iPhone 3G、スマートフォンそしてMVNO──2009年注目のキーワードは2008年の通信業界を振り返る(4)(1/4 ページ)

» 2009年01月05日 07時00分 公開
[房野麻子, あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムのこれまでとこれからについて各者が持論を展開したほか、第3回では新販売方式や端末メーカーへの提言なども飛び出した「2008年の通信業界を振り返る」企画。

 第4回目は2008年にもっとも注目を集めた「iPhone 3G」の評価やWindows Mobile端末をはじめとするiPhone 3G以外のスマートフォン、そしてこれからさまざまな動きがあると予想されるMVNOや2009年のキーワードをジャーナリストの石川温氏と神尾寿氏に聞いた。

PhotoPhoto ジャーナリストの石川温氏(左)と神尾寿氏(右)

「iPhone 3G」の本当の評価は、まだこれから

ITmedia 2008年の通信業界でもっとも大きな話題になったのは、やはりアップルが満を持して発表し、海外と同じタイミングでソフトバンクモバイルからリリースされたiPhone 3Gだと思います。このiPhone 3Gの日本での発売は、当初は“お祭り騒ぎ”になりましたが、その後は「失速」といった報道も流れたりしました。このiPhone 3Gについて、ざっくばらんに感想を話していただけますか。

 iPhone 3Gは、タッチパネルなどのデバイス自体は先進的というわけではありませんが、スマートフォンの新しいカタチを提示したものと言えるのではないでしょうか。でも一般のケータイユーザーにはあまり注目されていないというか、冷静に受け止めているようにも思えます。

神尾寿氏(以下敬称略) 今までのスマートフォンユーザーからは考えられない人たちが使っている。その点では大きな飛躍だと言えるでしょう。

石川温氏(以下敬称略) かつてのスマートフォンに比べれば、圧倒的に認知されているし、ユーザーも付いてきているということを考えると、功績はしっかりありますが、やっぱり一般端末に比べると、まだ弱いなあということだと思います。現状では2台目端末としてベストなのかな、と思っているんですが

神尾 弱いというのは、何が弱いですか?

石川 そうですねえ……。やっぱり日本人は保守的なんでしょう。新しいものを喜んで使うイノベーターの数が限られている、という気がします。

神尾 なるほど。私はiPhone 3Gに関しては、”いい滑り出し”だと思っているんです。発売当初に一般のマスメディアまで巻き込んで騒ぎすぎたから、おかしなことになりました。日本でのマーケティングは着々といい形で進んでいる、というのが私の評価です。iPhone 3G用のアプリも増えて、ダウンロード数が1億回を超えましたし、ユーザーも一般の高感度な人たちに広がりつつあると思います。

 実際、青山や原宿、渋谷あたりに行くと、iPhone 3Gを使っている人たちをよく見かけますよ。しかも初期のiPodユーザーに近い、テクノロジーだけでなく、音楽やファッションなど文化的に高感度な人たちが(iPhone 3G)ユーザーとして増えています。だから、この1、2年くらいで成長させるプロダクトとしては、非常に順調に推移していると思います。

 さらにiPhoneは、今後の携帯電話で何を見直さなくてはいけないのかと考える際に、いい刺激を我々に与えてくれました。先ほどのタッチパネルの話ではないですが、「今までの携帯電話って本当に使いやすかったの?」「今までのメールって本当によかったの?」「フルブラウザはどうなの?」ということを考えさせてくれます。私もiPhone 3Gが携帯電話として完璧だとは思っていないのですが、iPhone 3Gというのは未来のモバイルやコンピューティングの在り方に対する「テーゼ(命題)」なんです。そこに意義があると思います。

