大画面がいい、でも片手で操作したい――二律背反に挑戦したパナモバ初のスマートフォン「P-07C」開発陣に聞く「P-07C」(1/2 ページ)

» 2011年09月05日 10時30分 公開
[今西絢美,ITmedia]

コンセプトは「マイ・ファースト・スマートフォン」

 パナソニック モバイルコミュニケーションズ(以下パナソニック モバイル)が、NTTドコモの2011年夏モデルとして「P-07C」を発売した。他社の動きから見れば、同社のスマートフォンはやや出遅れた感もある。そこでコンセプトに掲げてきたのが「マイ・ファースト・スマートフォン」。実際、CMや広告には若い女性に人気のある女性モデルを起用したり、女性誌とのタイアップを展開したりと、スマートフォンへの乗り換えを検討している女性層に訴えかける、効果的なプロモーションを行っている。

 ハイスペックな端末を求める男性ユーザーが多い中、なぜ女性に絞った戦略を取ったのか。また、そのような女性層のハートをつかむためにどのような工夫を施したのか。商品開発センター プロジェクトマネージャーの村本武志氏と、商品企画グループ 商品企画チーム 主事の池田大祐氏、ソフト設計グループ 主任技師の日高淳氏に聞いた。

photophoto パナソニック モバイル初のスマートフォン「P-07C」。ボディカラーはBlackとWhite(写真=左)。左から池田大祐氏、村本武志氏、日高淳氏(写真=右)

最後発をいかにプラスに転じるかが課題

photo 村本武志氏

―― まず、端末のコンセプトを教えください。

村本氏 P-07Cはパナソニック モバイルとして初めてのスマートフォンで、“女性向けのスマートフォン導入機”を目指して開発しました。もともと、スマートフォンはガジェット好きな人が手に取るアイテムでしたが、2011年に入ってその裾野はかなり広がっていて、今後さらにユーザーが増えるであろう女性層にターゲットを絞りました。あと、弊社はかねてから女性向けのフィーチャーフォン(従来のケータイ)の開発を得意としていたことも、女性をターゲットにした理由の1つですね。

池田氏 企画自体は2010年の3月くらいからスタートしています。実はiPhone 3GSが発売された2009年あたりからスマートフォンの動向をチェックしていて、当時のソフトバンクではiPhoneがかなりのシェアを占めていました。そして、流れを追い続けると、半年間で女性の比率が急激に増えていったんです。このデータを見て、今後2年の間にユーザーの裾野が広がり、女性が普通にスマートフォンを欲しいと思うような世界になるだろうと仮説を立てました。

村本氏 もちろん、企画を立ち上げた当初は社内で「デジタルが好きな人たちに向けた端末を出して他社とガチンコ勝負をしたほうがいい」という意見もありました。しかし、スマートフォン最後発となってしまった弊社としては、女性向けという新たなジャンルを他社よりも先に押さえたかったんです。

池田氏 実際、企画している時点ですでに「Xperia SO-01B」が発売されていました。その中でスマートフォンの1号機をパナソニックから出していくとなると、マイナスの部分がかなり大きいと私たちも認識していたんです。マイナスの要素がたくさんある中、いかにしてそれをプラスに持っていくかが大きな課題でしたね。

大画面ならではの使いにくさはUIでカバー

photo 池田大祐氏

池田氏 ターゲットを女性に絞ったのであれば、自分たちがP-07Cの女性への提供価値をどれだけ追求できるかが勝負だと思っていました。その中で女性のニーズ調査をしていくことで、これまで気づかなかった3つの不満点が分かったんです。

―― どういった点を女性は不満に感じていたのですか?

