スマートフォンはなぜ、「速度規制」されるのか神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2011年08月17日 17時43分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

ALT 『TOYOTAビジネス革命 ユーザー・ディーラー・メーカーをつなぐ究極のかんばん方式』

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/ 交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(COTY、2009年まで)、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める。

トヨタ自動車の豊田章男社長ほか、キーパーソンへのインタビューを中心にまとめた『TOYOTAビジネス革命 ユーザー・ディーラー・メーカーをつなぐ究極のかんばん方式』、本連載(時事日想)とITmedia プロフェッショナルモバイルに執筆した記事をまとめた『次世代モバイルストラテジー』(いずれもソフトバンククリエイティブ)も好評発売中。


 8月15日、KDDIがauスマートフォン向けの通信速度制御を10月1日から運用すると発表した(参照記事)。詳しくはニュース記事に譲るが、これはスマートフォンで大容量通信を行ったユーザーを対象に、通信速度を低く抑えるというもの。具体的には、直近3日間(前日を含む3日間、当日は含まない)の利用パケット数が300万以上のユーザーの通信速度を制御する。

 今回、KDDIがスマートフォン向けに通信制御を導入することにより、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの大手モバイル通信キャリア各社はすべて通信速度制御を実施することになった。また、各キャリアの幹部が、スマートフォンの普及を理由に「パケット料金定額制の見直し」に言及することも増えている。

 なぜ、このような状況になっているのだろうか。

スマートフォンがインフラの収益バランスを崩す理由に

 スマートフォンは一般的に、これまでの高機能型携帯電話(フィーチャーフォン)よりも2〜4倍の通信量(トラフィック)を発生させる。これはWebブラウザやアプリの仕様が高機能になり、よりリッチな通信サービスの利用が可能になったからというのが表面的な利用だが、根本的な「違い」はスマートフォンとフィーチャーフォンの作り方の部分にある。

 従来のフィーチャーフォンは、ハードウェアとソフトウェアが一体的に開発されていた。さらに日本ではフィーチャーフォンの開発計画は、キャリアの要求仕様書に基づいて、キャリアとメーカーが共同で推進するのが一般的だった。そのためフィーチャーフォンには、「キャリアのインフラ投資計画を見ながら、インフラに過度な負担を与えたり、収益バランスを崩さないように配慮されて作られてきた」という経緯がある。

 一方スマートフォンは、ハードウェアよりもソフトウェアの進化の方が速く、OSやアプリといったソフトウェア部分だけ独立的に進化する。さらに、これは主要なソフトウェア部分の仕様や機能を作るのが、AppleやGoogleといったグローバルなIT企業であり、彼らは個々のキャリアの要望は聞けど、端末の開発計画で特定のキャリアの支配を受けることはない。誤解を恐れずにいえば、個々のキャリアのインフラ投資計画や収益バランスなどお構いなしに、スマートフォンに新たな機能やサービスを実装しているのだ。さらにアプリなどソフトウェアによる機能拡張も自由に行われるため「キャリアのコントロール外でトラフィックが増えていく」という構造になっている。

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