KDDIが復旧対応を発表――今後の課題は停電と原発auも4月末までにほぼ復旧(2/2 ページ)

» 2011年04月08日 19時12分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
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復旧・復興に影を落とす福島原発

 KDDIの復旧活動に暗い影を落とすのが、東京電力の福島第一原子力発電所の問題だ。福島原発から半径30キロでは30局が停波しているが、避難指示や屋内退避指示がでているためKDDIも復旧活動が行えていない。この範囲については今後の規制を考慮しながら、順次復旧対応を行うという。

 また原子力発電所設備の屋内と、原発問題の対応拠点になっている福島県楢葉町トレーニングセンター「Jヴィレッジ」には、東京電力の支援要請に応じてフェムトセルなどの基地局4局を搬入した。付近にはKDDIの職員も近づけないため、事前にセットアップした状態で機材を引き渡し、原発内では東電の自社回線に接続して利用しているという。

基幹網、固定網にも大きな被害

photo 固定通信サービスも大きな被害を受けた。特に海底ケーブルも合計10カ所が切れたという

 今回の震災では携帯電話の基地局だけでなく、KDDIの基幹網や固定通信サービスにも大きな影響を与えた。

 同社の基幹網は、海底ケーブル、高速道路沿いの中継伝送路、電力網を使った中継伝送路と3重の体制を敷いていたが、海底ケーブルと高速道路沿いの中継伝送路が大きな被害を受けた。海底ケーブルは茨城沖3カ所、神奈川沖1カ所、銚子沖3カ所で切断されたが、回線の迂回措置などで通信障害は3月15日に復旧したという。さらに、仙台にある海底ケーブルの陸揚局も津波に被災して使えない状態になっている。

 福島県仲通りの東北自動車道に沿う中継伝送路も、道路と同様に寸断されてしまった。現在は仮設のケーブル敷設で復旧が進んでいる。KDDIではさらに増加するトラフィック容量に対応するため、秋田や新潟の高速道路沿いに新たな伝送路を敷いているという。

 固定通信サービスのauひかりやメタルプラス、au one net(ADSL)は、被災後に最大39万回線が使えなくなった。現在は99%復旧したが、それでも4097回線に影響が出ているという。また法人向けのVPN・専用線サービスなども、ユーザーの宅内設備が復旧していないため、439回線が復旧していない。なおKDDIが持つデータセンターへの影響はなかったという。

災害に強いインフラ企業を目指して

 KDDIは地震発生後の3月11日15時10分に、社長の田中氏を本部長とする災害対策本部を設置。16時50分には車載型基地局や電源車が出発し、翌々日未明の3月13日3時21分に最初の車載型基地局が稼働を始めた。

photo KDDIの震災に対する復旧・復興計画

 田中氏は「KDDIは通信をちゃんと提供しつづけることの重要性を認識しており、おおむね事前に作成していたBCPに基づいて進行できたと思う。初動も早く、順調に復旧したと認識するが、被害規模が想定以上大きかった」と話す。基地局の被災は事前に考慮されていたが、大規模かつ長期停電による停波、そして津波などで完全に喪失する点は想定外だったようだ。

 とくに携帯電話の基地局については、「基地局は3時間分程度のバッテリーを備えているが、それ以上は電源車を持っていかないといけない。今回のように広域で停電すると、すべての基地局をバックアップできないため、今後の検討が必要だ」(田中氏)と、電力供給に課題が残るとした。

 さらに、海底ケーブル/高速道路系/電力網という3つの基幹ネットワークのうち、海底ケーブルと高速系に大きな被害が出たことから、「3重のうち2つも切れることに憂慮している。他の地域も含めてリスクの見直しが必要だと思う」(田中氏)という。

 これまでの復旧活動には、KDDIと協力会社を含め750人が出動し、現在も100から200人が活動している。その中で一番苦労した点というのが、支援要員の移動や基地局車・電源車の稼働に使う燃料の入手だった。

photophotophoto 岩手、宮城、福島の復旧状況

 地震後は東京都内でもガソリン不足になったが、被災地はさらに入手しにくい状況だった。契約していた供給元でも在庫が切れたため、一時は秋田県側から手持ちのガソリン缶をピストン輸送し、金沢・大阪からタンクローリーを手配したこともあったという。田中氏は「復旧活動に必要な燃料、物資の不足が今回のポイントだったと思う。今後に備えて、それぞれの調達ルート整備が重要と認識している」と振り返った。

 なお、今回の震災によるKDDIの被害総額は「集計中だが数百億(100〜500億)になると思う」(田中氏)という。阪神・淡路大震災との比較については、「(DDI、KDD、IDO)の合併前で比較はできないが、当時は基地局数も少なかった。今回のほうが被害のインパクトが大きい」(田中氏)とコメントした。

夏の電力不足に備える

 本格的な復興を前に、KDDIがもっとも大きな問題と認識しているのが計画停電だ。東京電力は、6月初めまでは計画停電を原則実施しない方針だが、冷房などの電力需要が増える夏場の停電は避けられそうもない。

 田中氏は「基地局の新設よりも、停電の影響が大きい。現状から2〜3割の節電が目標だが、どのようにサービスを維持させるのか努力が必要だ」と話す。KDDIの設備のなかで最も電力を使うのが携帯電話の基地局であり、電力ピーク時に自家発電に切り替えるなど、消費電力を減らす方法を検討している。

 KDDIはソーラーパネルとバッテリーを備えたトライブリッド基地局を全国で11局設置しているが、建設に時間がかかかるため、復興時は通常の基地局を設置してあとでトライブリッド化するほうが望ましいという。

 そのほかにも、リモートアクセスによる自宅勤務を進める。KDDIでは震災直後は最低限の社員だけを出社させて業務を維持していたが、「BCPではさらに半分の出社で済む計画もあった。仕組み作りを進めて、業務の分散維持をさらに進める必要がある」(田中氏)と、今後の課題を挙げた。

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