第24回 ケータイ業界とエンジニアの皆さんにエールを贈りたい小牟田啓博のD-room

» 2008年09月25日 08時45分 公開
[小牟田啓博,ITmedia]

 こんにちは。小牟田です。今回は、景気と直結すると言われている“ケータイ業界の今と今後”を見ながら、最近体験したことを交えて僕なりの思いをお話したいと思います。

えっ! 今の学生さんはケータイ業界に興味がないの!?

 ちょっと前のことですが、ケータイ出荷量が大きく減ったとか、iPhone 3Gは意外と売れていないとか、いやいやiPhone 3Gは新機種の中では売れ続けているとか、いろいろなニュースが飛び交いました。

 大まかに見て、全体的にケータイ市場は昔と比較すると明らかに元気がなくなってきていると思います。消費者の気持ちも、ケータイから少しずつ離れてしまっているかのような状況です。

 そんな日本のケータイ業界で少なからず話題の中心となっているのが、「iPhone 3G」をはじめとする海外メーカーの端末ではないでしょうか。

 9月11日には、au(KDDI)から初のQWERTYキーボード搭載スマートフォン「E30HT」が発表され、さらに9月18日にNTTドコモソフトバンクモバイルから「Touch Diamond」「Touch Pro」の発売が発表されるなど、「スマートフォン」に関する話題も何かと報じられていますしね(Touch Diamondはイー・モバイルからも「S21HT」としていち早く登場しています)。

左が「Touch Pro」、右が「Touch Diamond」。どちらも台湾HTC製のモデルをベースに国内では各キャリア仕様で登場する

 先日、とあるIT系の研究会で講演をさせていいただきました。その講演会は、勉強会という位置付けで主催者もボランティア、講演者の僕もボランティア、聴講者の方々は会場代を参加費という形で出費するというもので、全員がモバイル関係かIT関連の仕事に携わっていて、全員が信じられないくらいに熱心な人たちで構成された会でした。

 その中で話題になったのは、停滞するケータイ業界に対する危機感と、iPhone 3Gの存在についてでした。

 参加者からは一様に、日本のケータイ業界の先行きは大丈夫なのか? 何とか市場を再燃させなければならないのだけども、どうすればよいのか? などなど問題提起がなされ、とても積極的な意見交換が行われました。

 この会は答えを出すという場ではなく、皆さんで考える場の共有が目的でしたから、何か結論がでたわけではありません。しかし、こういった場に集まる人たちが業界を裏で支えていくのだろうな、と強く感じました。

 僕は日本中で講演する機会をいただきますが、毎回講演の初めに聴講者にいくつかの質問をしています。ここで少々残念に感じたシーンがありました。

 講演の対象は学生さんであることも多く、最初の質問で「将来ケータイに関わる仕事がしたいですか?」と聞くことがあります。去年くらいまでは、少なくとも2割くらいの学生さんが興味を示していて、多いときには半数近くの学生さんがケータイに携わる仕事がしてみたい、と反応があったものです。

 ところが、今年の夏に行った講演で同じ質問をしたとき、ケータイに興味を示した学生さんは“ゼロ”だったのです。そうなんです。1人もケータイに興味を示す人がいませんでした。

 これにはショックを受けました。未来を作る学生さんがケータイに興味が向いていないということは、彼らがケータイという存在に将来性を感じていないとも取れるわけです。僕が少なからず、ケータイの将来に不安と寂しさを感じた瞬間でした。

 この出来事は非常に深刻なことで、正義感の強い業界人ほど、このことの重大さを感じてくれています。

PCから家庭用ゲーム機、そしてモバイルまで。市場は進化する

 以前と比べて魅力的ではなくなったケータイ業界の中で、ある程度限られたユーザーが対象とはいえ、今のiPhone 3Gの魅力とインパクトはそれはそれは凄いものだと思います。

 7月に登場してたった2カ月程度の間にも、入力インタフェースに関してだけを見ても、スタート当初からは格段に進化したものにアップデートされているあたりは、さすがは「Apple」だと感心させられます。

 それに加えて「iTunes」が日に日に充実していくiTunesワールドは、一大エンタテインメント化しています。音楽だけでなく、映像やゲーム、アプリに広がるこの世界観に、僕も結構はまっています。

 こうしたサービスの充実度を見てみると、僕は過去の“Apple Computer”を思い出します。

 それは、コンピュータというものが「IBM」を中心にビジネス用途に限られていた30年ぐらい前、Apple ComputerのAppleIIがゲームを中心としたソフトウェアの豊富さを武器に、コンピュータをパーソナル市場に持ち込んだということです。

 当時はATARIやCommodoreなど、アメリカにはPC会社がいくつも存在していました。それに対して日本では、日本電気のPC-8001、PC-6001をはじめPC-8801、富士通からはFM-8、FM-7、シャープからはX-1といったPCが一般家庭に入り込んでいきました。これはハードとしてのPCの普及に大きく貢献した事例といえるでしょう。

