ワンセグ+ケータイで新たなビジネスモデルを――ドコモと東海ブロック局の取り組み

» 2009年03月05日 07時00分 公開
[Sho INOUE(K-MAX),ITmedia]

 2006年4月のサービス開始以来、ワンセグは搭載端末の数を順調に伸ばしている。中でもワンセグ対応の携帯電話は、電子情報技術産業協会(JEITA)によると2008年末のワンセグ対応端末の累計出荷台数が約5000万近くとその伸びが顕著で、各キャリアから登場する新モデルもほとんどがワンセグを搭載するようになった。

 ワンセグケータイの魅力は、単にモバイル環境でテレビを視聴できるだけでなく、ユーザーにとって有意義な付加情報を配信するインフラにもなり得るところにある。地上デジタル放送の特徴でもあるデータ放送と、ケータイが従来から提供してきたパケット通信を連携させたサービスなど、そこには放送と通信の連携を生かしたビジネスの可能性が秘められている。

 ワンセグは、開始から2008年まではフルセグ放送と同じ内容を流すサイマル放送が義務づけられていた。しかし現在は、法改正でワンセグ独自の番組を放送することが可能になり、一部の放送局ではプロ野球のナイターを試合終了まで放送したり、ケータイユーザーをターゲットにした内容の情報番組を流すなど、ワンセグならではの番組作りに取り組み始めている。しかし、こうした独自編成の番組を作るにはコストがかかり、ワンセグという仕組みを生かした新たなビジネスの創出が不可欠になってくる。この新たな連携ビジネスの開拓に乗り出したのが、NTTドコモ東海支社と名古屋を拠点とする東海地方の民間放送局だ。

Photo ワンセグを視聴するだけでトルカが自動で端末に保存される(左)。トルカ自動取得の画面遷移(右)

 ドコモ東海と東海テレビは1月18日から2月16日にかけて、番組をワンセグで見るとトルカを自動で取得できるキャンペーンを展開。東海テレビ制作の「わんだほ」(毎週月曜日午後7時55分放映)、「スタイルプラス」(毎週日曜日昼放送)、「コピッて!」(毎週金曜日深夜)の3番組をトルカ対応のワンセグケータイで試聴すると、キャンペーンに協賛する飲食店や遊戯施設、東海テレビでの通販サイトで使えるクーポンなどが入手できた。

 同様のキャンペーンは、2月10日から3月10日まで名古屋テレビ(メ〜テレ)でも実施しており、隔週火曜日深夜に放送している同局制作の「BOMBER-E」をトルカ対応のワンセグケータイで試聴すると、番組内で紹介した着うたを無料でダウンロードできるトルカが入手できる。

 これまでにも、さまざまなサービスプロバイダがデータ放送を経由してケータイ向けにクーポンを配信するキャンペーンを行っているが、そこには課題もあった。例えばクーポンを取得するには、まずワンセグのデータ放送を表示させ、さらにそこから取得のための操作をする必要があり、手軽に入手できるとは言い難かった。今回のキャンペーンでは放送波にケータイクーポンのデータを乗せているため、対応機種で“視聴するだけ”でクーポンを手に入れることができる。何ら操作をする必要はなく、キャンペーンやクーポンの存在を知らない視聴者にもリーチできるのが大きな特徴だ。

ワンセグ活用に欠かせないデータ放送

Photo コモ東海支社 ビジネス事業本部 ビジネス企画部 新規事業戦略担当の吉田岳人氏

 ドコモ東海支社 ビジネス事業本部 ビジネス企画部 新規事業戦略担当の吉田岳人氏は、トルカを自動で取得する仕組みを利用した理由について、ワンセグのデータ放送を利用するユーザーが少ないことを挙げる。

 確かに、携帯電話におけるワンセグのデータ放送は縦画面で見ることが前提で、横向きの全画面に切り替えると、データ放送部分が消えてしまうことが多い。そして、データ放送で配信されるトルカにアクセスしようとすると、少し煩雑な操作をしなければならない。こうした操作をユーザーに強いるのでは、サービスがなかなか普及しないと考えたことから、ドコモ東海支社と中京広域圏をエリアとするテレビ局が放送波を通して自動的にトルカを配信するという実証実験を開始したという。

 「(今回のキャンペーンでは)トルカ対応のワンセグケータイであれば、横画面で見ているユーザーにも情報を取得してもらえます。今まで情報が届かなかったユーザーにも、番組で紹介したお店の情報などをトルカで配信できるのです」(吉田氏)。これなら、今までのデータ放送経由のトルカ取得で課題になっていた点を、ある程度解消できる。

 ドコモ東海支社 ビジネス事業本部 ビジネス企画部 新規事業戦略担当 課長の沖野直氏は、「現在は“実証実験半分、メリット提供半分”という位置付け」で、ビジネスの可能性を探っていると話す。“番組を視聴するだけでクーポンをもらえる”というメリットを、広告メディアにどのような形で生かすことができるのかを模索している段階だが、「新しいビジネスになる期待は大きい」と自信を見せた。

