作品名 | 歩いても 歩いても |
監督 | 是枝裕和 |
制作年・製作国 | 2008年日本作品 |
今回ご紹介する作品は、『誰も知らない』の是枝裕和監督が身近な家族の光景を描いた『歩いても 歩いても』。阿部寛、樹木希林、YOU、原田芳雄など個性的なキャストが、平凡な日常に溶け込んでいます。
横山良多(阿部寛)は、横山家の次男。十数年前に事故で亡くなった兄の命日に、久しぶりに実家へ帰ることにしたものの、昔から父親(原田芳雄)とは折り合いが悪く、気が進まなくなっていました。そんな良多の背中を押すのは、妻のゆかり(夏川結衣)。ゆかりには亡き前夫との間に息子がおり、再婚ということもあって、良多以上に気が進まないのが本音でした。
良多は実家に近づくにつれて落ち着きをなくし、携帯電話をずっと触り続けていました。それというのも、絵画の修復士として働く良多は、現在失業中。何とか実家に戻る前に仕事を見つけようと、友人に電話をしまくっていたのです。
「あー、出ないなー」
いよいよ、実家の最寄りの駅につき、良多はゆかりに頼みます。
「仕事のことは内緒な」
しぶしぶ頷くゆかり。
「失業中だなんて、口が裂けても言いたくない」
と、良多は呟きます。
いつからか良多は父親に反抗するようになり、まともに口を利くこともなくなっていました。医師であった父親に反発して、まったく別の職業を選んだ自分としては、仕事がうまくいっていないことを絶対に知られたくなかったのです。
久しぶりに来た実家には、長女のちなみ(YOU)一家が既に着いていて、にぎやかに母親(樹木希林)と食事の支度をしていました。ちなみと母は一見仲睦まじく見えるものの、しばしば出る母の毒舌にハラハラさせられていました。そんな2人に加わり、気を遣いながら手伝うゆかりを残して良多はまた携帯電話をいじり、居心地の悪さをごまかします。そんな良多の姿を見て、
「何? 仕事なの?」
と尋ねる母に、良多は
「まぁ、急ぎの仕事があってね」
と、とっさにウソをついてしまいます。後を続けずに、その場からいなくなる良多。ゆかりは、そんな良多のフォローをしつつ、横山家になじもうと努力するのでした。
家族が勢ぞろいした食卓で、1番居心地悪そうにしているのは父親。しかし、ずっと携帯電話を触っている良多もまた、父親によく似た所在なさを醸し出していたのでした。
いつまでも母には子供扱いされている良多でしたが、父と母が年をとり、老いを感じさせる姿になってきたことに気づき始め、ありふれた夏休みの家族の1日は、いつしか特別な時間になっていくのでした。横山家の長男の命日に集まった家族が過ごす2日間が、夏の光の中、やさしく切り取られている作品です。
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