるので向いています。Colorsでは、機能キーの後ろにこうした項目を表示するメニューを隠せるので、シンプルなデザインで複雑な操作や多くの項目を選ばせるような導線を引くことができます。
また、いつでも持ち歩く端末に使いやすい操作を付加するという意味では、情報の更新頻度が高いニュースサイトや、ブログやSNSといったソーシャルなコミュニケーションを提供するサイトにも適していると思います。あとは、画像やアニメーションを多用したグラフィカルなサイトですね。Colorsでは、サイトごとに起動できるファンクションを制限できるので、コピーされたくない画像を見せるようなサイトでも安心です。
最近のケータイ向け機能でトレンドになっている動画への対応については、現状はサポートしていませんが、ニーズが高まっているので優先順位を上げて対応に取り組んでいます。
後編では、ネイキッドテクノロジーが独自で開発を進めている「Colors」上の広告サービスとビジネスモデルを紹介する。
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