ケータイで「大人に見えない価値を武装する」――「東のエデン」神山監督インタビュー(2/2 ページ)

» 2010年01月25日 11時13分 公開
[山田祐介,ITmedia]
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新しいインフラで「武装」する若者

 クリエイターの空想に迫るような進化を遂げている次世代の技術に対して、神山監督は「発明しちゃったけど使い方自体はいかようにもある、一番面白い時期」と考える。そして「東のエデン」の世界もまた、東のエデンシステムという生まれたてのインフラが物語を盛り上げる。ケータイメールが登場したとき、その利便性にいち早く順応したのが中高生だったように、東のエデンシステムに価値を見出すのは若い世代だ。

 「新しいインフラが生まれた時、上の人間は既得権を守るために、過去と同じように自分たちのルールでインフラを整備しようとする。それに対して若い人たちは、上の人間に見えないように世界を広げていく。それが『東のエデン』におけるARです。ケータイを通じて、大人には見えない世界がそこにあって、若者が大人に見えない価値を“武装”している。そんな考えで物語を描きはじめました」(神山監督)。ARに関しては本編で描き切れていない部分があるというが、「もし『東のエデン』の世界が続いていくとしたら、その部分を掘り下げていく可能性はあると感じた」と神山監督は話す。

photo 作品を生みだすにあたっては、「ネットを使って、“石ころぼうし”になる方法はないか」といった議論も交わされたという。「石ころぼうし」は「ドラえもん」に登場する、被ると周りから自分の存在が認識されなくなるひみつ道具のこと

 さらに神山監督は、こうした次世代のインフラが成熟した未来にも思いを巡らせる。「“一番面白いとき”が過ぎ、雨降って地固まると、それは“単なるインフラ”になっていく。例えば、かつて自動車は乗れるだけで特別なもので、最高にエレガントな産業だと思われていたが、今は人を移動させる手段として当たり前に存在し、特別な車に乗る必要はなくなってきた。誰でも運転できて、スキルで大金持ちになれるのはF1ドライバーぐらい。ITも将来的にはそういったものになると思うんです。その時に、誰がどんな風に“F1ドライバー”になるのか……プログラマーなのか、ハッカーなのか、いろんな意見があると思いますが、それを発明していかなきゃいけないと思いますね」(神山監督)

 すでに現実の世界でもモバイルやインターネットによるパラダイムシフトは起きているが、その恩恵が“当たり前のもの”としてあまねく受けられる世界が到来すると、どうなるのか――。神山監督は考えを語りはじめる。

 「情報を検索するサービスが一般化すればするほど、情報は均一化していきますよね? そうなるとスキルの特異性がなくなってくる。辞書機能が発達すれば、“英語ができるかどうか”はどうでもよくなるかもしれない。全員同じで、誰も得をしていない。既得権が取っ払われて、みんな同じスタートラインに立つということかもしれない。それが良いのか悪いのか分かりませんが……」(神山監督)。そして、そんな世界はクリエイターにとっても他人事ではない。

 「例えば、ニコニコ動画にアマチュアが映像を上げて、ある面ではプロが作るものより全然面白いこともある。その中で、プロがプロとして作品を生みだし続けることが難しくなってきている。だからプロもそれに対して危機意識を持たなければいけないし、アマはアマで発信する機会を得た次のステップとして、人と違うものを継続して生み出せるかというのが、問題になってくると思います」(神山監督)

 ミサイルという物理的な攻撃によるパラダイムシフトがもくろまれ、物語が始まった「東のエデン」――。世の中の“空気”に挑む姿は、劇場版第2部でどのように描かれるのだろうか。楽しみに待ちたい。

“ノブレスフォン”について、教えてくださいっ!

 さて、「東のエデン 劇場版 II Paradise Lost」に関して+D Mobile編集部として見逃せないのがノブレス携帯とは別に存在する“ノブレスフォン”だ。見た目はN-02Bということは分かっているが、果たしてどんな機能を持ち、そもそも誰が持っているのか……詳細はベールに包まれているが、神山監督によれば「全部のジュイスに入れるバックドア」のような機能を備えているようだ。また、「『ノブレス携帯が欲しい』という声に、何かしらの形で答えたい」という思いもあって、実際に販売されているN-02Bを採用したのだとか。筐体の形状をはじめ、ノブレス携帯の製品化が難しいのは明らかだが、モックアップではないノブレス携帯もぜひとも見てみたいところだ。

 また、映画の連動企画として神山監督直筆サイン入りのN-02Bが当たるキャンペーンも1月31日まで実施されている。端末は全部で3台と競争率は高そうだが、己の強運を信じて応募してみてはいかがだろうか。

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