池田氏 1つ目はデザインです。これまでのスマートフォンはビジネスマン向けで、黒くて四角いカタチのものが多く、かわいらしさはまったく感じられませんでした。実際、当時はキャリアからも男性ユーザーからも薄くて多機能な端末を求められていました。

 しかし、女性にヒアリングしてみると、そういったことが重要なのではなく、デザインのかわいらしさや手に持ったときのなじみやすさなど、スペックではない感覚的な部分を重要視する声が挙がりました。実際に出来上がったP-07Cの厚さは14ミリ。本当はカタチを真四角にしてしまえば、もっと薄型にすることはできたんです。そこを、あえて丸みのある形状や有機的なラインなどを採用することで、これまでのスマートフォンとは差をつけました。フィーチャーフォンのように、スマートフォンをデザインで選べることを目指した結果なんです。

photophoto 2色のラインをあしらった側面もデザインのポイントだ

 2つ目は、ケータイのように片手操作ができなくなることです。私たちはこれを解消するために「タッチスピードセレクター」を考案しました。自分の指が届く範囲でメニューを選択できて、左右の切り替えもできます。これは「LUMIX Phone」に採用していたスピードセレクターを土台にしていて、あのクルクル感をそのままタッチにしてみました。

 あと、片手でメールが打ちたいという意見に対しては、キーパッド自体を自由に拡大縮小できる「フィットキー」で対応しています。フィーチャーフォンに搭載されている物理キーにも良さはありますが、自分の手に合ったキーを作れるのはスマートフォンならではの良さだと思いますね。

 3つ目は、SNSやWeb検索を大画面で楽しめるようにしてほしいという声でした。小さいものを作れば手にはフィットするのですが、いろいろな液晶サイズの試作機を作ってヒアリングすると、「スマホを買うなら大画面がいい」という意見が多かったんです。4.3インチならPCの画面サイズにより近く、でも手には収まるギリギリのライン。これなら一番いいとこ取りができるサイズだと思いました。

photo ホーム画面に配置されたアイコンをまとめて確認できる「タッチスピードセレクター」。親指でフリックして操作する。画面は右手用。逆方向に表示される左手用もある

―― 女性向けであっても大画面なのはマイナス要素ではないということですね。

村本氏 そこは二律背反だと何度も言われました。ただ、画面を小さくすることで、4.3インチの大画面でワンセグやYouTubeを見られるといったメリットをなくしてしまうわけにはいかなかったんです。大画面を生かすために、タッチスピードセレクターやフィットキーといったUI(ユーザーインタフェース)の面で使いにくさを補完しているつもりです。

池田氏 我々が男性ばかりだったので、とにかくたくさんの女性の意見を聞くことを繰り返しました。皆さん好き勝手に言いますが(笑)、それをまとめると「画面は大きい方がいい。多少大きくても、持ちやすさやデザインがかわいい方がいい!」という声が多かったんです。我々としては、どこが本質かをしっかり見極めることができたと思っています。

ユーザーの未来をちょっと追加してあげる「Future Plus」

―― P-07Cには「Future Plus」というオリジナルアプリもプリインされていますね。

池田氏 最近はSNSへのニーズが高まっており、よりハードルを下げようという意図で「Future Plus」を開発しました。メール、Twitter、Facebook、mixiといったコミュニケーションアプリを1つにまとめているので、それぞれのアプリを起動しなくても1アプリで操作できるようになっています。

 このアプリはターゲットユーザーである女性の1日の使用イメージをヒアリングして作っているんです。結局、ケータイを触る時間というのはみんな決まっていて、朝起きて天気予報を見たり、会社に行く電車の中でニュースやSNS、メールを見たりします。夕方はご飯を食べに行くのにレストラン検索を使ったりもするでしょう。ということは、情報を少し先回りして提供してあげる、つまり未来を追加してあげるといいのではと思ったんです。なので「Future Plus」という名前にしました。

 SNSのタイムラインの中に周辺のオススメレストラン情報が出てくることで、「じゃあ今日はちょっと飲みに行かない?」というようなコミュニケーションの連鎖が生まれるのではないかと思っています。さらには終電案内を表示したり、到着駅に近づいたらアラームが鳴ったりと、おせっかいなところまで配慮しています(笑)。

―― 開発陣には女性がいないと聞いていますが本当ですか?

池田氏 はい、ほぼアラフォーの男性ばかりです(笑)。ただ、フィーチャーフォンの女性向けモデルやスライドモデルで培ったノウハウを生かしたり、分からないことは素直にターゲットユーザーである女性に意見を求めたりできたので、男性ばかりでも問題はなかったですね。

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