進化を続けるモバイル向けUIの最前線──シリコンバレーで見た未来(前編)(2/3 ページ)

» 2009年02月13日 09時00分 公開
[小林雅一(KDDI総研),ITmedia]

ソフトウェアキーボード上での正確で速い文字入力技術

 手のひらサイズのモバイルコンピュータで、ノートPCに匹敵する情報処理を快適に実現するためには、文字入力の方式も重要なカギとなる。例えばiPhoneのソフトウェアキーボードでは、指先で間違ったキーに触れてしまうことがままあり、文字を入力するのに手間取ってしまう。これに対しStantumの試作機では、抵抗膜(resistive)方式のタッチパネルを採用し、それとスタイラスペンによる手書き入力を組み合わせることで対処しようとしている。

 iPhoneが採用した静電容量(capacitive)方式のタッチパネルは、原理的に静電気を帯びた人間の身体、事実上は“指先”でしか操作ができない。これに対し、抵抗膜方式のタッチパネルはとがったペン先や指の爪で反応するので、より高精度の情報入力が可能とされる。抵抗膜方式はすでに、ニンテンドーDSやWindows Mobile端末などで採用されており、現時点では、むしろ静電容量方式よりも普及している。しかし静電容量方式に比べ、耐久性や耐傷性、そして透明性で劣るとともに、ペン先でタッチパネルを押したときに、フニャリと柔らかく沈み込む感触が、透明・硬質でツンと取り澄ましたデザインのiPhoneに比べ、ややチープな印象を与えてしまう。

 こうしたハードウエア面の課題を抱えているものの、モバイル端末におけるペン入力への期待は高まっている。実際、ニンテンドーDSの世界的ヒットによって、ペン入力への親近感は急速に増しつつある。またチームラボ代表取締役社長の猪子寿之氏は、特に若い女性の間でペン入力への需要があると見ている。

 「彼女たちに、『プリクラ(写真シール)とデコメールとどっちがいいか?』と尋ねると、ほぼ全員が『手書きができるプリクラがいい』と答える。だから単にプリクラ感覚でコメントが書けて、それをメールに貼り付けて送れる、といった初歩的な機能でもウケると思う」(猪子氏)

 こうしたサービスは、シャープが「手描きチャット」としてすでに開発しており、ウィルコムの「WILLCOM 03」と「Advanced/W-ZERO3[es]」では2008年11月から利用可能になっている。

 しかし手書き入力を本格的な情報入力の手段とするには、手書きの文字を正確に文字として認識する技術が必要だ。この精度は、すでに商品化に耐えるレベルに達しているが、問題は入力のスピードだ。どれほど技術が向上しても、手で文章を書く速度はキーボードからタイプする場合よりも劣る。かと言って、タッチパネル上のソフトウェアキーボードでは、従来の機械式キーボードのように間違えずに素早くタイプするのは難しい。

 こうした状況を打開するために開発されたのが、「ShapeWriter」と呼ばれるアプリケーションである。これはもともと、米IBMのアルマーデン研究所(Almaden Research Center)で生まれた技術だが、その後ShapeWriterという別会社に移管され、そこで商品化されている。まずは、そのデモをご覧いただこう。


 ShapeWriterは、ソフトウェアキーボードの上で一種の一筆書きによる速記入力を実現したものだ。ユーザーが単語、あるいは文節を構成する一連のキー(文字列)をなぞると、その形状をソフトが認識して、それに該当する単語を表示する(図1)。もちろん、ときには誤って、隣にあるキーをなぞってしまうこともある。しかしiPhoneのように、キーを個別にタッチするのではなく、複数のキーを一筆書きでなぞる際の「形状(Shape)」をパターン化してデータベースとして持っているので、もしも間違ったキーをなぞっても、「全体の形」によって、ユーザーが本来意図した単語を認識できるという。また同じ形でも、いくつかの異なる単語は存在するが、その場合には、複数の候補を表示して、その中からユーザーが単語を選ぶ仕組みになっている。

Photo 「ShapeWriter」が認識する形状と認識する単語(上のスライドは専用キーボードのものだが、QWERTYキーボードに対応したものもある)

 先に紹介した映像は、筆者がアルマーデン研究所で実際にShapeWriterを使ってみたときの様子である。正直に言って、慣れないせいか非常に操作しにくかった。しかしShapeWriterを開発した、アルマーデン研究所のシューミン・ツァイ(Shumin Zhai)博士によれば、習熟度を示す曲線は練習時間に応じて急激な上昇カーブを描くという。

 「我々がランダムに選んだ10人の被験者で実験を行ったところ、1回目のテストでは平均で毎分15単語しか書けなかった。しかしテストの合間に40分間の練習時間を挟んで、4回のテストを実施したところ、4回目には毎分50単語も書けるようになった。これは手書き文字入力よりも格段に速い」(ツァイ博士)

 ShapeWriterは、すでにiPhone向けに製品化され、App Storeから無料でダウンロードできるので、iPhoneやiPod touchで試してみることができる。現在は英語版のみだが、中国語や日本語を始め多言語対応への取り組みも開始されているという。

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