Windows Mobileでコンシューマーの心を揺さぶりたい──マイクロソフト 越川慎司氏神尾寿のMobile+Views(1/3 ページ)

» 2008年09月09日 12時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 先進国を中心に、世界的な携帯電話の高機能化やスマートフォン化の流れが鮮明になる中で、基本ソフトであるOSの勢力争いもまた激しくなっている。PC向けのデスクトップOSでは、マイクロソフトのWindowsファミリーが圧倒的なシェアを誇るが、携帯電話向けOSの世界はまさに群雄割拠。Nokiaが擁する「Symbian OS」、LinuxをベースにオープンソースOSを目指すGoogleの「Android」と、業界大手メーカーが集うLiMo Foundation。また、単独メーカーの取り組みであるが、強烈な個性と洗練されたユーザー体験を用意し、一目置かれる存在となったAppleの「iPhone OS」なども登場し、携帯電話向けOSのデファクト・スタンダード(事実上の標準)をめぐる主導権争いはモザイク模様だ。

 そのような中で、デスクトップOS市場での圧倒的なシェアとユーザーの支持を背景に、携帯電話向けOSでの覇権を狙うのがマイクロソフトだ。同社はスマートフォン向けOS「Windows Mobile」を市場投入し、ビジネスユーザーを中心に勢力を伸ばしている。日本でも、NTTドコモやソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムなどの主要キャリアが、Windows Mobileを搭載したスマートフォンをラインアップしている。しかしその一方で、これまでのWindows Mobileは“ITリテラシーの高いビジネスユーザー”や、”一部の学生層”をのぞくと、まだあまり受け入れられていない。市場の大半を占めるコンシューマー市場では、知名度向上とシェアの拡大のどちらも苦戦を強いられているのが現状だ。

 この状況を打破するため、マイクロソフトはWindows Mobileの舵を「コンシューマー市場向け」に切り直す。それに向けて社内体制も大きく改革された。Windows Mobileはどのように変わっていくのか。マイクロソフト モバイルコミュニケーション本部 本部長の越川慎司氏に話を聞いた。

Photo マイクロソフト モバイルコミュニケーション本部 本部長の越川慎司氏

コンシューマー市場向けに組織体制を改変

ITmedia(聞き手:神尾寿) マイクロソフトではWindows Mobileの事業部体制が大きく変わったそうですね。そして新たな本部長として越川さんが着任されました。これは、かなり抜本的な方針転換を狙ったもののように見えます。

越川慎司氏 そうですね。私自身はこれまでB to B分野の事業に携わってきたのですが、(Windows Mobileの)新体制の方向性としては、「B to C」の方向性が鮮明になっています。

 Windows Mobileというと、これまで“ビジネス系のパワーユーザー向け”が中心でした。しかしこれからは、(Windows Mobileを)コンシューマー市場に広げていく戦略を採ります。

 具体的な社内体制としては、今年7月にEMIミュージック・ジャパンから堂山(堂山昌司氏:現マイクロソフト代表執行役 副社長 コンシューマー&オンライン事業部担当)を招聘しまして、彼の下にコンシューマー&オンライン インターナショナル(COI)という組織を立ち上げました。COIは新しいWindowsのユーザー体験を構築・提供していくための組織で、Windows VistaとWindows Mobileのコンシューマー部門、さらにMSNやWindows Liveなどのオンライン部門が統合されています。

ITmedia かなり大胆に「コンシューマー市場」に向き合う構えですね。

越川氏 ええ。特に日本市場では“Windows Mobileはビジネス向け”という傾向が強いので、これを変えていかなければなりません。

 具体的な取り組みとしては、今のWindows Mobile 6.1においても、既存のサービスや(ソフトウェア)リソースをうまく組み合わせることで、コンシューマーユーザーに提供できるシナリオや価値は変えていけると考えています。これは年内、そして年明けにも、「コンシューマーユーザーの心を揺さぶる」ものとして提供したいと思っています。

コンシューマー市場を見据えてサービス連携・統合が進む

ITmedia コンシューマー市場にWindows Mobileを広げる、というのは確たる方針というわけですね。しかし、その一方で、今の日本市場ではWindows Mobileに限らず“スマートフォン”の需要がコンシューマー市場において成熟していないという課題もあります。

越川氏 特に日本では、一般的な携帯電話とスマートフォンに大きな断絶があります。ここを今後のWindows Mobileでは、埋めていきたいと考えています。

ITmedia もう1つ難しいのは、日本の場合は、一般的な携帯電話とスマートフォンは傾向の違いはあれど、コンシューマーユーザーから見たときの機能差があまりないことですね。そこが「ハイエンドな携帯電話」イコール「スマートフォン」というヒエラルキーやイメージができている欧米市場と大きく違うと思います。

 ビジネスシーンでは、Exchange ServerやPCとの親和性の高さが、Windows Mobileの優位性になる、という点がとても分かりやすいですよね。しかしコンシューマー市場では、一般的な携帯電話も十分に多機能・高性能であり、ユーザーもそちらに使い慣れているわけです。欧米市場のようにヒエラルキー的な差別化や優位性の訴求ができない中で、どのようにしてコンシューマー市場におけるWindows Mobileのメリットを打ち出すのでしょうか。

越川氏 そこはWindows Mobileのプラットフォームやエコシステムに、価値を見いだしていただくことが重要だと考えています。

 また、我々がこれから強く打ち出したいポイントとして、「サービスとの統合」があります。Windows Mobileは携帯電話としての機能や使いやすさも追求していくのですけれども、その上に、マイクロソフトが今後注力する「ソフトウェア・プラス・サービス」の世界を具現化していきます。我々が所有しているソフトウェア資産のほとんどは、この数年のうちにクラウド上にすべて構築する予定でいます。その上でファイルを共有することから始まり、メッセージングサービスを統合的に使う、あるいはオフィスアプリケーションと連携するといったことをやっていきます。こうしたことを考えると、Windows Mobileの方が使いやすいはずです。リッチなユーザーエクスペリエンスを提供できるでしょう。

ITmedia スタンドアローンでの端末機能やエクスペリエンスでのみ競争するのではなく、サービスとの連携・統合の部分が、今後のWindows Mobileの魅力になるわけですね。それをコンシューマー市場にも打ち出していく、と。

越川氏 ええ。Windows Mobile上でのサービス統合は、これまでうまく打ち出してこれなませんでした。しかし今後は、マイクロソフトのサービスだけでなく、サービスベンダーのサービスも含めて、しっかりと統合していきます。

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