第11回 ヤングは匿名のままギリギリまで自分をさらけ出したい?コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく

» 2008年08月28日 07時00分 公開
[トミヤマリュウタ,ITmedia]

 「ネット」イコール「匿名文化」みたいな話があります。その匿名文化の代表として「2ちゃんねる」がよく引き合いに出されるわけですが、確かに2ちゃんねるに限らず、ブログでもSNSでも、匿名で利用されているサービスはたくさんありますよね。もちろんネットと匿名が“イコール”で結び付くなんていうことはないと思っていますけど。

 しかし、この“匿名”の線引きといいますか、プライベートとオフィシャルの境目の感覚が、最近だいぶあやふやになってきている自分がいたりします。その理由はいろいろあるのですが……。というわけで今回は、匿名文化の行く末について考えてみたいと思います。

匿名で顔写真をさらしまくりなヤングたち

 この境目があやふやになっている理由の1つが、10代から20代の若い子たちに見られる「顔出し投稿」です。名前は「とみぃ」なり「トミィ☆」なり「( ・ω・)ノ トミぃ♪」なり、あるいは本名でも下の名前だけだったりと、レベルの違いはあれど一応匿名なのですが、携帯で撮影した写真や写真シールなどで、ガンガンに顔出ししている人、結構います。女子高生に人気といわれるpeps(http://peps.jp/)などにアクセスしてみると、事例を散見できると思います(会員登録が必要です)。

 確かに昔からそういう傾向はありましたが、最近そうした行為が一般化されつつあるのかも? と思えるほど、目撃する件数が増えています。それで、「こりゃちょっと風向きが変わりつつあるな」と感じている次第です。

 ちなみに、そうやって顔をガンガンにさらしているのは女性……というか、女の子が多いですね。そして、「匿名だけど顔出しOK」という感覚値はそのままその彼女たちの彼氏や友達にも適用されるので、結果的に周囲の人たちの顔もネットへとアップされまくる(笑)。「今日はダァ(ダーリン)のバースデー」「弟チョーLOVE♪」なんていうコメントつきで。

 さらには、「トミヤマ夫婦のホムペ」なんていう風に題された彼氏彼女の共同サイトもよくあって、そうなるともう、そこはほぼ実名な上にトップページで彼氏彼女がチューしている写真を掲載しまくり! な、もう「オジサンまいっちゃう」な状況が繰り広げられていたりするわけです。ちなみに、そうした子たちの写真を見ていると、いわゆる昔の「茶髪ミニスカなコギャル」ではなく、男女共に黒髪でピュア〜な感じだったりして、なんとも時代を感じます。

 これがmixiのようなSNSで、しかも友達までに限定して公開されているなら驚きはしません。SNSですからね。そうやって使うものです。話は脱線しますけど、日本版が開始されたFacebookは実名交流を強みに挙げていますが、そもそもSNSって実名で交流するものなんじゃなかったんですかね……。

 ところが最近はSNSどころか、ただただ匿名で気持ちを殴り書くような掲示板、ブログの類でも、同様に顔出ししているケースを見かけるようになってきています。それで、ちょっと「おやおやおや〜」と思うようになった次第。

Photo ミニブログ「世界の中心でイマをさけぶ」(http://imachu.jp/)の地図投稿機能。ケータイで自分の居場所を測位して投稿できます。実際に那須に遊びに行ったときに現在地を投稿してみました

 顔出しでなく、「地図出し」されている方もたまに見ます。ブログに、自分が通う学校の地図(Googleマップなど)を貼っていたり、ケータイから現在地を投稿したり。

 しかし、なんだかそう考えていくと、「匿名のまま、ぎりぎりまで自分をさらしたい」というニーズがあって、それに応えるサービスが色々出てきているようにも見えますね。いや、「匿名のまま」という認識でもないのかもしれません……。「匿名で」というよりは、「みんな、アタシのことはァャって呼んで!(本名は山田文子です)」的な、ニックネーム、ハンドルネーム感覚で自分を売り込んでいるだけなのでしょう。

匿名であることの利点って?

