校務のIT化で得られるメリット、デメリット小寺信良「ケータイの力学」

» 2011年01月07日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 学校の校務のIT化について、少し長い視点で調べてみようと思っている。きっかけになったのは全く個人的な動機だが、娘の部活動だ。

 中学入学の頃こそ喜んで部活動に励んでいたが、次第に人間関係がうまくいかなくなっていった。つまらぬ嫉妬や確執が原因となって小さな派閥ができ、対立するような状況だ。まあそのぐらいは中学の部活にはよくあることで、筆者にも経験がある。ただスポーツではそれらの問題をオーバーレイする形の目標、すなわちみんなで強くなるとか大会で勝つといった目標があるから、乗り越えられる。そしてそこにコーチや顧問といった大人の目があり、指導があることで、それら子供の成長を支えていく。

 しかし古き良き学校の部活動も、我々が子供の頃とはだいぶ違ってきていると思った方がいいかもしれない。先生が忙しすぎて、ろくに部活動に出てこられなくなってきているのである。先生にとっては、もちろん必要な校務を優先せざるを得ないわけで、気にはなっているのだけど部活の子供と向かい合う時間が取れないということになってしまっている。

 残念ながら娘のケースは、子供たちだけでは人間関係の修復がうまくできず、結局部を辞めることになった。そこに大人の目が少しでもあれば結果は違ったのではないかという、じくじたる思いが残る結果となった。忙しすぎる先生、それはもちろん、子供の学習のためにさまざまな雑務をこなしてくれているわけだが、親の目が届かない学校内だからこそ、先生が子供たちをしっかり見ていてほしいという思いがある。

 少しでも先生たちの校務を楽にできないか。単純作業の時間を短縮して、子供と接する時間を多く取ってもらえないか。そういう形での校務ITの取り組みを行なっている学校を、取材している。

成績はどこまでIT化できるか

 先生方に聞くと、校務で一番時間が取られるのは、紙の処理であるという。すなわち宿題やテストの丸つけであったり、成績の集計といった紙から紙への転記、そして保護者への連絡事項など、学校から保護者への情報発信だ。

 テストの採点のIT化については、学校では一番賛否がある部分である。古くは共通一次、現在のセンター試験ではマークシート方式が導入された。言うまでもなく、採点の効率は大きく上がったが、ただ正解すればいいのかという部分での葛藤がある。

 特に現場で生徒を前に指導中の先生方にとっては、デジタル的にマルかバツか分かるだけではだめで、どのような思考の過程を通っているのかを見ることが重要となる。そして設問から導き出されるそれらの思考プロセスの見方は、先生個人個人の技のようなものがあり、なかなか共有できない部分であるという。

 一方で成績の集計に関しては、IT化の恩恵がある。通知表や成績表のようなものは、これまで先生の手元にある資料から一人一人に転記していた。これまでは成績を通知表に転記するだけで1週間かかっていたものが、半分程度まで時間短縮が可能だという。

 さらに期待できる部分もある。それは通知表、成績表という形にはまらない生徒の情報である。例えば小学校ぐらいの場合、各生徒のこんないいところがある、こんな優しいところがあるといった情報、あるいは家庭環境が複雑であるといった個人情報は、どうしてもこれまでの通知表のようなフォーマットからはこぼれ落ちてしまう。従来先生の個人的なメモでしか残っていなかったこれらの情報は、他の先生と共有することが難しかった。しかし、これらの事項の書き込みができるようなシステムで、情報を共有することができれば、学年が上がったときの担任の引き継ぎや、学校行事で学年全体を多くの先生で同時に見なければならない時など、よりスムーズに実行できるだろう。

 ただ校務のIT化は、試しにちょっと入れてみるということが難しい。入れてみてダメだったら、元に戻すことができるかという問題もある。公立校では各自治体のモデル校にでもならなければ試験運用はできないだろうし、仮にIT化を推進したい先生がいたとしても、やるかどうかは基本的に校長先生の判断になる。しかも公立校であれば、市や県で入れると決まれば同じシステムを一括導入することになる。だが公立校ならどこでも同じというわけではなく、地域ごとに細かく事情が違う。

 今回の校務のIT化の実際については、千葉県柏市立田中小学校の教頭、西田光昭先生にお話を伺っている。インタビューの詳細は安心ネットづくり促進協議会のサイトで公開しているので、ぜひご一読いただきたい。

 次回は学校からの情報発信と連絡網に関わるIT化の問題をとりあげてみたい。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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