「自分の部屋で」「PCレスで」「安価に」楽しめる――KDDI 高橋誠氏が話す「au BOX」の狙い

» 2008年09月26日 15時09分 公開
[園部修,ITmedia]
Photo KDDI 取締役執行役員常務 コンシューマ事業統括本部長の高橋誠氏

 「auケータイのユーザーには、LISMOが使いたくても使えない人がたくさんいる。そこで考えたのが『au BOX』。テレビと接続するだけで、音楽と映像が楽しめる、ケータイ専用のアミューズメント・ボックスです」

 au BOXの発表会で、KDDIの取締役執行役員常務 コンシューマ事業統括本部長の高橋誠氏はこう切り出した。au BOXが持つ機能やコンセプトはすでに別記事に詳しいが、ここでは発表会で高橋氏が話した、KDDIがau BOXに込めた狙いを見てみよう。

PhotoPhoto テレビに接続するセットトップボックスタイプのデバイスとして提供する「au BOX」。リモコンはケータイ同様の操作がしやすいよう、テンキーを大きくしていたりする

自分専用のPCは持っていないが、テレビは持っている

 KDDIが自社で行ったマーケティング調査によると、自分専用のPCを持っている人は意外と少なく、全体の約43.5%にとどまるという。つまり過半数の人は自分が自由に使えるPCを持っていないので、LISMOなどが自由に使えないと分析する。対象者を高校生に限定すると、自分専用のPCを持たない人は約8割にも上る。一方で、自分の部屋にテレビがある人は、調査対象の82%。高校生に限定しても約8割は部屋にテレビを持っているという調査結果が出たそうだ。

 対象者や地域、人数などが明らかにされていない調査結果なので、鵜呑みにすることはできないものの、“PCは持っていないがテレビは持っている”世代が一定数存在するのは間違いないだろう。

Photo au BOXはケータイ専用のアミューズメント・ボックスという位置づけ
PhotoPhoto KDDIのマーケティング調査によると、自分専用のPCを持っている人は4割強で、過半数は自分専用のPCは持っていないことが分かったという。高校生に限定すると、PCを持っていない人は8割に上る。一方で、部屋にテレビがある人は多い。そこでテレビに接続するセットトップボックスという形態になったという

 こうした結果からKDDIが導き出した1つの回答が、「PCがなくてもLISMOが楽しめる『au BOX』」だ。auケータイのユーザーからは、「LISMOが使いたいけどやり方が分からない」「LISMO Videoは大画面のテレビで見たい」「PCもソニーのHDDコンポ『NETJUKE』も持っていないので、ネットカフェでLISMOを試そうと思ったがだめだった」といった意見が多数寄せられていると高橋氏。au BOXの投入で、現在は自分専用のPCを持つユーザーの中の一部にとどまっているLISMOユーザーを、自分専用PCを持たない人にも広げていきたい考えだ。

PhotoPhoto PCを持っていないユーザーに、手軽かつ簡単にLISMOを楽しんでもらう方法としてau BOXを提案する
Photo 音楽も映像も、au BOXがあれば簡単に、楽しく使えると訴求

単体でも使えるのがポイント

 au BOXは、auケータイさえ持っていれば、十分にその基本機能が楽しめるように作ったと高橋氏はいう。8割の人が自分の部屋に持っていると答えたテレビに接続すると、CDやDVDの再生ができるほか、CDから取り込んだ楽曲をauケータイやウォークマンに転送できる。また外部入力端子から取り込んだ映像も、auケータイに最適化して転送できるため、前日の夜に録画しておいたテレビドラマを翌朝通勤や通学の途中で見る、といったことも可能になるという。こうした“PCでやろうと思うと難しい作業”が手軽にできるのがau BOXの特徴だ。

Photo au BOXは、単体でテレビにつないでもLISMOの代わりとして十分活用できる

 とはいえ、au BOXは単なる高機能なCD/DVDプレーヤーではない。au one netでブロードバンドインターネット接続サービスも提供するKDDIだけに、インターネットに接続することでより多くの機能が楽しめるようになる。au BOXのターゲットユーザーは、なかなか自室にブロードバンド回線を引ける人は多くないと思われるが、接続が可能であれば、テレビを使ったWebブラウジングや、音楽配信サービス、映像配信サービスもau BOXから利用できる。接続する回線はau one netのものである必要はなく、どんなプロバイダーのどんな種類の回線でもいい。

Photo インターネットと接続する回線が用意できれば、さらにWebブラウズやLISMOの音楽配信サービス、映像配信サービスも使えるようになる

 それに加えて、KDDIが提供する光ファイバーサービスの「ひかりone」でTVサービスに契約すれば、40チャンネルの専門番組と約5000タイトルのビデオ・オン・デマンドコンテンツもau BOXで楽しめる。11月5日以降にひかりoneの契約を結んだユーザーには、従来のSTB(セットトップボックス)ではなく、au BOXが届けられることになる。既存のひかりoneユーザーにも、申し出があればSTBをau BOXに交換するという。

