警察庁調査に見る、コミュニティサイト児童被害の傾向と対策小寺信良「ケータイの力学」

» 2010年12月13日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 2010年10月28日に、警察庁が「非出会い系サイトに起因する児童被害の事犯に係る調査分析について」(PDF)という資料を公開した。いわゆる「出会い系サイト」には厳しい規制が課せられることになった結果、児童被害の割合は減少してきた。その代わりに、「非出会い系」と分類されるSNSやコミュニティサイトでの被害事例が増加している。今回の資料は、この非出会い系サイトでの被害者と被疑者の傾向を分析したものである。

 今回は上記資料を開いた上でお読みいただくと分かりやすいだろう。概要を簡単にまとめると、まず実際に福祉犯罪被害にあった児童の9割が、ケータイのフィルタリングに加入していなかった。しかしこれをそのままひっくり返して、フィルタリングさえしていれば被害に遭わないという単純な構図ではないだろう。

 1つ考えられる仮説としては、ケータイにフィルタリングを導入するぐらい、あるいは簡単にフィルタリングを解除させないぐらいの知識を持ち、子どものケータイ利用に関心を抱いている保護者の元では、福祉犯罪被害に遭う子どもは少ない、と言えるかもしれない。

 その裏付けとして、3ページ目にある「3 その他」の<親による指導状況>という項目に注目してみよう(本文中のページはPDFのページ数であり、資料に記載のページ数ではない点にご注意いただきたい)。ケータイの利用に関して「注意を受けたことはない、放任」が60%、そのほかサイト利用を親に話していない、ゲームサイトだと親に話していたなどを含めると、77%の被害児童の保護者は、子どものケータイ利用に関して関心がなかったという事実がある。

 もう1つ、10ページ目(資料の5ページ)の4のグラフ「被疑者と会った理由」について、「相談に乗ってくれる人、優しい人だから」が回答のトップで、21.7%となっている。わずかではあるが、2位の「お金、品物を得るため」を上回っているところも、余計にこの問題の深刻さを物語る。

 つまり、被害者は保護者から放任され、話を聴いてくれる相手も十分にいない状況でSNSサイトを訪れ、被害にあったというシナリオも考えられるわけである。孤独を埋める先としてのSNSのあり方というのは、ネット利用の1つの光の面ではあるのだが、そのすぐ裏側に影があることに子どもたちが気付けないケースも多い。SNS側もパトロールの強化など、子どもがダークサイドに落ちないよう取り組みを行なっているが、このデータを見ると、被害にあった原因のほとんどは親の無関心だ。ここを引き上げる努力が、もっとも緊急に行なわなければならない課題であろう。

ミニメールの監視がポイント

 もう少し資料に沿って分析を続けよう。被害者と被疑者の直接的なアプローチは、SNS内の機能である「ミニメール」で行なわれる。これを受けて業界では、すでに春頃から法的規制の前に自主規制として、ミニメールの監視を始めている。安心ネットづくり促進協議会内のコミュニティサイト検証作業部会での議論では、ミニメールといえども私信に当たるので、「通信の秘密」の原則に反するのではないかという意見もあった。しかしミニメールは、サイト登録者同士でしかやりとりできず、サイト内の独自機能と見なせることや、送信前に監視されている旨の注意を出す、ルールの変更を会員に徹底周知するなどの方法をとることにより、監視に踏み切った。

 筆者は同作業部会内で「メール」という単語が入るサービスでありながら監視されるという違和感や矛盾を無くすために、「ミニメール」というサービス名称ではなく、メールという言葉を含まないサービス名に変更してはどうか、という提案をした。これは大事なポイントだと思うのだが、そこまでは必要ないと判断されたのか、いまだミニメールというサービス名で継続しているようである。

 さて警察庁発表資料の2ページ「被疑者のミニメール利用状況」を見ると、96.5%の被疑者がミニメールから直接メールへと移行した上で、児童を誘い出しているのが分かる。さらに直接メールのアドレスは、ミニメールを使って伝えられている。ミニメールの監視についてはまだ始まったばかりであること、調査が今年上半期までであることから、まだ抑止効果が現われていないということだろう。これは下半期の調査も注目する必要がある。

 先行する取り組みとして、未成年者と犯罪者を結びつけないよう、すでに多くのSNSのミニメールは未成年者に対してある種の年齢制限を付けている。例えばモバゲータウンの場合は、18歳未満の利用者に対しては、年齢が3歳以上離れているユーザーとミニメールができない仕組みを早くから導入している。

 しかしこれの前提は、利用者が正しく年齢をサイトに登録している場合である。資料9ページのグラフによれば、被疑者側のプロフィール詐称が46.6%と約半数近く、その内訳は、年齢に注目すると合計で89.5%に上る。かけ算すると、被疑者全体の約41%ぐらいは、未成年者に接触するために子どもだと称してサイトを利用していることになる。

 年齢詐称というと、通常は子どもが大人のフリをすることを想像しがちだが、この場合は大人が子どものふりをして接触しているわけである。今後は大人の年齢確認を強化する必要であるという課題も、この資料から伺い知ることができる。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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