 その後、各家電メーカーがPC市場に参入し、普及タイプのモデルには統一規格の「MSX」といった、ややゲーム機寄りのポジションの商品展開が積極的になされた時代がありました。このMSXシリーズは定着するには至りませんでしたが、以降のゲーム市場にインパクトを与えたことは確かでしょう。

 さらに任天堂がゲームに特化した「ファミリーコンピューター(ファミコン)」で、一気にゲームコンピュータを普及させ、世界的な市場を開拓してきました。

 このときのコンセプトは非常に明快で、家庭でゲームセンターと同じゲームを楽しめる、というものでした。このシンプルなコンセプトが非常に分かりやすかったせいもあって、今の巨大ゲーム市場の基礎を築いたといっていいでしょう。

 その後ゲーム機は、任天堂からスーパーファミコンが、ソニーからはプレイステーションが登場するという形で、今のゲーム市場へと連なっていきます。

 時を同じくして、オフィスユースコンピュータはビジネス用として定着し、一般向けコンピュータは完全にビジネスとプライベートの垣根を越えてパーソナル化しました。

 完全にハードだけの時代は終わり、魅力的なソフトを使うためにハードを選ぶ。そんな順番でコンピュータと付き合う時代になってきます。

 そして今、任天堂「wii」や「プレステーション 3(PS3)」のように家庭用ゲーム機でもネットワーク連携は当たり前になっています。もちろん、PCに至ってはダウンロードによるソフトの利用やカスタマイズは常識ですよね。これはインターネットが普及したおかげで、PC文化が大きく進化した例だと思います。

 完全に余談ですが、普及の例として「プレステーション 2(PS2)」などは、たった数年間で累計1億台の出荷を記録したとかで、これは工業量産品の歴史の中で、ロシア製の拳銃トカレフと並ぶ記録なのだそうです。

 トカレフってそんなに流通してるの!? って驚きますけどね(笑)。トカレフの記録は数十年をかけて作られてきたのに対して、PS2は4〜5年でそれを実現したのですから、驚異的といえるでしょう。

 一方のモバイルの市場では、「PDA」と呼ばれた小型PCからたどる歴史と、それからケータイと呼ばれる携帯電話機の通話端末からたどる歴史がミックスされたような、そんな市場になっていると思います。

 “ケータイ”とは、通信モジュールと通信インフラを使った、サービスとしての側面が色濃い世界です。ダイアル式黒電話が進化して今のケータイにつながっていると考えると、ちょっと面白いですね。

今までのケータイとは一線を画するスマートフォンが鍵

 ここまで、過去の事例についてざっとおさらいをしてきました。ここで話を元に戻して今のケータイ市場を見ていきましょう。

 iPhone 3Gの素晴らしさは、優れたハードのデザインだけでなく、独自のシンプルなインタフェース、iTunesを中心としたネットワークサービス、それらを包括したブランドとコンセプトの一貫性にあると思います。

 かつての音楽プレーヤーは総じて「ウォークマン」と呼ばれていたのに対し、今は「iPod」と呼ばれているあたりも、Appleのすごさがうかがえます。今流行のお笑いの中でもipodがそのツールを代表する象徴として登場してくるほどですから、完全に音楽を楽しむツールのスタンダードなったと言ってよいでしょう。

 iPodは音楽再生を中心にスタートしましたが、音楽のダウンロード購入が始まり、画像やゲーム、オフィスユースのアプリケーションが日に日に充実してきていて、ユーザーの広がりと市場の拡大がシナジーを生み出しています。

 iPhone 3Gだけでなく、Windows MobileやSymbian OSを搭載したスマートフォンも、通信各社から発売が発表されています。これらのモデルは今までのケータイとは一線を画すもので、先行き不透明なケータイ市場の鍵となりインパクトを与える存在であることは確実です。

 PCのようにWindows OSをベースにしたスマートフォンは、今までの日本のケータイに対して、今後どういった展開をしていくのか? PC同様スマートフォン専用のアプリケーションが充実して、スマートフォン市場が拡大して発展を遂げるのか?

 いずれにしても、従来型の日本のケータイが個々に健闘し、iPhone 3Gが台頭し、スマートフォンが加わった三つ巴の構図になった今、市場のバランスと先行きが見えにくくなってきています。

 これまで脈々と作られてきた日本のケータイ市場と歴史に対し、大きなインパクトを与えたことは事実です。ですが、いつの時代でも日本の技術がモノの進化に大きく関与し、貢献してきました。

 日本の技術者やビジネスマンが素晴らしいのは、日本人の特質として、圧倒的に強いトップランナーに対して、知恵と根性と技術でトップランナーを脅かし、ついには抜き去ってきた事例が多数あることは過去の歴史が裏付けています。

 それが、今回お話してきましたAppleIIやPC,ファミコンなどの事例だと思うのです。

 混沌としはじめた今のケータイ市場、そんな中だからこそ、僕は日本のエンジニアの皆さんに頑張ってほしいのです。

 エンジニアさんたち、皆さんのアイデアの切り札を出すのは今です! 僕でお役に立てることは最大限にさせていただきたいと思います。ちょっと大げさかもしれませんが、日本の、いや、世界のモバイル市場の今後のためにも、今一度団結して手腕を奮ってみませんか。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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