ノキアデザインは“生活密着型リサーチ”から生まれる――Nokiaのチップチェイス氏

» 2008年09月10日 21時18分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo Nokiaデザインセンターのヤン・チップチェイス氏

 Nokiaは世界の国々に向けて端末を投入するグローバル企業として知られ、その世界シェアは4割に達している。多くの国々に端末を投入して調達コストを抑える“規模の経済”による効果や、自社サービスの展開で業績を伸ばしている同社だが、高いシェアを獲得している最も大きな要因として挙げられるのが、各国のニーズを汲んだ端末開発に長けている点だ。

 Nokiaはどのようにして、国ごとに大きく異なる文化や生活習慣、ITリテラシーを把握し、それを端末開発に採り入れているのか。「NM706i」の発表会に登壇した同社デザインセンターのヤン・チップチェイス氏が説明した。

“朝起きてから寝るまで”の行動からニーズを読み取る

 チップチェイス氏は、ノキア端末をデザインする際に“美しさ”や“使う喜び”という要素に加え、「人々の生活の中で、関連性が高いかどうか」にフォーカスしていると説明。そして、1つの要素だけを満たすのではなく、すべての間でバランスがとれているかが重要だと話す。

 Nokiaが生活との関連性を重視するのは、同社がグローバル企業であり、端末の投入にあたって、それぞれの市場のニーズに最適化した端末を開発する必要があるからだ。そのためには、さまざまな国のケータイユーザーの間に存在する共通点と相違点を理解する必要があり、それを調査するのがチップチェイス氏の役割というわけだ。同氏はさまざまな国や地域に出向いて、固有の文化や生活習慣、社会的なトレンドをリサーチしているという。

 中でも多くの時間を費やすのが、人の生活に密着したリサーチだ。「人の置かれている環境について、最も豊かな情報を持っているのが家庭」(チップチェイス氏)であることから、“起きてから寝るまでの”あらゆる状況を追跡して調査するとチップチェイス氏。「(リサーチしてもいいという人から)許可をもらって、会社でどうしているか、友達とどんな交流をしているか――などを見ていく」(同)

Photo 各地の生活に密着してニーズを読み取り、それを機能に反映させる。「例えば、ホーチミン市の通勤と日本の通勤はどう異なり、それに基づいてどのように設計やデザインを変えたらいいのかを考える」(チップチェイス氏)

行動の背景にあるものを見極め、ケータイでサポートする

 こうした調査からは、地域ごとに異なるさまざまな行動や、その背景にあるものが見えてくるという。チップチェイス氏がその例として挙げたのが、タイ・バンコクの“飾り付きブレース”とエジプト・カイロの“お祈り通知アプリ”だ。

 例えばバンコクの若い女性の間で流行しているという飾り付きブレース(歯列矯正具)は、歯の矯正機能を備えていない。それを付ける理由は“他人から、どんな存在として認知されるか”を意識しているからで、「周りの人に、“あの子の両親は歯の矯正をしてあげられる、経済的に余裕がある人だ”と感じさせるための、ある意味、野心を刺激するアイテム」(同)という位置付けだ。

 また、街中にモスクがあり、どこでもお祈りの時間が分かるにもかかわらず、カイロの人が携帯電話のお祈り通知機能を使うのは、「1つは周りの人に対して自分がいかに敬虔なイスラム教徒であるかを示すため、もう1つはもっと敬虔なイスラム教徒になりたいという意図を示すため」という理由からだという。

Photo 飾り付きブレース(左)とお祈りアプリ(右)

Photo 韓国の調査では、学生がばれないようにケータイでテレビを見るのに、メガネケースを使っていたという

 このように、人の行動の裏にはしばしば隠された意味が存在するため、ものごとの背後にある文脈をとらえることが地域のニーズに密着した携帯を開発する上で重要だとチップチェイス氏。「どんな状況で使うのが適しているのか、使うのが適切ではないところでそれをどのようにサポートするのか――。私たちは、作り出すもののすべてにおいて背後の文脈を考えている。1つ1つのデザイン上の決定の背後には、それぞれ意味がある」(同)

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デザイン | Nokia(ノキア) | NM706i


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