 「新たな広告ビジネスへの発展が期待できる」と話すのは、NTTドコモ フロンティアサービス部 新事業アライアンス 提携推進担当 主査の木下智彦氏だ。

 「ドコモの目的は、放送波を使ってトルカを配信することではなく、生活インフラの中でユーザーが“ケータイ”を使うシーンを広げること。トルカは、決済端末などにかざして取得する方法と、iモードを使って取得する方法がありますが、放送波を使えば取得するシーンが一気に増えます。テレビ局も新たな広告手法を模索しており、今回のキャンペーンは互いの利点がかみ合って実現したもの。携帯クーポンを活用するという面では、他キャリアとの連携も歓迎です」(木下氏)

 では、このキャンペーンの効果はどれくらいなのだろうか。放送波を使う性質上、どれだけの端末にトルカが配信されたかは分かりづらい。現在、ドコモ全体で約1600万台のワンセグ受信対応端末が普及している。「東海地区はそのうちの10分の1程度の規模。トルカの自動配信に対応した端末は、そのさらに4分の1程度」(吉田氏)と、対応端末の数は限られている。

 しかし、1月18日に放送された『スタイルプラス』を見てクーポンを取得したユーザーの数は、アクセスログベースでトルカ自動配信対応端末が(非対応端末の)4倍くらいあったという。このことから、従来のデータ放送よりもかなりの効果が見込めることが分かる。

ケータイ+ワンセグから新ビジネスが生まれる

 こうした取り組みが東海地区から始まった背景には、東京にあるキー局と札幌・名古屋・大阪・福岡にあるブロック局(準キー局)、そしてローカル局からなるテレビ業界特有の事情がある。

 NTTドコモフロンティアサービス部 新事業アライアンス 提携推進担当課長の中山賢二氏は、「ローカル局の中にもデータ放送を自前で制作できる局と、キー局のシステムをテンプレートとしてそのまま使っている局があります。中規模のブロック局が集中する東海地区は比較的自由に(データ放送コンテンツを)作れる環境にあり、その中で積極的にワンセグをビジネスとしてやっていきたいという意向があります。それが、今回の話につながりました」と説明する。

 吉田氏も、「どの民放局も、地上デジタル放送のデータ放送を使って新しいビジネスモデルを作り上げたいという思いは強く持っています。“ワンセグでスポンサー企業のクーポンを配信する”という提案に、興味を持たない放送局はありません。今回も、どちらから、と言うことなく話が進みました」と、テレビ局としても求められている取り組みであることを強調した。

 コンテンツの制作能力では群を抜く在京キー局が、日本全国を対象にワンセグでトルカを配信する日も来るのだろうか。

 「今回のような取り組みをする場合、どのテレビ局と組もうとも技術的な問題はありません。しかし、地方には複数のキー局の番組を1つのチャンネルで流しているクロスネット局があったり、全国同時放送の番組でも地域によって開始時間や終了時間が違ったり、広告クライアントが違うことがあります。意外に、全国一斉に同じトルカを配信するというケースがないのです」(木下氏)

 もともとトルカは、電子クーポンなどで使われており情報の地域性が高い。広いエリアを対象にする面的な広告よりも、特定の店舗やターゲットとする商圏向けに配信したほうが効果的だ。例えば、あるファストフード店の割引が受けられるトルカを配信するにしても、その店舗がないエリアに配信するのは無駄になる。

 ただ、同じ番組であっても配信するトルカを地域によって変えたり、ユーザープロファイルに応じたトルカを配信することが将来実現すれば、日本全国を対象にした新たなマーケティングツールに成長する可能性があるだろう。

 最後に、ワンセグとトルカあるいはそれ以外の付加機能を組み合わせた取り組みの今後についても聞いてみた。

 「生活インフラの一部として、“ケータイでテレビを見て終わり”ではなく、お店に行くとか、お店でクーポンを取得して、ネットのサイトからアクセスするとか、携帯に触ったあとに行動するとか、“行動した先に携帯が待っている”といったように“生活をつなげていく”ことをドコモは積極的にやっていきたい。その中で、ワンセグを見たらクーポンが入ってきてお店に行って、iDで決済してもらえたらうれしいですね」(中山氏)

 「iコンシェルにはトルカを更新する機能が付いているので、放送で一度配布したトルカを、iコンシェル契約者に関しては取得したあと、自動的に更新するなどして、別の価値を提供することも考えています」(吉田氏)

 民間放送にしろ通信サービスにしろ、広告収入が重要な役割をもつことは今後も変わりないだろう。ワンセグという新たな放送は、ケータイという最も個人に近い通信ツールとともに普及した。まさに、放送と通信を融合した新しい広告ビジネスが生まれるのにふさわしい存在に成長したといえるのではないだろうか。

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