街頭カメラサービスを“反発なく”立ち上げるには――BWAユビキタスネット研

» 2008年10月15日 07時00分 公開
[日高彰,ITmedia]

 交通情報や防犯などに力を発揮する街頭カメラ。そのカメラを次世代PHSの基地局工事と同時に設置し、カメラの全国ネットワークを構築しようというのが、ウィルコムらが発起人となって立ち上げた「BWAユビキタスネットワーク研究会」だ。

 しかし、公共空間を撮影するカメラや、その画像を利用したサービスに対する人々の不安感は根強い。それは、10月9日にも、Googleマップの「ストリートビュー」に代表されるサービスについて法規制検討を求める意見書が町田市議会で採択されたことからもうかがえる。

 同研究会が10日に開いた講演会でも、ストリートビューの動向が話題に上り、研究会事務局のクロサカタツヤ氏が研究会周辺で挙がっているさまざまな意見を説明。また、街頭カメラが地域の人々に受け入れられた「街角見守りセンサーシステム」の事例を、パナソニック システムソリューションズの栗原紹弘氏が紹介した。

ストリートビューに対する人々の反応は

Photo BWAユビキタスネットワーク研究会事務局のクロサカタツヤ氏

 研究会事務局のクロサカタツヤ氏は、街頭カメラとプライバシーに関する事例研究として、ストリートビューに対する人々の反応と、今後の検討課題をまとめた。

 なお、ストリートビューに対してはさまざまな意見や見方が出ており、この日のプレゼンテーションにも同サービスに対してネガティブな内容が含まれている。しかし研究会として同サービスを批判する意図はない旨が明言されていたことを付け加えておきたい。

 クロサカ氏はストリートビューに対する反応は、(1)「面白い、さすがGoogle」「便利なものは受け入れられる」といった“楽観系” (2)「Googleに文句をいっても仕方ない」「サービスは止められない」「いつかは出てくるもの」といった“諦観(あきらめ)系” (3)プライバシーの侵害を不安視する“懸念系”に分類できると説明。全体的には“懸念系”の意見が目立つ傾向にあるという。ただし、一般的に肯定よりも否定的な意見のほうが世に出やすいものであり、ストリートビューを否定的に考えている人のほうが多いかどうかは分からないとした。

 否定的な意見を見てみると、事前の通告なく撮影される、カメラの位置が高く塀の内側まで写されることがある、撮影対象エリアが恣意的に決められているのではないかといった不信感など、画像データの取得にまつわる懸念が目立つ。加えて、顔などへのマスキングが不十分、マスキングするのは顔とナンバープレートだけで良いのか――といったデータの後処理の問題や、画像を消してほしいという意思表明(オプトアウト)をしたくても手続きが分かりにくい、プライバシーが含まれる情報で勝手にビジネスを展開していいのかといった、サービスの運営面に対する懸念も挙がっている。

 しかし、こうした否定的な意見を読み解くことで、“街頭カメラを使ったサービスを人々に受け入れてもらうための要点”が見えてくる。

 まず、画像の撮影とサービス提供については、その目的が“明確か不明確か”が大きなポイントになる。何の目的かが分からないまま画像を撮られ、それが後になって突然公開されると、撮られた人は不信感や反感を抱く可能性が高くなる。また、ストリートビューが“何を目的としたサービスなのか”が判然としないことも、不安を増幅している可能性がある。

 「“この画像は、この目的のためにこのような手段で撮影した”という情報が正しく伝えられていれば、それほど大きな批判を招くことはないのではないか」(クロサカ氏)

 しかし、ストリートビューのようなサービスでは、沿道の人々すべてから事前に了解を得るのは現実的ではない。これについてクロサカ氏は、日本国内で同様のサービスのために走行撮影をしている他社のケースを紹介した。そのサービスでは、撮影用の車両に“サービス用の画像を撮影する車である”と掲示をしているとし、「今後は少なくともこうした取り組みが求められる」との見方を示した。

 この種のサービスの問題は、これにとどまらない。例えばサービスの提供に当たっては、ユーザーとのコミュニケーションの機会を十分に設け、「何かあったらいつでも言ってください」という誠実な姿勢を明確にすることも重要だ。しかし、これも“ただ苦情窓口を作ればいい”というものではなく、きめ細かい対応が求められることから、実現には多大なコストがかかると予想される。加えて“まずはサービスを開始し、問題点はクレームに応じて修正する”というオプトアウト型のサービス提供が、「そもそも日本になじまないのではないか」という指摘もある。さらに、日本の法律にはプライバシーや肖像権を規定する明文はなく、法の解釈や判例にも揺らぎが見られるなど、法制度の整備が不足しているとの声も挙がっている。

 しかし、クロサカ氏は「本当の課題は法制度ではない」と話す。日本のビジネス文化では、法的には問題がなかったとしても、“自社のサービスに対して訴えを起こされること”自体が、社会から“叩かれる”きっかけになりかねない。また、“社会的信頼度が高い”と思われている携帯電話事業者が、ストリートビューのようなある意味で危うい部分を持つサービスには手を出しにくくなっているという側面もある。

