そして迎えたプロジェクト本番当日の7月15日。早朝の3時に起き、3時半にモーテルを出発した。あたりは真っ暗でレストランの看板以外は電灯がいくつかあるくらい。曇りなのか、空を見上げても星はあまり見えなかった。この暗闇の中を再びブラックロック砂漠へと車で移動する。前日は砂漠の中で方向を間違えそうになったが、当日はまだ日の上がらない暗闇の中を走っていたため、遠くに小さい明かりが見えていた。
中継本部に到着したのは早朝4時。すでにスタッフは本番に向けて最後の準備をしていた。全員がおそろいのつなぎを着ており、まるで宇宙服のように見える。もしも知らない人がここに来たら、NASAが何かやっていると勘違いしてしまうかもしれない。スタッフの眼差しも前日よりも真剣さが増しており、リハーサルよりも緊張した空気が流れていた。取材班もなるべく邪魔にならないよう、日が昇るまでは控えの車の中で待機することにした。
ところが4時半ころ、車の天井から「ポツ、ポツ」という音が聞こえてくるではないか。そして車の窓ガラスには水滴、なんと雨が降ってきたのだ。この日は雲が多いとはいえ、天気予報は晴れ。そして夏のネバダは滅多に雨が降らないという。スタッフの間にも緊張が走り、「ネバダでネバーなことが起きた」とかベタな冗談を言えるような雰囲気は一切なかった。幸いにしてすぐに雨は止んだものの、JP AEROSPACEのスタッフによると「これくらいの雨なら気球の打ち上げには支障はない」とのこと。だが雨でカメラやGALAXY S IIの画面が濡れてしまい、メッセージをうまく撮影して配信できない恐れもあっただろう。
5時前には日も上がり、あたりは少しずつ明るくなってきた。Ustreamの配信は4時45分から開始され、カメラクルーも動き始めるなど、付近一帯は急に慌ただしくなってきた。5時半にはすっかり明るくなり、中継本部の様子やサムスンテレコムジャパン 富沢部長のあいさつなども現地カメラから中継が行われた。天候は雲が多いものの風は少なく、気球の打ち上げとしては絶好なコンディションとのことだ。打ち上げ10分前には気球にプラットフォーム部分が取り付けられ、あとはカウントダウンを待つのみ。そして打ち上げ1分前、空を覆っていた雲の一部に切れ目が現れ、急に青空が見えたきた。打ち上げるにはまさしくベストなタイミングだ。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ」。本番のカウントダウンの後、気球は一直線に上空へと上がっていった。前日のリハーサルでは風の影響で横に流されてしまったが、本番では真上に上がるや急速に上空へと気球は消えていった。これは打ち上げとしては大成功といえるだろう。日本の東京・六本木で行われたイベントでも大きな歓声で沸いたようだが、現地ではスタッフの間にようやく安堵の表情が見られた瞬間だった。
この後は気球からのUstreamの配信が始まるとともに、万が一のトラブル時に備え、予備として打ち上げる気球の整備も急ピッチで行われていた。幸いなことに気球は全くトラブルなく上昇を続け、映像の配信も前日よりも乱れは少なかったようだ。また雲が多いため気球を双眼鏡で追いかけるのは難しそうだったが、風が弱いために気球の動きはむしろ追いやすいようでもあった。こうしているうちに気球は高度3万メートルの成層圏に達し、無事ミッションを終了。気球が破裂し地表への帰路に着いた瞬間、ようやく全スタッフの表情に笑顔が見られた。
打ち上げはあと2日間あるため、初日の全工程が終わった後もスタッフは翌日の準備に追われていた。また午後にはモーテルに戻って反省会を行うなど、全スタッフが一丸となってプロジェクトを最後までやり遂げようという真剣な姿勢が見られた。初日の成功もこれらの積み重ねがあってこそだろう。“みんなの希望を宇宙に”をコンセプトに行われたSpace Balloon プロジェクト。希望の声はしっかりと届いたのではないだろうか。
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