 ただ、いかんせん、1キャリアだけで出していると限界もあるので、そろそろ来年には、もう1キャリアから出してほしいという気持ちは、正直なところあります。

石川 そうそう。

神尾 1キャリアだと、iPhone 3Gのポテンシャルが出しきれないんですよ。iPhone 3Gというのは、未来に対するテーゼであり、そのコンセプトは社会実験的な意味合いを持っています。ですから、キャリア1社でiPhone 3Gの可能性を試すフィールドを限定してしまうのは、とてももったいないと思います。ですから、もう1社、具体的に言えばドコモからもiPhone 3Gを出してほしいです。そうすると普及のポテンシャルが広がってきて、iPhone 3Gのコンセプトが「日本の市場や文化的素地の中でどのように反応するのか」を、よく見ることができると思います。

 あと、石川さんは日本のユーザーが保守的だとおっしゃいましたが、私は保守的とも違うと思うんですよ。日本の市場といいますか日本社会というのは、特定のコミュニティ内での同調圧力が強いので、あるしきい値まではみんな動かないのですけど、そこを超えると一気に動くんですね。その典型例が、日本でのiPodの広がりです。iPodの発売当時、ポータブルオーディオはソニーのウォークマンが中心でMDの全盛期だった。ですからiPodにとっては攻略が難しい市場だったわけですが、発売から3年で普及の分水嶺を超えたら、一気に普及したわけです。日本市場はコンサバティブではなくて、けっこう柔軟性が高いのです。ただ、集団内での同調圧力が機能し始めるまでが、コンサバティブに見えるだけです。ですから、iPhone 3Gが日本でまったくダメだとは思わないですね。

 逆に日本のメーカーは、今のリードタイムで、いったい何をやっているんだよと、その不甲斐なさを感じます。iPhone 3Gが本格的に日本市場で影響を及ぼすにしても、1年から1年半のリードタイムがあるわけです。その間に、日本メーカーは得意のキャッチアップ能力を生かして、なぜもっと多くをiPhone 3Gから学ばないのか、と思います。シャープなどはタッチパネルをがんばって学んで、独自性も出そうとしています。それはすごく評価していますけれど、一部のメーカー幹部や関係者は、iPhone 3Gの粗探しをして批判をするだけで、積極的にその思想や哲学を「取り込もう」としていません。保守的なのは、メーカーの関係者だと思うんですよ。

石川 ただ、メーカーの人に話を聞くと、米国で初代iPhoneが出た2007年夏くらいまでは、国内メーカーの開発担当者はタッチパネルを否定していたし、日本はやっぱりテンキーだろうという話がありました。そんな中、逆にこの冬商戦に向けて国内メーカーがタッチパネルをやり始めたときには、やっぱりiPhoneのすごさを実感することになりました。だからこそiPhoneに負けないようなタッチパネルを作りたいというメーカー関係者もいるんですよ。そうなってくると、今後の日本メーカーが作るタッチパネルケータイは面白いのかなと期待しています。

 iPhone 3Gを振り返るにあたって、ブームを作り過ぎたという点は、我々メディアだけでなく、ソフトバンクモバイルにしてもアップルにしても、裏で動いている代理店にしても、反省すべきだったと思います。あまりにブームだったために、それに乗り遅れた人たちが「もういいか」みたいな気持ちになるところが、正直あったのかなと思っています。本当はiPhone 3Gはゆっくりゆっくりと売れていくであろうはずだったのが、ブームを作り過ぎたために急激に売れて、急激に失速した。それともう1つ、割賦販売制度によって、欲しくても買えない人がいたというのは、非常に残念だったと思います。

 神尾さんの考えと同じように、もう1つのキャリアから出ると、また大きなステップになると思いますね。現状の台数は、明らかにはされていませんが、ソフトバンクモバイルが1社で売る限界なんだろうなと感じています。土台がソフトバンクモバイルという第3のキャリアだったからこそ、台数が出なかったという部分があると思います。ソフトバンクモバイルの中で見たら、この台数は十分に売れたと評価していい数字でしょうし。米国でも初代iPhoneは1年間売ってきたわけですし、iPhone 3Gもあと半年以上売るという中で、どれだけ販売数を伸ばせるのかは興味深いところです。

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