UI統合、オープンソース化でSymbianはさらにパワフルに――英Symbianのウッド氏Smartphone Show 2008

» 2008年11月14日 21時10分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo 英Symbian 調査担当副社長のデビッド・ウッド氏

 この6月、非営利団体Symbian Foundationを設立し、携帯電話向けプラットフォームをオープンソースで提供することを発表した英Symbian。同Foundationが公開する携帯電話向けプラットフォームは、S60、UIQMOAPの3種類のSymbian向けユーザーインタフェースを統合することが決まっている。

 新たな携帯電話向けプラットフォームの強みやUI統合の狙い、競合他社に対する優位性について、英Symbian 調査担当副社長のデビッド・ウッド氏に聞いた。

ITmedia(聞き手:末岡洋子) 今回のイベントでは開発者の拡大を目指すという方向性を強くアピールしているように見受けられました。開発者向けの戦略について教えてください。

デビッド・ウッド氏 開発者向けの戦略で最も重要なのは、オープンソース化です。ソースコードを公開することで、開発者は容易にSymbianソフトウェアの開発を手がけられるようになります。

 まだSymbian向けアプリの開発を手がけていない優秀な開発者が世界中にいます。この人たちに、Symbian向けソフトウェアの開発を楽しんでもらいたいと思っています。

 オープンアクセスのほか、開発ツールの改善にもフォーカスしています。ツールについては、この2年間、かなりの改良を加えました。参照すべき技術仕様書や開発の助けになる文書なども増やしています。

ITmedia 現在、Symbian開発者はどのくらいいるのでしょうか。

ウッド氏 Symbian向けソフトウェアの開発に興味を持つ開発者は400万人と見積もっています。S60などの開発コミュニティとして知られるForum Nokiaは360万人の会員を擁し、Symbianの開発者サイト「Symbian Developer Network」の月間ビジター数は約15万人。これにJavaやFlashのプログラマーを入れた数です。

 ここで重要なのは、開発に興味を持っている人を、“いかに実際の開発に引き入れるか”です。

ITmedia 開発者にとって、Symbian向けソフトウェアを開発するメリットは。

ウッド氏 1つは市場規模です。2007年にはSymbian OSを搭載した携帯電話は世界で7700万台の出荷実績があり、これは大きな顧客基盤だといえるでしょう。売り上げと知名度の両方で強みを持つ点が、開発者の可能性を広げます。

 もう1つは、“プラットフォームが刺激的で楽しいか、自分の要求を満たすか”という点です。多くの開発者が、Symbianは多機能でさまざまな挑戦ができると評価しています。

 例えばソフトウェアの中には、バックグラウンドでアプリケーションが動かないようにするところがあります。バックグラウンドとやり取りしようとすると無効化されてしまったりします。Symbianでは、アプリケーションはバックグラウンドで動きます。つまり、多機能、高機能なアプリケーションを開発できるということです。

ITmedia AppleやGoogleが提供するアプリケーションマーケットのようなものをSymbianが展開する計画はありますか。

ウッド氏 Symbianにもマーケットの機能はありましたが、それほどよいものとはいえませんでした。Appleは、アプリケーションマーケットの重要性を示したといえるでしょう。われわれも、アプリケーションを流通し、提供する場を改善する計画です。これについては、今後、計画を発表します。

ITmedia 同じオープンソース戦略をとるGoogleのAndroidを、どう評価していますか。

ウッド氏 私はGoogleを高く評価していますが、Androidには実績がなく、十分検証されたコードとはいえません。Symbianには10年の経験があり、安定性の面でも定評があります。経験と実績に裏打ちされたOSであるという点で、われわれは圧倒的にリードしています。

 オープンソース化は重要ですが、オープンソース=いいプラットフォームというわけではありません。

 Symbianは7社の携帯電話メーカーが搭載機を提供しており、世界の通信キャリアのネットワークで利用できます。こうした観点から見ると、Androidはまだ先が長いと思います。

ITmedia Symbian FoundationのUI統合計画について教えてください。

ウッド氏 S60が土台となり、Symbian Foundationのプラットフォームは、現在のS60とバイナリレベルの互換性を保ちます。UIQとMOAPのエレメントはニーズがあれば利用できますが、現在のUIQやMOAPベースの端末との互換性はありません。

 S60、UIQ、MOAPのすべての互換性を保つのは不可能なことから、シェアの多いS60を土台として選んだわけです。Sony Ericsson(UIQ Technologyの親会社)もNTTドコモ(MOAP)も、この方針に賛同しています。

 MOAPのいくつかの特徴はオペレーターのパッケージとして提供できると思います。S60をフレームワークとし、追加でオペレータのパッケージを載せるようなイメージです。

 統合で得られるメリットはいくつかあります。例えばこれまでSymbian OSのUIは、S60、UIQ、MOAPと制限がありましたが、統合することで柔軟性が増します。アプリケーションの開発者はこれまで、1つのUIに向けてソフトウェアを開発し、それを別のUI向けに翻訳する必要がありましたが、この作業の必要がなくなります。

 UIが統合されても、選択肢がなくなるわけではありません。プログラミングインタフェースは同じですが、差別化と技術革新の余地は十分にあり、実際に携帯電話に載るとかなり異なるものに見えるでしょう。

ITmedia クロスプラットフォーム対応の開発フレームワーク「Qt」がS60向けに移植されました。これはプラットフォーム戦略にどのような影響を与えると予想しますか。

ウッド氏 Qtは高度なグラフィック環境を特徴とし、Linux端末などでよく利用されています。Qtの開発者は多く、QtがS60に移植されることで、Symbianを知らないQt開発者でもSymbian向けにアプリケーションを開発できるようになります。

ITmedia スマートフォンが普及すると、マルウェアなどセキュリティに対する懸念は大きくなると考えられますが、これにはどう対応しますか。

ウッド氏 携帯電話のマルウェアがあまり発生していないのは、プラットフォームの安全性が高いからです。危険な機能を認識し、それが実行されないように設計されています。

 例えるなら、“庭師が庭に入るのは構わないが、寝室に入ってくるのは困る”といったことを、プラットフォームのセキュリティ機能が認識するというイメージです。われわれはこれまで、ハイレベルな安全性を保ってきたと自負しており、今後も注意していきます。

ITmedia モバイル向けサービスの多様化で、プライバシー保護に対する懸念も高まっています。

ウッド氏 ユーザーは、誰が自分の情報を知っているかを把握したいと思っており、その意味でもプライバシーの保護は重要なトピックといえるでしょう。

 しかしこれは複雑な作業で、ユーザーに分かりやすいインタフェースを提供するには数年かかると思います。Symbianでは現在、他の企業とも協業して開発を進めています。

 一方で、ユーザーが自分の情報を公開することにオープンになっている傾向も見受けられます。Facebookなどでは、若い人々が自分に関するさまざまな情報を公開しています。

 重要なのは、ユーザーが携帯電話を信頼することです。携帯電話が自分の情報を公開するときは、自分のためになるから、と信用できればいいと思います。

ITmedia 今後、スマートフォンはどのように進化すると予測していますか。

ウッド氏 カメラとナレッジの連携のような、現実世界とデジタルで提供される情報の組み合わが可能になるでしょう。人の顔をカメラがとらえると、“いつ、どこで会った誰”だと教えてくれるようなことが実現するかもしれません。

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