こうした匿名ではあるけれども、かなーり自分をさらしている皆さんは、多くの場合ヤングです。若者です。「守るものがないから顔をさらせるんじゃないの」という見方はできます。

しかし、若気の至りとはいえ、恋人とのラブラブっぷりを写真入りで皆に公開し、別れた後いろいろ面倒くさいことになったりしながら、そうした世代が大人になる──。するとどうなるんでしょう。今、ニコニコ動画で顔出しのまま「踊ってみた」している若い人……というかお子さんたちが、大人になったらマスクをかぶるのかな……という疑問ですね。

 個人的には、「やっぱりネットは顔を隠して、匿名で楽しまなきゃ」とはならないんじゃないかなと思います。習慣として根付いていくうちに、それが当然と思うようになっていくんじゃないかなと。つまり、大人になっても、「匿名で顔写真アップ」が普通になるんじゃないかと思うわけです。

しかし、ネットにガンガン顔写真アップですかぁ……。

う、うーん、個人的には抵抗ありますよね……。

匿名で自分の学校の地図をさらすのは……、まぁ分かるんですけど。

自分だってバレてもそんなに困らないし……。

ってあれ? そもそもネット上の発言が“リアルな自分と結びつく”イコール“バレる”ことに、何か問題を感じている???

それってなんでだろう???

別に問題ないはずでは???


 ネットの匿名性という問題を考えると、いつもこんな思考回路になって、ふとわれに返るということを繰り返します。よくよく考えれば、多くの場合「匿名でなくなること」自体には問題なんてないはずなのです。だって普段は自分の名前で、自分の顔で人と話をし、意見を述べているのですから。そう思って、この連載も実名で(カタカナですが)引き受けたわけですし。

 結局、匿名で発言できることの利点は「言いづらいことを容易に言える」ということに尽きると思います。匿名で内部告発するというのが分かりやすい例ですよね。

 そうした「言いづらいこと」すなわち「社会的に抹殺されるかもしれないリスクを負うこと」以外についての発言は、匿名性ってことさら必要ものではないんじゃないかなと。となると、結果的に「社会的に抹殺されるリスクをあまり負っていない世代(理解していない世代?)」、つまり若い子たちが、自分をどんどんさらしていくサービスを気軽に利用しているのはよく分かります。

顔写真や実名が流通しまくるサイトが日本でブレイクするのはいつごろ?

 こうした傾向が、若い世代が闊歩するケータイサイトだけでなく、日本のインターネット全体へと広く浸透していくようになるのかどうか。具体的に言えば、YouTubeやニコニコ動画への投稿は基本的に“顔さらし上等”という感覚になっていくのかどうかというと……。うーん、どうでしょうね。

 僕も含めてですが、「ネットにおいて匿名でいることの気軽さ」を一度味わったものが容易にその術を手放すとも思えないですし、一方で「一度顔をさらしたものが、後々匿名でいようと考えるか」とも思います。おそらくちょうどいまの25歳くらいを境にして、匿名で居続けたい人と、そうではない人に分かれていくのではないかなぁと。もちろん、なんの裏づけデータもありませんが。

 また、匿名文化がネットからなくなるなんていうことはないでしょう。そういう動きが何かしらの圧力によって生まれてきたら、正直怖いくらいです。それは、「匿名で発言できることの利点である、言いづらいことを容易に言える」という環境をよしとしない人々からの圧力としか思えませんからね。例えば内部告発を恐れる人とか……。

 ケータイうんぬんではなく、ネットの出来事ということでちょっと視点を変えると、2008年4月、あの「長野聖火リレー」で、ネットの情報を頼りに現地へと足を運んだ人々もまた、匿名の世界から一歩外へと足を踏み出した新たな感覚値の持ち主たちといえましょう。ネットで匿名コメントしているだけではなく、自分の顔と声で、肉体で、普段ネット上で書き込んでいることを実行に移した。祭りとも炎上とも違うこの一連の動きは、「匿名文化」と呼ばれるネットの体質に変化が生まれた、エポックメイキング的な出来事として僕の目には移りました。ここまで書いてきたケータイの世界とはまた違うところでも、変化は生まれてきています。

 話を元に戻すと、時と場合によって、「匿名と実名をうまく使い分けたい」というのが、わがままなユーザーの気持ちでしょう。だから、いま顔写真をガンガンネット上にさらしている子たちが大人になっても、匿名での利用が、ネットからなくなることはないでしょうし、その逆に、今は匿名をよしとしているユーザーも、時と場合によって、実名や顔出しでネットを楽しむという感覚を徐々に持ち合わせていくだろうとは思います。月並みですけど。あとは、そうした実名・匿名使い分けが、どういうスピードで進み、どういう割合でバランスしていくかの見極めでしょう。


 今回なんでこんな話をしたかと申しますと、自分は前々から、「顔写真」を使ったとある企画を考えていまして、「顔をネットにさらしてもOK」「ネットに名前が流れてもOK」という世間的な合意が、日本ではいつくらいに生まれるのかに興味があるからです。その視点から言うと、仮に今考えているその企画を通しても……、10代にしか受け入れてもらえななさそうですねぇ(笑)。もうちょっと様子を見ますか。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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