Photo ひかりoneに加入し、TVサービスを利用すれば、ビデオ・オン・デマンドや40チャンネルの専門番組も視聴可能

 「単体でも十分使えるが、利用環境に応じて用途が広がってくるデバイスだ」と高橋氏は自信を見せた。

 なお、前述のとおり自分の部屋にPCがないユーザーにとって、そこにインターネット接続回線を有線で用意するのはなかなか難しいと思われるが、それをある程度解消できる無線LANへの対応は「検討していく」とするにとどめた。無線LANが利用できれば、設置の自由度はさらに増すだけに、より魅力的になると考えられる。オプション機器を提供するなどの形での対応を望みたいところだ。

ケータイコンテンツを購入する感覚で使ってほしい

 au BOXは、レンタル形式で提供するのも特徴だ。初期費用として数千円を出してもらうのは、自分のPCを持っていないユーザーをターゲットにするには難しいと判断したようで、一般的なケータイコンテンツを1つ購入するのと同じ、月額315円で提供する。12カ月以内に解約すると、解約手数料が5250円かかるが、1年以上使うのであれば月額315円の負担だけで使い続けられる。

 「ターゲットは10代から30代の幅広いユーザー。特にPCに慣れていない方に使っていただきたいと思っている。コンテンツを購入するのと同じ利用感覚で、PCがなくてもLISMOが楽しめるのが大きな魅力だと思う」(高橋氏)

 au BOXは、auショップやEZwebから申し込みをすると、2〜3日で自宅に届くという。またADSL回線とのセット料金を用意。これを機にADSLを引こうというユーザーには、10Mbpsの「ADSL one 10」とau BOXを月額1575円で提供する。最大1Gbpsのベストエフォートサービス「ギガ得プラン」と組み合わせた場合も、2年契約ならネット接続のみで月額5460円、電話も込みなら5985円で利用可能とした。

 高橋氏は「基本的にはauケータイユーザー向けのサービスと考えてもらっていいが、au BOXの投入に合わせて、ひかりoneやADSL one、au one net ADSLに加入するというユーザーが増えることも期待したい」という。auブランドに衣替えして携帯電話との連携を深め、依然赤字が続く固定回線サービスをなんとか黒字化させたいという思いも垣間見えた。

非ネット接続環境でも楽しめる無料のDVDマガジン「U.」

 au BOXの発売に合わせて、au BOXにブロードバンド回線を接続できないユーザーを意識した新しい取り組み、無料DVDマガジン「U.」の配布も始める。こちらはエンタテインメント情報を収録したブックレットに、テレビで楽しめる映像、そしてケータイに転送できる着うたフルやビデオクリップなどのコンテンツを収録したDVDが1枚付属するもので、au BOXユーザーに隔月で配布するという。ケータイに転送したコンテンツは、ケータイ側でライセンスキーを取得することで再生可能になるため、au BOX自体に通信回線は必要ないのがポイントだ。

Photo 無料配布するDVDマガジン「U.」。au BOXユーザー限定で、11月、1月、3月、そして4月以降隔月で発行する
PhotoPhotoPhoto 冊子自体がエンタテインメント情報を掲載した雑誌のような体裁になっており、さらに付録のDVDにケータイに転送できる着うたフルやビデオクリップなどのコンテンツを収録。有料のものもケータイでライセンスを購入すれば視聴できる。またテレビに映して楽しめる映像コンテンツも入っている

 「今後、コンテンツはさまざまな形で流通するようになることは間違いない。そうなったときは、やはり今回のようなライセンスだけケータイで購入するようなモデルになるはず」(高橋氏)

 高橋氏は「これは実際にやるという話ではないが」と前置きしつつ、たとえばTrasfer Jetを使ってコンテンツの受け渡しをしたり、UQコミュニケーションズやメディアフロー企画が作ろうとしているネットワークを利用したコンテンツ配信なども考えられるといい、今後はケータイのパケット通信網を利用しないコンテンツ配信が普及することも視野に入れていることを示唆した。

 ただ会場で出た「今後はauのパケット通信網を使わないコンテンツ配信を目指していくのか」との質問には、「LTEや4Gといったネットワークになればまた違うと思うが、現状の(EV-DO Rev.Aの)ネットワークでは動画を流すにしても、最大1.5Mバイトのダウンロード容量制限があるので、ここでストリーミング動画を流すのはあまり現実的ではないと思う。『U.』はユーザーさんが使いやすいものを考えた結果提供するもので、今後コンテンツの配信方法をすべてをこうしていくというものではない」と高橋氏は答えた。


 「音楽と映像のauは、まず誰でも簡単にそれが体験できるアミューズメント・ボックスとして『au BOX』を発表しました。この後、音楽と映像に関係する第2弾、そして第3弾の取り組みも用意しています。順次発表していきますので、是非期待してください」(高橋氏)

 第1弾として、LISMOユーザーの裾野を広げ、コンテンツ販売を拡大する策を打ったKDDI。同社は秋冬商戦向けの新端末として、「URBANO」や「W64T」といったモデルをすでに発売しているが、毎年恒例の大規模な新端末発表会はまだ催していない。“失速”が指摘されている昨今だが、ケータイ冬の陣に、今度はどのような手を打ってくるのだろうか。

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