今なぜ「いつでもお遍路」なのか――KDDIとカヤックが生み出した“新しいお遍路の形”(1/3 ページ)

» 2012年06月05日 00時00分 公開
[園部修,ITmedia]

 KDDIが5月1日、1本のAndroidアプリをリリースした。「いつでもお遍路」と名付けられたそのアプリは、日常のウォーキングの行程をお遍路になぞらえて、楽しみながら実際に四国の各地を訪れているかのような気分を味わえる、ユニークなアプリだ。

 機能もかなり細かく作り込まれており、AndroidスマートフォンのGPS情報を利用し、実際に歩いた距離と連動して88カ所の札所を巡る。お遍路は、実際に歩くと約1400キロほどの距離があるが、さすがにそれをそのままたどるのでは、途中で挫折する人も多くなってしまう。そこで1400キロを歩くコースは「上級編」とし、実際の10分の1の約140キロで全行程が巡れる「初級編」を用意。さらに1番札所から88番札所を巡る「順打ち」と、88番札所から1番札所までの逆向きで回る「逆打ち」も選べる。

 また「巡トモ」といって、巡礼している他の“お遍路さん”仲間と定型文をやり取りするコミュニケーション機能も用意。実際のお遍路でも行われる励まし合いをアプリ上でも再現した。また巡礼の状況はFacebookやTwitterに投稿して他のユーザーに知らせることも可能だ。お遍路のコスチュームは、札所を巡ってスタンプを集めると徐々に増える仕組みで、設定で適宜着替えられるのも楽しい。四国の観光案内や名産品情報、札所の詳細情報、そして歩いた距離に応じた消費カロリーの表示などもあって、いろいろな楽しみ方ができる。

 リリース当初はauスマートパスのユーザー向けに限って提供されていたが、6月1日にはGoogle Playでの無料配信も開始し、より多くの人が利用できるようになった。

 しかし、「なぜKDDIがお遍路?」という疑問は、多くの人が抱いたことだろう。その謎を解き明かすべく、KDDIと、開発を担当したカヤックに話を聞いた。

Photo 「いつでもお遍路」開発に携わったメンバー。前列左からカヤック 閃光部 CREATORの小川慧氏、企画部 CREATORの綿引啓太氏、企画部 CREATORの村上真実子氏、意匠部 CREATORの田島絹絵氏。後列左からKDDI 新規ビジネス推進本部 事業開発部 アライアンスビジネスグループ 課長補佐の内藤弘行氏、コンシューマ営業本部 コンシューマ四国支社 営業部 販売促進グループ 課長補佐の前田かおり氏、新規ビジネス推進本部 事業開発部 アライアンスビジネスグループ 課長補佐の竹村信彦氏

四国支社での飲み会がすべての始まり

 いつでもお遍路アプリのプロジェクトで、中心的な役割を担ったのが、KDDI コンシューマ営業本部 コンシューマ四国支社 営業部の前田かおり氏と、KDDI 新規ビジネス推進本部 事業開発部 アライアンスビジネスグループの竹村信彦氏だ。

 前田氏が所属する営業部とは、「契約数や端末の販売台数をいかに伸ばすか」を考える部署で、もともとはアプリの開発などとは縁がない部門だった。しかし、コンシューマ四国支社内では、端末の販売による利益やデータARPU、音声ARPU以外の収入を得ていくために、独自のAndroidのアプリなどを開発し、販売していくことなども検討していた。特に前田氏の上司がアプリ開発に強い関心を持っていたという。

 そんなとき、竹村氏が出張で四国を訪れた。竹村氏は、KDDIの中で「地域と連携した取り組み」を多数手がけていた。業務後の飲み会で前田氏の上司から、「お遍路アプリが作りたい」という要望を聞いた竹村氏は、「宴席のこと」とその要望を受け流すのではなく、東京に持ち帰って真剣に検討を始めた。

 その頃KDDIは、北海道じゃらんとの共同キャンペーンとして、冬の北海道観光を楽しめる“面白ルート案内アプリ”「おまかせルートde北海道」のプロジェクトを準備しており、開発を担当したカヤックとつながりがあった。そんな縁もあって、竹村氏はカヤックのスタッフとお遍路アプリについてのブレストを行った。「カヤックさんはアイデアが豊富で、いろいろな切り口でいろいろな提案をしてくださいました。だからお遍路アプリもぜひカヤックさんと一緒にやりたいという思いがあって声をかけました」と竹村氏は当時を振り返る。

紆余曲折の末、auスマートパス向けのアプリとして開発

 こうしてお遍路アプリの企画が、KDDIとカヤックによって進められることになった。しかし、リリースまでにはいくつものハードルがあった。例えば、アプリを開発したとして、その投資をどうやって回収するのか、という問題だ。

 お遍路アプリは当初、アプリの販売を通して収益を得ることを考えていた。だが、有料のAndroidアプリで成功しているタイトルはあまり多くなく、大きな売上を上げているのはアイテム課金型のゲームが中心だ。アイテム課金の要素を盛り込んだアプリとなると、どうしてもゲーム性が強くなり、お遍路ではない方向に向かってしまう。

 「もともとお遍路は“修行”ですから、ストイックなもののはずです。それなのに、アイテム課金で売上を上げるようなものにしてしまうのはよろしくないと考えました」(竹村氏)

 前田氏らコンシューマ四国支社でも、ゲームではなく「純粋なお遍路を題材にしたものがいい」とリクエストしていたため、どうやって売上を上げるのかは大きな問題となった。

 「最初は四国の88カ所を巡るので、88円で売ろうというアイデアがありましたが、開発費を回収するには、かなりの本数を買っていただかなくてはいけません。また、お布施としてアプリ代をいただいてはどうか、という意見もありましたが、KDDIが受け取るのはお布施ではなく売上ですから、これも採用できませんでした。当然ながら投資には費用対効果が求められるので、明確な効果を説明できないのに無料のアプリを作ることもできませんでした」(前田氏)

 地域でのプレゼンス向上や、地域社会への貢献というCSR(企業の社会的責任)の観点だけでは、費用に応じた効果として打ち出すのは難しい。ここでプロジェクトは一度暗礁に乗り上げてしまった。

 ところが、月額390円でさまざまなアプリを提供する「auスマートパス」の登場により、お遍路アプリに光明が差す。お遍路アプリを、auスマートパスのアプリ取り放題のラインアップに加えることで、「auスマートパスの拡販につなげる」という説明が可能になったからだ。

 「auスマートパスの会員を獲得し、認知を広げるためにもぜひお遍路アプリを開発したい」と前田氏は上司を説得し、開発が決まった。「auスマートパスがなければ、いつでもお遍路は生まれなかったかもしれません」(前田氏)

 お遍路アプリのプロジェクトにゴーサインが出たのは2011年の12月だったという。その直後に、カヤックを含む開発会社数社とコンペを実施し、年末ギリギリのタイミングで最終的にカヤックが提案した企画と金額で開発することが決まった。

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