 法制度以前に「社会から行儀が悪いと思われてはビジネスとしてはアウト」(クロサカ氏)であり、ユーザーから“気持ち悪い”と思われないサービスに仕上げることが重要というわけだ。

Photo 日本の企業文化では「法的争いが発生した時点で負け」。クロサカ氏は、課題の本質は法制度の外側にあると話す

プライバシーと利便性をバランスさせた「街角見守りセンサーシステム」

Photo パナソニック システムソリューションズの栗原紹弘氏

 研究会では、プライバシーポリシーの策定とその維持やメンテナンス、エンドユーザーや社会全体とのコミュニケーションをどのように深めていくか、といったそれぞれの課題について今後検討を重ねるとしており、その参考事例としてパナソニックの「街角見守りセンサーシステム」を紹介。同社システムソリューションズ・先行技術センターの栗原紹弘氏がサービスの概要を説明した。

 このシステムは、同社が総務省の研究プロジェクト「ユビキタスセンサーネットワーク技術に関する研究開発」を受託して開発され、2カ所での実証実験と4カ所での導入実績がある。

 システムは、小学生の登下校経路に設置するネットワークカメラと、児童本人が携帯するRFIDタグから構成され、児童がカメラの近くを通過すると、保護者は撮影された児童の姿を携帯電話やPCの画面で確認できる。通過時刻に加え、画像も記録することで、本当に自分の子供が無事に登下校しているということを確認でき、保護者がより大きな安心感を得られるのがメリットだ。

Photo タグを持つ児童がカメラの前を通過すると、保護者の携帯電話に画像が送信される

 最初に行われた大阪市内での実証実験(2006年)では、通学路上の9カ所と学校の計10カ所にカメラを設置。電源を確保するため、通学路上のカメラは自動販売機の上を設置場所とした。カメラは児童の持つタグが近づいたときだけ撮影を行うが、地域住民の一部からは「監視されているような気がする」という意見も寄せられ、カメラが付いた自販機の売り上げが落ちるといった現象も実際に起こったという。

 しかし、登下校時に子供の姿を確認できるというサービス自体は好評で、実験終了後に行ったアンケートでは、このシステムの継続設置について、保護者の71%が「非常に思う」、18%が「やや(継続してほしいと)思う」と回答し、近隣校区からも「いつほかの地域にも展開するのか」という問い合わせが寄せられたという。

Photo サービスの必要性、継続設置の意向とも、ポジティブな回答が不要とする回答を大きく上回った

 2回目に行われた青森県弘前市での実証実験(2007年)では、児童を撮影するカメラは学校の1台だけとし、到着・出発時の画像を保護者に通知。実験後に行った、カメラの設置場所に関するアンケートでは、「実験と同じように校門だけで良い」と回答した保護者が29%だったのに対し、「通学路上にもほしい」との回答が53%、「通学路上に加えて公園など子供が寄り道する先にも設置してほしい」という回答が15%と、およそ3分の2の保護者が街頭カメラの設置を望んでいることが分かった。また、「子供の画像を他の保護者に見られることへの不安があるか」「画像の撮影自体に抵抗があるか」という問いに対しても、4分の3以上の保護者が「不安なし」「抵抗感なし」と答えている。

Photo 学校だけでなく、街頭カメラの設置を求める声も多い

 その後の導入先でも、導入時には一定の反発が必ずあるものの、サービスを目の当たりにすると「猛反対していた方も年度が変わればこっそり参加している」(栗原氏)ことが多いという。

 子供のこととなると親は弱いという事情はあるが、この事例は、街頭カメラによる撮影自体は必ずしも非難を浴びる行為ではなく、ユーザーや地域の人々の理解が進めば反発も小さくなる可能性があることを示している。

Photo 牧野総合法律事務所の牧野二郎氏

 研究会で審議委員・法律顧問を務める弁護士の牧野二郎氏は、街角見守りセンサーシステムが多くの人に受け入れられた理由について「目的が明確」「見ている人の範囲が地域の人々で、情報が拡散していない」「有益性が明確」「(パナソニックという)有名企業が献身的にやっている」といった点が評価されたと分析。街頭カメラは使い方によって益にも害にもなるが「目的・利用者・効果を明確にし、理解を広げていくことで、危険な方向ではなく、有効な方向にカメラを使うよう進めていけるのではないか」(牧野氏)という見方を示した。

 公共空間に入り込んでくるカメラというと、とかく「監視社会」のイメージがつきまとい、実際、そうした一面を持っていることも事実だ。しかし、街角からカメラを排除するのはすでに不可能であり、こうしている間にも画像の取得や配布を行うための技術は急速に進化している。

 街頭カメラを利用したサービスについては、メリット・デメリットの間のどこかでバランスをとり、現実的な着地点を見つけなければならない時期に来ており、今回の議論を踏まえると、特に日本においては、ポリシーの策定だけでなく社会的なコンセンサスを得ようとする努力が、サービス主体側に強く求められていくものと考えられる。

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